「好きなことを仕事にしたい」と願う人は多いだろう。
異なるベクトルの副業を軽やかに同居させて活躍するのが、芸人のカニササレアヤコ氏だ。
紅白の平安装束を身にまとい、京王井の頭線の踏切の音を雅楽器で再現するといったシュールな芸風が持ち味のカニササレアヤコ氏だが、芸人活動と並行して、ロボットエンジニアとしても知られている。
そんなカニササレアヤコ氏の副業スタイルについて直撃した。
取材・文・構成:庄司真美 写真:織田桂子
芸人として食べて行けるようになるには、継続が大事
―― そもそも芸人を志すようになったいきさつを教えてください。
カニササレアヤコ(以下、アヤコ):中学の文化祭で友達と漫才をやったのが最初のきっかけです。中学・高校では、漫才大会にもよく出場していました。大学に入学してからは、お笑いサークルに入って、そこから本格的にプロを目指すようになりました。
―― 業界への入り口はどのような流れでしたか?
アヤコ:大学のお笑いサークルの大会でいい成績が出まして、それを観ていたワタナベエンターテインメイントの養成所からお声がけいただきまして、1年ほど所属していました。
大学卒業と同時に事務所は辞めて、就職して普通に会社員になったのですが、社会人2年目に「R-1ぐらんぷり」に出てみたら、決勝まで行くことができました。
―― 事務所に入って芸人活動をしながらも、大学卒業後は規定路線としてちゃんと就職するつもりだったのですか?
アヤコ:お笑い芸人をやっていくにしても、アルバイトしながらになることは目に見えていたので、どうせ同じ時間で働くなら社会人をやりながらの方が手堅いと思いました。
―― 破天荒なイメージの芸人像とはかけ離れた、非常に地に足着いた考え方ですよね。中には売れない時代の貧乏エピソードをネタにする芸人さんもいますが、アヤコさんとしては、しっかり生活の基盤を持った上で芸人活動をするスタンスを選んだのですか?
アヤコ:芸人として食べて行けるようになるには、継続することが大事です。持続可能な基盤を作るために、フレキシブルな働き方ができてお笑いとも両立できると思って、就職してエンジニアの仕事を選びました。
―― 芸人とエンジニアは、かなり対局にある仕事ですが、それぞれの面白さ、醍醐味について教えてください。
アヤコ:確かに芸人とエンジニアは、かなり真逆の仕事ですね。芸人は舞台でやったことに対して、即座にフィードバックがあるところがやっていて楽しいですね。
新卒1年目はECサイトのプログラマーをしていたのですが、人と話す機会が極端に少ない仕事だったんです。その反動から、もっとコミュニケーションをとって、人を笑わせたい気持ちが高まってきました。
というのも、エンジニア同士って、隣に座っているのに一切喋らずテキストチャットでコミュニケーションをとるようなカルチャーがあるんですよ(笑)。
あまりにも人と話さないので、だんだん芸人をやる気も失せてきてしまい、この環境はまずいなと思って、リクルートサイトでロボットエンジニアに転職することにしました。
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