人それぞれの“お腹の調子”をデータ化する発想
ーー とはいえ、腸内環境が実は心身のあらゆる活動に影響を及ぼしていると言われるようになったのは、比較的最近のことのように思います。鈴木さんの視点は、時代のかなり先を行っていたのではないでしょうか?
鈴木:そうですね。ですから選手時代も腸内細菌のサプリメントを飲んでいることは、特に周りには言っていませんでした。ただトレーナーの方には「冷たいものをたくさん飲んだでしょ?」と言い当てられることがあり、その時はお腹にお灸をしてもらうとそれまでこわばっていた脚の筋肉がよく動くようになるなど、効果を実感していました。つまり、お腹のコンディションの話はこれまでは東洋医学の知識や個人的な経験則として、人それぞれの問題として扱われてきた。それが最近になって、ようやく科学的に裏付けられてきたということだと思います。
ーー オリンピックやワールドカップなどで日本の競争力が伸びてきた背景として、2001年に国立スポーツ科学センターが開所するなど、昔ながらの根性論に代わって科学的・医学的な知識や指導方法が取り入れられたことが挙げられます。そうした流れの中で、腸内環境にはあまり目が向けられて来なかったのはなぜでしょう?
鈴木:それは、お腹のコンディションは人によって大きく異なるからです。例えば、人に栄養バランスの良い食事を勧めることはできますが、同じものを同じ量だけ摂ったところで、太りやすい人、痩せやすい人、筋肉が付きやすい人、付きにくい人など、結果はあくまで人それぞれ。その理由の一つとして、腸内細菌のバランスが人によって大きく異なることが挙げられます。
加えて重要なのは、そうしたデータを数値によって可視化することです。個人的にヒントとなったのは、尿の比重から選手の体内水分量をチェックするという浦和レッズの取り組みでした。データを元に適切な水分補給を心がけた結果、個々のパフォーマンスが向上して足の痙攣が減るなどの効果があり、体の状態を把握することが行動変容につながるのだと実感しました。だとすれば、腸内細菌の検査を従来の遺伝子、血液、尿の検査と掛け合わせることで、総合的な精度を上げられるはずだと考えたのです。
次ページ:「うんちちょうだい」の努力から、革新的プロダクトが誕生