あの伊勢丹が、世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット4」にて、「仮想伊勢丹新宿店」を出店。バーチャル世界に誰もが知っている「百貨店」を文字通り建ててみせ、さらには店内での買い物まで再現してみせた。仕掛け人は株式会社三越伊勢丹の仲田朝彦氏だ。
プロジェクトスタートのきっかけや、会社員としてどのようにプロジェクトを実現に導いたかを訊いた前編に引き続き、後編ではでは実際にバーチャル伊勢丹を通じて感じた手応えや、仲田氏が考える「アナログ的DX」のこと、そしてこれからの展望について深掘っていく。
前編はこちら
聞き手・文:赤井大祐 画像提供:株式会社三越伊勢丹
仲田 朝彦(なかだ ともひこ)
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1984年4月3日生まれ。東京都多摩市出身。早稲田大学 政治経済学部 経済学科卒業。2008年株式会社伊勢丹(当時)に入社後、紳士服担当として店頭・バイヤー業務を経験。2019年三越伊勢丹 MD統括部 シームレス推進部、2020年三越伊勢丹ホールディングス チーフオフィサー室 関連事業推進部を経て、2021年より三越伊勢丹オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部(現職)。
百貨店のノウハウが使えるかもしれない
―― 「バーチャルマーケット4」にて、本格的にバーチャル伊勢丹を出店し、実際にお客さんが買い物を体験されていました。手応えとしてはいかがでしたか?
仲田:想像していた以上によかった点は「当社の接客技術を使えた」ということ。そしてもう1つが店内装飾への反響がかなり大きくて。
これがその時の画像です。お客さまからはまず「わぁ!伊勢丹だ!」って驚いていただけて。
――バーチャル世界でリアルのものを見かけると嬉しくなってしまいますよね。
仲田:それで、この時はリアル世界にも存在する商品をバーチャル内に展示販売していたので商品自体の魅力でも勝負できるだろう、と思っていたのですが、それ以上に伊勢丹風に展示していたことによって「商品の魅せ方がさすが」という声を予想以上にいただきました。
嬉しかったのですが冷静に考えると、「商品の左斜め前に値札を出す。POPは左隅。商品はこのぐらいの間隔を空ける。靴は靴の什器スタンドに立てる」って、私たちからするとものすごく当たり前の手法です。
購買体験は接客だけではなく掛け算ってことですよね。店舗の価値があって、商品の価値があって、魅せ方にも展開の価値があって、接客の価値がある。バーチャルマーケットでは、この4つをきちんと掛け合わせて商売ができた、バーチャル世界でも実装できたからこそ、良い反響をいただけたのだと思います。逆に言えば、ECでは効率的に「商品の良さ」を伝えようとする分、この4つをかけ合わせるのは難しいですよね。
――なるほど、リアルでのノウハウをそのままの形で使えるのは、ECとの決定的な差かもしれないですね。
仲田:そうですね。今まで勉強してきたナレッジが全部使えるのだと分かったのが一番嬉しかったです。これ以降、社内の50、60代の先輩社員に色々と相談しに行くことが増えました。
――「デジタルのわかる若い社員」だけでなく、今まで会社に蓄積されてきた知恵や知識を活かすことができるというのは強みになりうるかもしれませんね。一方で、百貨店スタイルの接客はかなりのマンパワーを必要とする分、デジタルと相性が悪いような気もするのですが。
仲田:それは同意見です。選択肢として、これまで通りマンパワーをかけるか、あるいは自動化に舵を切るかどちらかになると思うのですが、実はどちらにもポテンシャルは感じています。元々の構想では、チャットボットや人工知能を入れて24時間自動対応という、「ドラクエの町の住人」のような仕組みを考えていました。それが、バーチャルマーケットで実際に接客をしたところ、お客さまにとても喜んでいただき、また接客の人数も一対一ではなく、1対8でコミュニケーションが取れたこともあり、バーチャル世界ならではの可能性を感じました。うまく機能すればちゃんと付加価値として、単価を上げていくこともできると思います。
とはいえ、リアルの接客と比較するとやはり難しいですし、現状、費用対効果もよくない。であれば、ある程度自動化した上で、要望などに応じて接客に切り替えることができるなど、なにがどの程度成立するのか今後細かく検証していく必要はあります。
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