カンボジアで愛だけではビジネスが成り立たない現実を目にした
現在制作中のドキュメンタリーの1シーン、品川出入国管理局の前
―― 山口さんはドキュメンタリー映画監督でもありますよね。どういう作品を撮られているんでしょうか?
山口:日本では不法滞在者と呼ばれる方でも、海外では難民として認められることがあります。政治難民や宗教難民は日本では基本的にほぼ認められないので、そういった方々の現状を取材しています。みなさん、働く権利を得ることを希望に日々生きられています。働くことができたら社会への帰属意識が得られるし、いろんな問題が解決できる。その声をどう伝えようと思ったときに、面会の際、公衆電話越しに話す声を収録して、アニメーションをつけてドキュメンタリー映画にしてみました。これからはより質の高い映像を届けたいですし、「全ての人が包括的で倫理的な意思決定ができる世界を作りたい」という私のミッションが、少しでも前に進められたらと思います。
―― 高校1年生の行動力におじさんはびっくりしているんですけれども、人権の問題に取り組もうと思ったきっかけは何なんでしょうか。
山口:一つは、最初にお話した、ドイツにいたとき、シリア難民の方に対して何もできなかった自分を変えたいという思いです。もう一つは中学3年生のときの夏休みに、学校のプログラムの中で、社会課題を解決するソーシャルビジネスを考える、60日間のプログラムについて知りました。最後には2週間ほどカンボジアのソーシャルビジネスの会社にいき、実際にビジネスを体験して売り上げを上げて帰ってくるという内容のMOGに参加したことです。その時に体験した「ラベンダージープ」という会社は、ベトナム戦争で使われた戦争用のジープを紫色に塗り替えて、外国人のお客さんを載せてカンボジア市街地を回るツアー会社でした。売上の7割ぐらいは、カンボジアの女性活躍促進や高校の建設費に寄付していたんですが、ずっと赤字だったんです。僕はその会社のプロモーションを手伝って、SNSをやったり、カンボジアの繁華街で夜11時ぐらいまでずっとツアーのビラを配っていたりしました。
カンボジアには白人の方が多いんですが、そういった方々に「お願いします」ってビラを頭下げて配っていると、僕もアジア人としてカンボジアのスラム街の子たちと同じような目で見られて、ビラを捨てらたり、ツバをかけられたりする。かなり辛かったです。そんなとき「ラベンダージープ」を共に立ち上げられた女性がサッと来て、僕のビラを取ってレストランの中に入って、頭を下げてビラを配ってくれたんです。
その姿を見て本当に「かっこいい」って思いました。彼女自身、高校に行くことができなくて、同じ境遇にある子供たちを助けたいという、愛だけで行動しているみたいな女性でした。それと同時に、愛だけではビジネスが成り立たない現実も目の当たりにしました。それでも愛を持って活動する人たちが存続できる、そういう社会があってもいいんじゃないのかなって思ったんですね。これが自分の大きな動機になっています。
それでも「愛を持って社会に突っ込め」を理念に