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5月10日の日経新聞に「ドイツ、緑の党が支持率首位 二大政党は後退」という記事が出ていました。
ヨーロッパを代表する大国ドイツで、16年も続くメルケル首相を擁して磐石な支持基盤を持っているかのようにも見えたキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を、逆転して支持率首位になったのが、環境政党でもあるこの「緑の党」なのです。そして、この「緑の党」の当首は40歳という若くして代表となったアンナレーナ・ベーアボック氏という女性です。アムステルダムの女性市長フェムケ・ハルセマ氏も、緑の党出身でコロナ以前から脱観光に大きく舵を切っていす。
ベーアボック氏は「気候を守ことは、若い世代の自由を守ることだ」という主張を掲げて、厳しい環境対策を目標にしています。その政党が、ドイツで支持率首位になっている、というのはなんとも今のヨーロッパらしい現象かもしれません。
ということで、長引くコロナ禍の今回は、ヨーロッパで広がる環境対策などのグリーンシフトをフィーチャーしてみたいと思います。実は日本と大きく違う動きがあるのです。
吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director
1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/
漠然とした「SDGs対応」ではなく「気候変動の危機」にフォーカス
日本ではコロナ、ワクチン、そしてオリンピック&パラリンピックなどなど、目の前の課題が山積しており、なかなか気候変動や環境対策に考えが及んでいないようにも見えます。
ただし「後戻りができない」という意味で、気候変動こそ一刻も早く全人類で取り組む課題だというのがオランダの認識。これは同じ意味のことが、大阪市立大学大学院の准教授・斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』(集英社)にも書かれています。
つまり温暖化によって、溶けてしまった南極の氷は元には戻らないし、死滅した珊瑚礁も元には戻らない。絶命してしまった多くの昆虫、動物なんかも生き返りません。なので、実はコロナも喫緊の課題であるものの、気候変動も同じくらい喫緊の課題なのです。
この連載でも何度も書いているのですが、ヨーロッパでは喫緊の課題と捉えられているのが、気候変動と生物多様性です。環境危機とも言っています。だから、今、日本で盛んに言われているSDGsとは同じベクトルは向いていつつも似て非なるものなのです(参考:「コロナ禍でも116兆円を投資!世界を変える欧州グリーン・ディールの本気度【連載】オランダ発スロージャーナリズム(29)」)。
4月22・23日にオンラインで開催された気候変動サミットでは、米国バイデン大統領が会議の冒頭に、「今後10年で気候変動危機による最悪の結果を避けるための決断をしなければいけない」と挨拶をしたというのが日本でもニュースになっていました。しかし「つい先日までトランプ元大統領の元、パリ協定離脱を宣言していた米国が、何を今さら?」というのがヨーロッパの感覚でしょうか。
一方、この場で日本は2030年に向けた温暖化ガスの排出削減目標を2013年度比で46%減にすると表明しました。「なぜ2013年比?」と思ったのですが、調べてみると日本では福島第一原発事故後の全国的な原発稼働停止が影響し、石炭火力発電が増設され過去最高の排出量になっていた年でした。そこと比較しての46%減という設定です。ただ米国も、ほぼ過去最高排出量であった2005年比で50~52%という目標設定です。ではEUはどうなのかというと、国連気候変動枠組条約が採択される2年前の1990年比で少なくとも55%削減としています。目標設定だけ見ると、やはりEUの設定はかなり野心的です。
しかし、排出量そのものだけで日本、米国とEUを比べると、実は日本は元からかなり少なく、しかも微減ではありますが2013年をピークに下がり続けています。日本の2018年の温暖化ガス排出量は、1990年のそれよりも若干下回っているのです。国の大きさなどもあるので単純な比較は難しいのですが、2050年の「温暖化ガス排出量ゼロ」という目標に向けては、現状、日本が一番近い位置にはいます。なぜ日本はこの事実を世界に向けてアピールしないのか分かりません。ここらはやはり謙虚を良しとする心得なのでしょうか?ヨーロッパであれば間違いなく、強くアピールして、そこからこの流れのイニシアティブを取るかと思いますが。ちなみにご想像の通り、圧倒的な排出量を誇っているのは中国です。
いずれにせよEUにおけるこのトピックでは、米国も日本も影が薄い。中国などは言わずもがなではあります。ですから、日本のニュースで触れる情報とはかなりの差があります。ということでこちらではSDGsという言葉自体もあまり聞きません。
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