EVENT | 2021/04/05

マレーシア人が日本で『FF15』制作に携わりながら学んだ「多国籍チームで成果を出す秘訣」【連載】マッキャンミレニアルズ松坂俊のヘンなアジア図鑑(4)

ワン・ハズメーさん(写真左)と筆者(写真右)
今回はマレーシアの独立系ゲームスタジオ「Metronomik(メトロノミ...

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「マレーシア発=ダサい」のイメージを塗り替えるオリジナルゲームを!

松坂:すごいスピード感ですね(笑)。そこから3年ぐらいかけて、『NO STRAIGHT ROADS』のリリースにこぎつけたと。スクエニ時代から構想はあったんですか?

ハズ:はい。2014、15年ぐらいからダイムと一緒に5つぐらいのアイデアを温めていて、これがそのうちの1つです。最初は6人の社員でスタートしましたが、いまは20人にまで増えました。

松坂:自分の母国だからだと思うんですが、なぜマレーシアでゲーム会社を立ち上げたのでしょうか?

ハズ:自分が離れている間に、すごくポテンシャルがあるなと感じたんです。Streamline StudiosLemon SkyPassion Republicといったような、日本のゲームファンも知っているような有名作品、たとえば『DARK SOULS』シリーズや『アンチャーテッド』シリーズ、そしてFF15の制作にも関わる制作会社(デベロッパー)が育っていました。

ただ、それらの有名作品と肩を並べるようなオリジナル作品がマレーシア発でまだ出ていないと思い、新卒やゲーム業界未経験の人を中心に採用し、20人ほどのチームで作品を完成させました。

松坂:FFの時は大人数かつベテランばっかりだったんでしょう? 凄いな。

ハズ:そこはもう、日本で学んだことを最大限に活かして頑張りました。ゲームを作るにあたって、他のどの国でもないマレーシアらしさ、つまり文化は打ち出した方が良いと思い、かなり意識的に入れ込んでいます。

松坂:マレーシアのゲームデベロッパー出身者を中心に据えず、新卒・未経験中心でチームを編成したのはなぜですか?

ハズ:「未経験者または新卒だけどゲーム作ってみたい」という意欲のあるメンバーに弊社を通じて機会を提供したい、そして新鮮なアイデアをゲームに取り入れられると良いなという思いがありました。

そしてマレーシアのゲーム業界は非常に小さく、経験者を採用する場合、同じ人材が行ったり来たりしがちになるので、マレーシアのゲーム業界全体の発展を考えると他業種からの人材確保が大事だと思いこういう判断に至りました。

松坂:なるほど。そう言えば日本語版だと関西弁で話す「DKウェスト」というキャラもいましたね。

ハズ:あのキャラクターは、英語版だとマレー語で話しているんです。マレーシア人自身が欧米や日本などの優れたコンテンツを見慣れているので、“マレーシア要素”を見るとちょっと気恥ずかしくなる、クオリティが低いと感じてしまうことが未だにあるんです。自国発=ロークオリティな感覚というか。

松坂:それは高度成長期ぐらいまでの日本でもあったような気もします。

ハズ:うちの会社のスタッフも同じで、2018年の東京ゲームショウに出展する時も「本当にマレーシア訛りの英語ボイスで大丈夫なんですか?」と不安がられました。でも「大丈夫!むしろそっちの方がオリジナリティを感じてもらえるよ!」と説得してそのままで出したんですが、目論見通り「あのマレーシアなまりが良いね」という感じで評価してもらえたんですね。時には「あれって架空の言語ですか?」なんて言われることもありましたが(笑)。

2018年の東京ゲームショウの模様

あとはPS4、Switch、Xbox One、PCというすべての主要プラットフォームに対応していますし、パッケージ版をグローバルにリリースしたマレーシアで初めてのオリジナルIPのゲームなんです。限定版のコレクターズ・エディションにはドラムスティックとレコードとアートブックが入っています。全部同時発売で大変でした(笑)。

松坂:開発費用はどうしていたんですか?

ハズ:政府から支援が出ていて、かなり助かりました。あとはパブリッシャーからの資金もありましたが、自己資金ももちろんあります。

松坂:さすが。マレーシアは国の経済政策の1つとして、アニメやゲームなど、自国コンテンツビジネスの強化を掲げているんですよね。僕はハズさんのことを周囲に「マレーシアの国民的ゲームクリエイター」と紹介しているんですが、自分がマレーシアのイメージを刷新するようなゲームを作るんだ!というスタンスは本当に尊敬します。リリース後の反響はいかがでしたか?

ハズ:小さなチームなので各機種の対応させるのは大変で、本当に直前までバグ修正をしていたんですが、発売初日で黒字が確定したのが本当に嬉しかったです。あとはTwitterで1日に100枚以上のファンアート(作品ファンが描くイラストなど)がアップされていたのも嬉しかった。二次創作でオリジナルのキャラクターやストーリー、ゲームを作ってくれる人もいて。

松坂:凄い。発売日から半年ぐらい経ちましたけど、次のプロジェクトももう動き始めていたりしますか?

ハズ:去年12月にクリスマス用のキャラクターデザインやアレンジ曲などを追加した、無料ダウンロードコンテンツ(DLC)をリリースして、今は少しお休みというか充電期間ですね。たださっき話した「5つのゲームアイデア」は全部“音ゲー(リズムゲーム)”ではない音楽とゲームの融合可能性を追求するもので、そうした作品を今後も作っていきたいと思っています。

日本にいた時は自分もゲームセンターにものすごく通って、例えばセガの『CHUNITHM (チュウニズム )』とか、音ゲーをやりまくっていたんですよ。でもまだまだ他のジャンルに比べてプレイ人口が少ないんですよね。松坂さんは音ゲーをやりますか?

松坂:僕はそんなにやったことがないんですけど、自分の操作が音と合った時の快感が、ポイントやコインを取った時よりももっと直感的で気持ちいいな、っていうのは感じました。

ハズ:それは確かに音ゲーの本質的な要素の1つだと思います。『NO STRAGHT ROADS』では、「Your music can change the world」というキャッチコピーでそれを表現しました。

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