EVENT | 2020/12/28

大ヒット中の『鬼滅の刃』 の「パワハラ会議」や「鬼殺隊柱合裁判」に見る訴訟の正当性【連載】FINDERSビジネス法律相談所(27)

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(今回のテーマ)Q. 『鬼滅の刃』の人...

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渡邉祐介

ワールド法律会計事務所 弁護士

システムエンジニアとしてI T企業での勤務を経て、弁護士に転身。企業法務を中心に、遺産相続・離婚などの家事事件や刑事事件まで幅広く対応する。お客様第一をモットーに、わかりやすい説明を心がける。第二種情報処理技術者(現 基本情報技術者)。趣味はスポーツ、ドライブ。

話題の「パワハラ会議」と「鬼殺隊柱合裁判」を法的に見てみよう

映画が公開されるや否や興行収入300億円を超えて、興行収入歴代1位の『千と千尋の神隠し』を抜き、ついに首位になった『鬼滅の刃』。

そのストーリーは、人を喰う「鬼」を滅ぼすために、主人公やその仲間達が鬼狩り組織の「鬼殺隊」の一員として戦うというものです。

今回は、「鬼」の始祖であり、鬼達を絶対的に支配する「鬼舞辻無惨」(きぶつじ むざん/以下、「無惨様」)に注目。

理不尽な理由で部下の鬼たちをいとも簡単に切り捨ててしまうシーン、巷に言う「パワハラ会議」での無惨様の非道ぶりが、読者やネット上で話題になっています。

他方で、鬼狩り組織の鬼殺隊を、最高責任者として束ねる「産屋敷耀哉」(うぶやしき かがや/以下、「お館様」)。

その人柄は、鬼殺隊トップクラスの隊員達(いわゆる「柱」)がみな心服してしまうほどの人格者で、「鬼殺隊柱合裁判」では、その人柄とバランス感覚で、すばらしい訴訟指揮をします。

当連載の最終回となる今回は、鬼のトップ“無惨様”の「パワハラ会議」の違法性と、「鬼殺隊」のトップ“御館様”の「鬼殺隊柱合裁判」でのすばらしい訴訟指揮と比較しつつ、法的観点から解説していきます。

パワハラの条件を満たす3つの要素

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パワハラといえば、今年6月より大企業向けに、いわゆる「パワハラ防止法」の雇用管理上必要な措置を講じる義務が施行されました。

パワハラ防止法は正式名称を「労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用安定及び職業生活の充実等に関する法律」といい、略して「労働政策総合推進法」ともいいます。

パワハラにあたるのは、次の要素を満たすケースです。

1)優越的関係に基づいて
2)業務の適正な範囲を超えて行われる
3)身体的もしくは精神的苦痛を与えること、または就業環境を害すること

「パワハラ会議」で行われた非道ぶり

まず、無惨様の「パワハラ会議」で行われていたことを見てみましょう。

無惨様は、部下に「上弦の鬼」「下弦の鬼」(併せて「十二鬼月」)と称される最強の幹部を持ち、「下弦の鬼」の中の1体の鬼が人間に倒された(任務に失敗した)ことで、無惨様がこれに激怒。残りの下弦の鬼たちを集め(会議を招集)、怒りをぶつけるシーンです。

集められた残り5体の下弦の鬼たちに対し、無惨様は「頭を垂れて蹲(つくば)え、平伏せよ」と命令。5体の下弦の鬼たちは、いつもとはまったく姿の違う見た目(なぜか女装姿)で会議に登場した無惨様に気づかなかったものの、この声で目の前の女性が無惨様であると気づいて、慌てて土下座して平伏します。

そして、ここで下弦の鬼の1体がすかさず「申し訳ございません。お姿も気配も異なっていらしたので…」と素直に謝るのですが、無惨様は「誰が喋って良いと言った?貴様共のくだらぬ意思でものを言うな。私に聞かれたことのみに答えよ」と発言を遮ります。

そして、無惨様はこのように続けます。「(下弦の鬼の1体が人間に倒されたことをとりあげ、上弦の鬼が成果を挙げていることと比較して) 何故に下弦の鬼はそれほどまでに弱いのか」と、失敗した鬼とは無関係である、残りの下弦の鬼たちに向けて、その苛立ちをぶつけるのです。

そこで、1体の鬼が「(そんなことを、俺たちに言われても…)」と、心のなかで思う鬼たちの思考まで読むことができる無惨様は、その下弦の鬼を追及し、必死に謝っているその鬼を、なんとその場で殺してしまいます。

そして、無惨様はまた別の下弦の鬼に対して逃亡しようとしていると一方的に決めつけ、その鬼が必死に申し開きをすると、無惨様は一蹴して聞く耳をもたずに、その鬼を殺してしまいます。

そうした非道ぶりを目の当たりにした別の下弦の鬼は、無惨様の発言を肯定しても否定しても殺されると思い、会議から逃げようとしますが、次の瞬間、無惨様はその鬼を殺してしまいます。

生き残っている2体の鬼に対して、無惨様は「下弦の鬼は解体する。最期になにか言い残すことは?」と伝えます。

すると、一体の鬼が「私はまだお役に立てます!もう少しだけご猶予をいただけるならば!…貴方様の血を分けていただければ…より強い鬼となり戦います!」と、必死に無惨様のために尽力しようと申し出ているのに対して、無惨様はまるで聞く耳を持ちません。

それどころか、「なぜ私がお前の指図で血を与えねばならんのだ。甚だ図々しい。身の程をわきまえろ」「すべての決定権は私にあり、私の言うことは絶対である。お前に拒否する権利はない。私が“正しい”と言ったことが“正しい”のだ。お前は私に指図した。死に値する」などと、またしても独断ぶりを発揮して、その鬼まで殺してしまいます。

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