他人事ではない?実はあなたも無惨様(=パワハラマン)になり得る!
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「パワハラ会議」では、パワハラどころか気に食わない部下を次々と殺してしまうのですから、それが違法であることは当然です。
ですが、ここでの無惨様の考え方や振る舞いのパターンは、実は案外身近であり得るものだったりします。最近では、職場で殴ったり蹴ったりなどということは少なくなっているとはいえ、たとえば、以下のようなパターンです。
・その時の感情や気分で判断する。
・業務遂行上必要性の乏しい行動を強要する。
・部下の意見にはまったく聞く耳を持たない。
・他の部下のいる前で本人を叱る。
・部下の人格を否定する発言をする。
・一方的な決めつけでものを言う。
・1人の失敗の責任を他の部下にまで負わせる。
・他人は間違っており、自分だけが絶対に正しいと思い込んでいる。
・仕事ができない人は直ちに辞めさせればよいと思っている。
・部下に対しては何を言ってもOKという発想。
・部下からの意見は「口答え」に感じてしまう。
・部下を教育しようという意識に乏しい。
「パワハラ会議」の無惨様の行動は極端な例ですが、結局のところ、こうした要素がわかりやすく現れたケースです。これらの要素は、職場などでも少なからずあてはまる人がいるのではないでしょうか?
そういう人が、うっかり発言したり行動したりしてしまうと、上述した3つのパワハラの要件を満たしてしまうのです。
無惨様のようなパワハラマンにならないためには?
では、無惨様のようなパワハラをしないためには、どうすればいいのでしょうか?上述の要素とは逆張りで考えてみましょう。
・感情や気分で判断せずに、公平、一貫性を意識して判断する。
・業務遂行上必要性、合理性のある内容で指示を出す。
・部下の意見によく耳を傾ける。
・他の部下がいない場所で本人を指導する。
・指導や改善はあくまで部下の行動を対象とする。
・事実や証拠、データに基づいて発言する。
・部下の責任の範囲を明確にする。
・常に自分の判断に間違いがないか、謙虚に検証するようにする。
・その人に向いた仕事に配置換えしたり、教育したりして、その部下の才能を伸ばそうとする。
・1人の人格として部下に対し、敬意をもって接する。
・部下からの意見は貴重なアドバイスとして受け止める。
・部下に与えるのは「仕事」だけでなく、「成長の機会」でもあるという意識を持つ。
こうしたスタンスで部下と接することで、パワハラを防げるだけでなく、よりよい職場環境になっていくのではないでしょうか。
隊律違反で起きた「鬼殺隊柱合裁判」の内容
「場面は変わって、無惨様率いる鬼を狩る「鬼殺隊」の本部。「鬼殺隊」の隊員である主人公は、鬼である妹を庇いながら、一緒に行動していたことが鬼殺隊の隊律違反にあたるとして、「柱」たちが集まった鬼殺隊本部で裁判にかけられてしまいます(「鬼殺隊柱合裁判」)。
主人公の言い分は、「妹は鬼にされたが、これまでに人を食ったことはない。だから、これからも人を食ったり人を傷つけたりすることは絶対にない」というものでした。
これに対し、その場にいた鬼殺隊トップクラスの実力者である「柱」たちのほとんどは、本来敵である鬼を連れて歩いていた以上、「明らかな隊律違反」「そもそも身内なら庇って当たり前」「言うことすべて信用できない」「鬼に取り憑かれている」などと、主人公の言い分に耳を傾けずに、斬首すべきだと主張。
刑事裁判官としての「お館様」の仕事ぶりはまるで上司の鑑
ここで、鬼殺隊の最高責任者である「お館様」は、部下である「柱」たちの意見に十分に耳を傾けた上で、「(これから)人を襲うということもまた証明ができない」と、一旦、現在の状況を冷静に整理します。
そして、(主人公の妹の鬼が)2年以上もの間、人を喰わずにいるという事実と、その事実について保証人がいるという事実を挙げた上で、事実を否定する側に証明責任が移っている状況であることをみんなに諭します。
すると「柱」の1人が、鬼である主人公の妹が人を喰うことをその場で証明してみせようとしますが、失敗。逆にこれが、主人公の妹が人を喰わない鬼であることの証明になってしまうのでした。
訴訟では「証明責任」という概念があります。原則として事実を主張する側が自ら証明しなければならないのです。
特に刑事訴訟では、「無罪推定」という大原則があり、罪を追及する側(検察側)は犯罪を構成する事実を証拠によって証明する必要があります。
そして、犯罪を構成する事実が証明される場合でも、例外的に犯罪の成立を否定するような事実(違法性阻却事由等)がありそうな場合は、検察官の側でその事実の不存在を証明しなければならないのが通説です。
これを「鬼殺隊柱合裁判」に置きかえてみると、主人公は鬼を庇ったという隊律違反に問われているため、犯罪を構成する事実は、鬼を庇ったという隊律違反です。
これについて、主人公の罪を追求する柱たちに証明責任があって、それは妹が鬼であること自体で証明は十分でした。
他方で、違法とされる行為に対し、違法性を否定する「違法性阻却事由」にあたる事情として、主人公の妹は鬼であっても人を喰わないのではないかと疑わせる程度の証拠はすでにあると言えました。
そのためお館様は、妹がこれからも人を喰う可能性があるということを、罪を追求する柱たちが証明する必要があると伝えていたのです。
以上のような「お館様」の訴訟指揮は、単に人格者でバランス感覚があるという評価で終わるものではなく、法的観点から見ても、刑事裁判の原則やルールをしっかりと踏まえた、極めて的確な訴訟指揮であったといえるのです。
パワハラとは無縁の「お館様」
「お館様」の訴訟指揮は、「感情や気分で判断せず、公平・一貫性を意識して判断」「部下の意見にはよく耳を傾ける」「事実や証拠、データに基づいた発言」でした。
お館様は、「柱合会議」では、一方的に指示や命令を出すのではなく、「柱」たちに意見を求めることも多く、真摯に答えるスタンスは、部下に敬意をもって接していたといえるでしょう。
こうした「お館様」の振る舞いや人格は、パワハラとは無縁であるだけでなく、実力者でありながら個性的でクセのある「柱」たちの心をしっかりと掴んでいたのでした。
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パワハラや不当解雇など、労働関係をめぐる法的トラブルというものは、後を絶ちません。法的問題というと、「どの程度までは法的にセーフか?」「違法か、適法か」「違法性の要件は?」といった違法性のラインについての議論が中心で、弁護士に寄せられる相談も、そうした内容が多数を占めます。
パワハラをはじめとする法的リスクの予防やリスクマネジメントにおいて、そうした違法性のラインをしっかりと把握することが重要であるのは当然です。
ただ、そうした思考に止まってしまうと、どうしても違法の手前である「ライン際ギリギリをせめる」発想になりがちです。いかに法の網の目をかいくぐるかという発想に陥り、気づいたら違法なゾーンにいたということもあり得るのです。
法律はあくまで人が決めた「ルール」であって、価値判断とは別次元のもの。「それさえ守っていれば、上手くいく」というものではありません。
「無惨様」のようにならなければいいということだけでなく、「お館様」を目指し、職場や会社をはじめとする組織、引いては社会が上手く回り、そこにいる人たち全員の幸せにつながっていくのではないかと思います。