働いて感じた日本との違い
「vegan×和食」をテーマにした本を出版するための和食・veganメニューの撮影シーン
―― 現地で働いてみて「日本と違う」と感じたことはありますか?
西田:ベルギーではコロナが広まる前からリモートワークが当たり前でした。公立の学校は水曜午後がお休みだから、子どものいる人は家から働きます。いちばんびっくりしたのは、夏になるとみんな、外に飛び出すことですね。6〜8月の時期は金曜15時ごろになると、オフィスにいる人たちが帰り始めるんですよ。そして子どもたちやパートナーをピックアップし、そのまま海や山にキャンプしに行く。でも、誰も文句は言いません。その様子を見て最初は「私は就業時間通りにちゃんと働いているのに」と思っていましたが、「自分も適当に帳尻を合わせればいいや」と考えるようになりました。「仕事は人間として幸せな状態を作るための一部」という考え方がこちらにはありますよね。
吉田:オランダではワークシェアが進んでいます。何らかのプロジェクトに関わっていると、誰かしらは休んでいて連絡が取れなかったりしますね。ただ、実は立場によっても働き方が違っているようで、経営者はけっこう働いています。僕が土日に連絡しても、意外とすぐに返事が返ってきたりします。
―― よく日本に比べると欧米の人は生産性が高いとよく言われますよね。そのあたりはどうですか?
西田:う〜ん。仕事は回っているけれど、そのクオリティは日本とは違いますね。かつて外資系企業に勤めていた時に気づいたのですが、欧米ではそれなりの立場の方でもプレゼンの仕方やスライドの作り方が意外と適当だったりします。ではどうするかというと、コンサルタントを雇ってプレゼンの指導を受け、スライドはプロに作り直しをさせるんですね。日本人も完璧を求めず、捨てるべきものは捨てる、あるいは人に任せるといった決断ができれば楽だと思います。こっちの人はそのあたりがうまいから、結果として生産性が高くなるのかなと感じます。
吉田:こちらでは完璧さが求められていない。雑でもOKなんですよね。でも日本の場合、すべて先回りして準備しないといけない感じになっている。それが過剰なのだと思います。
―― ところでオランダとベルギーの就職事情はどうでしょうか。
吉田:ヨーロッパには仕事がないんですよね。採用する時は、基本は欠員補助です。経験や知識が重んじられるから、新卒の子たちは大変ですよ。
西田:「欠員が出る」とはつまり、経験のある人が抜けるわけですよね。そこを埋めるのに「なぜ新卒?」となる。一から仕事を教えなければならない人は、生産性という観点からも採用できないという考え方です。
吉田:僕がオランダに来てから通っていた学校の同級生は、いかに就職するかを毎日必死で考えていました。常にポートフォリオを持ち歩き、何かあったらすぐに対応できるようにする。そしてインターンで実績を積む。みんな本当に優秀でした。
西田:ベルギーにはヨーロッパ各地からインターンにくる子たちがたくさんいます。EU本部があるから、関連組織に入れるように、何カ月か頑張って無償で働くんです。彼らにとってEU関連機関への就職は、宝くじに当たるようなもの。お給料はとんでもなく高いし、健康保険も手厚い。老後の年金もたくさんもらえる。子どもの教育費も出してもらえる――。みんなそういう仕事に就きたいじゃないですか。
吉田:僕のところには、東大や京大からの留学生が「やっぱりこっちで就職したいです」と毎年相談にくるけれど、実際に就職できた子はほとんどいないですね。それくらい厳しい状況です。だから僕は最近、相談を受けると「絶対に就職できないから帰りなさい」と説得しています。「日本では新卒に価値があるとされているし、就職戦線においてのルールは明確で、それを守って戦えば勝てる。そうして日本でキャリアを積んでからこっちに来なさい」と。要は日本で実績を作ってからこっちに来ればいいんですよ。
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