CULTURE | 2021/02/03

常に誰かを悪者に仕立て上げ糾弾。10年前の東日本大震災とコロナ禍の共通点【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(20)

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中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
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40代の被災地住民「コロナも震災も似たようなものです」

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今回のコロナで悪者にされた人々を振り返ってみよう。

中国から帰ってきた日本初の陽性となった中国人男性/クラスターが発生したタクシーの業界団体が使ったため「屋形船」/タクシー運転手

これがごく最初のケースだが、テレビでは「屋形船は危険だ」といった言われ方までされた。今考えれば確かに「密」ではあるものの、別に「屋形船だから危険」という言われ方は業者からすれば不本意だろう。しかも、タクシーの業界団体が屋形船にいたことから「タクシーのような密閉空間は危険」というところまで発展してしまった。当初の「タクシーは危険」イメージがあったからこそタクシーはシールドを貼り、マスクをしない客は断っても構わない、といった対応になったのだ。以後、悪者にされた人々をさらに見てみよう。

中国の春節客への歓迎の意思を示した安倍政権/ライブハウス/K-1/ガールズバー/パチンコ店/ジム/学校(恐らくインフルエンザによる学級閉鎖のイメージがあったものと思われる)/クルーズ船/合コンで陽性になった疑いのある阪神タイガース・藤浪晋太郎/アクティブに動く高齢者(バス旅行やジム)/G.W.に地元に帰省した若者/「夜の街」関係者/ホスト/新宿区歌舞伎町/クラスターを出した病院/石田純一/GO TOトラベル/それに伴う観光業/GO TOを推進した二階俊博氏と菅義偉氏/

そして現在は「高齢者にうつす若者」と「飲食店」が2大悪者にされている。テレビはしきりと自粛警察を「やり過ぎだ」と批判する。だが、テレビこそわざわざ夜8時以降に開放的な東京・新橋の公園へ行き、「あ、あの人たち、マスクをはずしてお酒を飲んでますねぇ! 密になってます!」と自粛警察になっている。緊急事態宣言が延長された今、「外で誰かと酒を飲む人」も第3の悪人扱いにされ、「許すまじ!」となってしまった。結局常に犯人探しをし、謝罪するまで追い込む状況は東日本大震災の時と変わっていないのだ。あの時も東電の従業員や幹部が土下座をするまで世間の「風」は追い込んだし、土下座をしても許さなかった。

ネット上のこうした糾弾体質というものは福島の事故の時と変わっていない。被災地の住民男性(40代)は当時を振り返りながら現在の状況も考慮に入れながら淡々とこう語った。

「コロナも震災も似たようなものです。対処法は同じ。もう自分でどうこうできるものではないんですよ。それなのに恐怖を煽ったり、当事者を批判するばかり。コロナの場合、マスク着用・手洗い・うがい、『3密を避ける』ぐらいしかできることはない。自分の管理でしかできないのだから、それをしっかりやるしかないんです。地震の時も『逃げる』『高いところに行く』ぐらいしかやることはない。誰かのせいにしても仕方がないんです」

達観したような同氏のコメントには、相当イヤな目に遭った結果こんな境地に達してしまったのだろう、という気持ちを感じた。もうすぐあの事故から10年が経つ。コロナですっかり風化したかのようにも思える原発事故だが汚染水の処理問題や、被災者の生活再建など、まだ収束への道のりは遠い。


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