SNSで気軽に連絡を取れる現代、ネットの中傷で命が失われてしまうことすらある。一方、花は何も語らないが、感謝や謝罪の気持ちをときに言葉以上に伝えられることがある。
生花店やフローリストと生産者がスマホで簡単に取引できるプラットフォームを運営するCAVIN代表のYuya Roy Komatsu氏は、友人を失った経験が創業のきっかけになったという。鮮度の良い花を短納期で届け花業界をアップデートするCAVINのビジネスが生まれた背景と、その展望を訊いた。
文・聞き手:米田智彦 構成:平田提
Yuya Roy Komatsu
CAVIN Inc. CEO
フィリピンのスラム地区にてNGOボランティア後渡米。カリフォルニア大学在学時、米アクセラレーターで現地インターン。帰国後は、独立系経営戦略コンサルファームにて勤務。国内スタートアップにて最高国際責任者に従事。2018年、CAVIN創業。
友人の死と熊本地震が花のビジネスのきっかけに
Yuya Roy Komatsu氏
―― CAVINの事業を始めるきっかけから教えて下さい。
Komatsu:2016年の熊本地震がきっかけの一つです。大学時代、遊びほうけてしまい「これじゃいかんな」と、改めてカリフォリニア大学に入り直したんです。熊本の震災を知ったのはYouTubeでした。東日本大震災の時、高校卒業を控えて春休みだったのに僕は何もできなかった。熊本地震には絶対何かをしたいと思ったんです。
帰国して熊本の菊池市に向かい、役所の方に話を持っていったのが、花を届ける企画です。花を持って行くと、多くの方が涙ぐんで喜んでくださいました。当時の熊本は水分やトイレットペーパーは十分に供給できる環境がありました。足りなかったのは心の余裕だったんです。これは意味のある仕事になると確信しました。
―― 花のビジネスの可能性を感じていたのですか?
Komatsu:アメリカでアクセラレーターにインターンとして入りました。その際にさまざまなCEOを見ながら、ビジネスアイデアを考えました。100個ぐらいビジネスモデルを考えた中で最終的に選んだのが、花のビジネスでした。これには僕がやるべき明確な動機がありました。原体験は、友人の死です。
彼女が自死を選んだ時、最後に会話していたのが僕でした。肝心なときに一言が伝えられなかったことを、今でも後悔しています。「いつでも言えたけど言わなかった一言」で人は後悔していくと思うんです。いつでも親からの電話に出られたのに「仕事が忙しい」と不在着信にしてしまい、親が亡くなった後に後悔する。嫌なヤツになりたいわけではないのに肝心なことが伝わらず。部下に指導すると変に伝わってしまう、とか。
誰かへの後悔を解決できるのは、質の高いコミュニケーションだけだと思っています。花は思いを伝える、その背中を押すことができます。
―― 実は僕も花を活けるのでよくわかります。
Komatsu:日常の花だけじゃなく、仏花を添えて手を合わせる習慣が、僕たちの世代ではどんどんなくなってきています。僕はよく「花は愛すべき無駄だ」っていう言い方をします。花はスーツのように必要性もなく、Apple Watchのように機能性もなく、タバコのように中毒性もない。でもだからこそ、花はいい。僕が追求したいのは、コミュニケーションの量ではなく質です。
例えばLINEは人と人をつなぐためのものとして生まれた。でも使い方を知らない子どもたちは、LINEでのやりとりを原因に最悪の選択をしてしまう。
若い世代には「こういうことを言ったら、相手はどう感じるか」と想像する力が足りないと思っています。インスタグラムの写真の花はいつも満開で、それはさぞ簡単で当たり前のように思える。実際に一輪の花が目の前にあって、1週間後もきれいに咲いているとします。その裏には理由がある。誰かが水換えをしているかもしれないし、生産者の努力で元気な花になったのかもしれない。花は生き物。枯れるからこそいい。僕らはその裏側にあるストーリーを考える心を育みたいと思っています。
僕は1992年の生まれで、CAVINのメンバーもバブル崩壊後に生まれた世代が多い。景気がいい日本を知らない僕らの世代は、物質的な豊かさは幸せに必ずしも繋がらないと学んでいます。今の時代に必要なのは、今まで持っていたけど手放してしまったものを取り返す作業だと思っています。
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