文:山田山太
昨年、死刑は世界中で483件施行され、ここ10年で最も少ない件数となった(死刑情報を国家機密とする中国は含まれていない)。
そんな中、とあるアメリカの死刑囚を『Daily Star』が報じ、大きな注目が寄せられている。
静脈が見つからず死刑中止
ロメル・ブルームは1984年に当時14歳だった少女を誘拐し、強姦、殺害した罪で有罪判決を受けた。ブルームは死刑を宣告され、その後24年もの間、オハイオ州の死刑囚監房で過ごすこととなった。
そして2009年9月15日、ブルームは薬物注射による死刑が執行されようとしていた。ところが、注射を試みるもブルームの静脈がなかなか見つからない。ブルームは指を曲げたり腕を動かしたりし、なんとか助かろうと試みていたのだ。
その後、ブルームをテーブルの上に正座させ、足にシャントを挿入し、何とか執行しようとしたが、あまりの苦痛にブルームは悲鳴を上げ、またしても中断。2時間後に死刑は中止に至った。ブルームの皮膚には18カ所も注射針の跡が残っていたという。
ブルームの死刑執行は、1週間後の9月22日までに延期された。その際、当局は死刑執行が憲法違反に当たる拷問にならないよう求めた。しかし、結局解決策が見つからず、ブルームの死刑は無期限延期となった。
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延期に次ぐ延期の死刑執行。新型コロナウイルスに感染か
ブルームは、2度にわたる死刑執行の失敗は、憲法違反であると異議申し立てをした。しかし、オハイオ州最高裁判所は2016年、薬物が静脈に入った時に初めて死刑が執行されるのであり、前回の執行が失敗したとは言えないとする判決を下した。
その後、ブルームは2020年6月17日に死刑執行される予定だったが、薬品が入手できなかったことを理由にさらに延期。2022年3月16日へと延ばされた。
ところが、昨年12月28日、執行を待たずしてブルームは64歳で死亡した。死因は新型コロナウイルス感染による合併症とされている。当時、刑務所内でパンデミックが起きていたという。
なんとも皮肉な最期を迎えることとなったブルームだが、同時に死刑制度の難しさを痛感する出来事でもあった。日本も数少ない死刑制度をもつ国の1つとして、改めて向き合っていかなければならない。