「毎日満員電車や通勤渋滞に悩むのやめにしませんか?」
―― 若干話が変わりますが、テレワークは地方、そして製造業での導入の動きが鈍いという調査結果も時折見受けられます。先日、沢渡さんが講演スライドのダイジェスト版を公開していましたが、中でも「地方都市の問題地図」は、日本全国で起こっている数多の課題を1枚のスライドで表現した、ものすごい力作だと思いました。
沢渡:ありがとうございます。確かにあれは地方都市で色濃いだけであって、東京でも大阪でも起こっている話なんですよね。
―― そうした中で地方企業の皆さんに対する最初のメッセージとして「(テレワークを導入することで)毎朝毎晩、皆で仲良く渋滞で苦しむの、そろそろやめませんか?」と打ち出すのは、少なくとも現場社員にとってはものすごく刺さる言い方なんじゃないかと感じました。
沢渡:地方企業に関して言うと、例えば下請けベースで利益率がどんどん悪くなっていく、利益率を改善したいと社長は思っているわけですよね。そこで「どんどんデジタルシフトを進めて地域外のお客さんを増やしましょうよ」というようなロジック展開は社長の理解を得られやすいんです。あるいは、社員の定着率に問題があると社長が考えている場合、「であれば事務職からだけでもフルリモートワーク可能にして他地域の人を採るのはどうですか?」と提案もできる。
ここで一番厄介なのが、そこそこ就職人気があって事業規模も維持できている中堅企業。都市部と比べて給料が安くても地元では名前が通っていて親も安心するし、実家で親と同居していれば当面の生活には困らない。
とはいえ、こういう企業も5年後ぐらいにどうなっているかはわかりません。浜松でも実際に起こっていることですが、地元の有能な人材はフルリモート可能な東京の会社に転職する。仕事内容がほぼ同じで給料が2倍、3倍だったら、わざわざ地元の企業に勤める合理性はなくなりますよね。。
ここまでお話ししたのが「経営者に対する訴え方」ですが、「現場社員に対する訴え方」を考えると、さっきの「通勤時の渋滞に悩まされるのは辛いですよね」「テレワークを進めて固定電話が鳴らないオフィスを目指してみませんか?」という言い方だとメリットがイメージしやすいですよね
―― 仕事中にかかってくる電話は、本当に集中力が削がれますよね(笑)。
沢渡:そうそう。一度「そうか。電話って無駄なのか。問題視してもいいのか」と心にアンテナが立つと、次の瞬間に職場に対する見方が変わります。翌日出社してから「どれだけ電話が鳴っているんだ、この会社は」「これって問題ではないか?」と感じるようになります。
それがテレワークやチャットツールの導入を進めることで「電話を受ける回数が減るとこんなにも作業に集中できるんだ」「いつも机に大量に貼り付けられていた『◯◯さんから電話がありました』の付箋メモがほとんどなくなった」など成果も見えやすい。「テレワークが進むとエレベーター前の混雑もなくなりますよ」という話をしたこともありますが、「あれは地味にストレスだったんだよな」と共感を得やすかったです。いわゆる「慣れた不便」に気づくことも、中からの改革への第一歩ですね。
内向きな社員ばかりの組織でも、チャンスを与えれば最低2割は変わる
―― 沢渡さんの講演を聞いて、早速実行してみましたみたいな会社はあったりしましたか?
沢渡:事例はいくつもありますよ。人事と税理士がタッグを組んで提出書類の捺印を8割削減した大企業もありますし、社内でのメールやり取りをSlackに置き換えた会社もあります。
先に、社内の固定電話の例を挙げましたが、チャットツールに自分の都合のいいタイミングで書き込んで、相手の都合のいいタイミングで返す非同期のコミュニケーションを取ることによって、相手の都合のいいタイミングを見計らう気づかい、待機時間にどれだけ無駄が多かったんだという、慣れた不便に気づいた話なんですね。小さな変化を起こしてみて、慣れた不便に気づいていく。
まずは慣れた不便に名前を付け、共感者を見つけて小さく始める。そこから新しい世界の気持ち良さを広めていく。そんなアプローチがいいのかな。社内だけで解決しなければ社外の人と話をしてもいいじゃないですか。「他社はこういう取り組みと改善が生まれていますけど、うちはヤバいっすよ」という話をするのも良いと思います。
私も「組織変革Lab」という月額固定の組織変革顧問と越境学習のサービスを始めました。月に1回、オンラインで組織を中から変えていきたい企業の担当者が集まってワイワイ議論しています。会社が違う人たちがつながり合うことによって、「あ、このやり方はうちでももらい!」とネタを融通し合う越境によってお互いに武器を得ているんですね。皆様にも是非ご参加いただきたいのですが、変革したい思いを持つ人同士が企業や組織を越えて共感しあう場は、本当に清々しい。
社外に答えを求める。社外に共感する人をつくってお互いに応援し合うというやり方は、動きにくい組織を外の風を使いながら変えていく一つの外堀戦略になると確信しています。
―― 今回のインタビューでも「研修機会もほとんど無ければ外部の人と交流もしていない中堅層」の話があったかと思いますが、そうした人が「では今後はやっていきましょう」となっていきなりできるものなのでしょうか?
沢渡:私の肌感覚で言うと、内向きな感覚の組織、旧態依然の組織でも、2~3割の人はきっかけを与えれば変わります。
ある大手メーカーの経理を10年以上やってきた女性がマーケティング部に移って、社外の新規顧客やビジネスパートナーを開拓する業務に異動したところ、水を得た魚のように生き生きしだして、そこからどんどん新しいコラボレーションや行政との連携プロジェクトが決まっていった例を目の当たりにしたことがあります。
これは上長にも見る目があったのだと思いますが、何か世界を広げるとか、あるいはスキルアップの武器を持たせると、そこから如実に変わっていく人は確実にいます。今日のインタビューで「ITや育成に投資する、あるいは何か風穴を開けるきっかけをつくってください」とお話ししたのはそういう意味です。社員が固定化してしまう、社員が内向きになってしまうのは、今までの仕事のやり方や仕組みがつくってしまっている部分が8割なのです。
―― 「どうせうちの社員にはできない」なんて始める前から諦めていてはいけないということですね。
沢渡:そうです。もともとオープンマインドな人もいますし、あとは中途採用とか、あるいは新卒でも最近は学生時代からインターンをした経験がある、ITを使って外の人とつながる経験に長けた人も多いですから、そうした今までとは違う人材を取り入れていくことも良いと思います。
冨山和彦さんが「L字経済」という言い方をしていますが、日本の企業の8割が中小企業で地域を支えている。でも、そこが変わっていかないと日本は沈むと思っていて、その意味でも私は地方を煽っていくというか、地方の心の解放やマインドシフトを促していくことに力を入れています。
先にお話しした「2割の社員は武器を与えれば変わる」の層をさらに3割、4割と増やしていけば間違いなく地方の下請け安月給モデルではない、高利益体質の企業がもっと増えると思いますし、そのためにもテレワークみたいなものも大事だなと思うわけですね。
良さは良さで残しながら高利益体質など正しくアップデートしていくやり方に変えていかなければ、無責任に地方創成の予算を使って結局何も残らない、これまでの現状が続くだけです。地方の貴重なお金や人的リソースを、飲み食いお祭りで使って結局は何も残らずみたいな話はもう止めにしたいですよね。
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