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文:藤井咲希
近年、世界的に増えている乳がんの罹患率。日本は欧米に比べて少ないとされてきたが、年々増加傾向にあり、今では女性がかかる割合が最も多いがんになっている。
そんな乳がんに打ち勝てると期待される治療法を先月21日、米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームが学術誌『Science Translational Medicine』にて発表した。
乳がん細胞を死滅させる新たなアプローチ
研究チームがマウスに新たな化合物「ErSO」を投与したところ、乳がん細胞および脳、肺、肝臓、骨などへの転移したがん細胞を含めて95~100%死滅。さらに、大きな腫瘍も検出できないサイズにまで急速に縮小させることに成功した。
乳がん細胞の多くは女性ホルモンのエストロゲンの影響を受けて成長するため、現在の治療法のひとつであるホルモン療法では、患者の体内のエストロゲンの産出を抑制したり、エストロゲンとエストロゲン受容体の結合を邪魔したりすることで、乳がん細胞の増殖を抑える手法を取っている。しかし、エストロゲンがなくなっても乳がん細胞はさまざまな変異を起こすため、治療が非常に難しくなるという。
今回の研究で使用した化合物「ErSO」は、エストロゲン受容体と結合することでがん細胞を急速に成長させようとし、同時にストレスからがん細胞を保護するa-UPR経路も反応。このa-UPR経路を過剰に活性化させることで、がん細胞を効率よく死滅させるという新しいアプローチを取った。副作用も最小限に抑えることが可能だ。
また「ErSO」の投与後、少量のがん細胞が生き残り、数カ月掛けて腫瘍が再生したとしても、「ErSO」の再投与で効果を上げることができるとしている。
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