文:神保勇揮
沖縄を拠点に最先端ICT技術の研究や人材育成を行う、一般社団法人沖縄オープンラボラトリ(沖縄オープンラボ)が、「世の中を変えるオープンテクノロジーとアイデアの集結」をキーコンセプトとして毎年12月に開催する「Okinawa Open Days2020」。今年は12月8日(火)~10日(木)にかけて、ZoomとYouTube Liveを用いたフルオンラインにて実施された。
2020年度のサブテーマは「ユンタクしながらジンブンを出そう(沖縄の言葉で「雑談/議論しながら知恵を出そう」の意味)」とし、各日ごとに異なる「ニューノーマル時代のデジタル社会」「持続可能で活力のある地域社会に向けて」「デジタル社会を支えるテクノロジー」の3つのテーマで全21プログラムを行った。
本イベントはIT団体が主催しているが、「Society5.0」「スマートシティ」「新型コロナ対策」「5G」「シビックテック」「ドローン」などなど、未来の社会、ビジネスのあり方がこれまでにどう推移し、今後どう変わるかということを平易な言葉で説明したプログラムも多く、ITエンジニアではない筆者でも大半が十分に理解できた。
講演映像アーカイブも多くはYouTubeの公式チャンネルに全てアップされているし、使用されたスライドPDFも同様に多くが公式サイトのプログラムページにアップされている。「この年末年始はちょっと新しいことを勉強してみよう」という意欲のある人にはぴったりのコンテンツだと言える。
本稿では、その中でいくつかのプログラムをピックアップし、講演の概要やアップされているものに関してはYouTube動画・資料へのリンクも記載していく。「ちょっとこれを見てみようかな」という興味を持っていただけるきっかけになれば幸いだ。
データエコシステム構築により人間中心のデジタル社会へ(Theme1)
イベント1日目のテーマは「ニューノーマル時代のデジタル社会」。with コロナというニューノーマル時代において、様々な産業の形態や、働き方などの生活のあり方がデジタル技術を使って、大きく変わりつつある。このデジタル社会に向け、オープンテクノロジーを活用した取り組みおよび今後の展望を紹介し、議論を進めていくという内容でプログラムが組まれている。
テーマ1で最初に紹介するのは、株式会社ウフルの「CDTO(Chief Data Trading Officer)」という一風変わった肩書を持つ杉山恒司氏による講演。
同氏の講演を一言でいえば、「Society 5.0を実現するためのデータ流通・利活用の最新状況と、近い将来やってくる未来」という内容だった。Society 5.0とは、これまでの社会を狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)と分類したうえで、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムを作り上げることで到達できる社会とされている(より詳しい内容は内閣府HPを参照)。
内閣府HPより
こうした社会を実現するためには、各個人、民間企業・団体、国・自治体のあらゆる行動データ情報を収集・集約し、かつそれが簡単に活用できるような枠組み、プラットフォームが必要になるが、これまでは企業や自治体は自分たちが保有するデータを囲い込み他者に利用されることを警戒してきたし、個人としても「企業や国が自分の行動データを収集し、悪いことに利用しないか」と危惧してきた(実際にそうした懸念が想起されるデータ収集事例も大企業・ベンチャー問わず無数に存在する)。
とはいえ「自分たちは大丈夫だけどあいつらは悪いことをするかもしれない」と警戒するだけでは何も進まないので、国も企業も巻き込み、データ活用のルール作りを進め、促進しようと奮起している一人が杉山氏というわけだ。
今回の講演では、ウフルが手掛けた事例として、和歌山県の南紀白浜空港で試験導入されている「3密可視化システム(導入施設に人感センサーや騒音センサーなどを設置し、人の密集具合を可視化しわかりやすく伝えるシステム)」や、同氏が理事も務める一般社団法人データ流通推進協議会(DTA)の取り組みなどが紹介された。
こうした動きに関する来年最大のトピックは、2021年秋までに設置される予定のデジタル庁であり、「データ流通を推進する国家のプロジェクトリーダーが誕生する意味は本当に大きいです。その間にやるべきこともほぼ整理されているので、あとは実行に移すのみになっています」と語った。
ウフル公式サイトより
一般社団法人データ流通推進協議会(DTA)での活動を紹介する一幕。講演動画キャプチャより
SMART CITY SHIBUYAの取り組み(Theme1)
一般社団法人 渋谷未来デザイン プロジェクトデザイナーの久保田夏彦氏と、博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」に所属する大家雅広氏による講演。
渋谷未来デザインとは、渋谷に集まる多様性に満ちた個性と共に渋谷の未来を生み出すプロジェクトを構想し、推進していくために生まれたオープンイノベーションハブであり、区役所単体では実行しきれないまちづくりを産官学の連携によって進めていこうという団体である。
本講演では既に計画・実施が進んでいるさまざまな取り組みが紹介されたが、中でも大きく取り上げられたトピックは、今年7月に設立が発表され、博報堂のミライの事業室も参加する「一般社団法人渋谷未来デザイン データコンソーシアム」の取り組みだ。市民の行動データに基づくビッグデータを集めて社会課題をあぶり出し、それを解決する行政サービス、社会サービスをいかに実装するかということを考え実践していくための組織である。
東京大学先端科学技術研究センターの吉村有司氏(特任准教授)が進める、ストリートビューの画像の空の部分を切り抜いて、何時にどこに日陰ができるかということや、日陰を通りながら最速で目的地にたどり着くためのルートがわかるデータベース「HIKAGE FINDER(日陰ファインダー)」や、MITメディアラボとパナソニックとの共同プロジェクトで、子育て世代にセンサー付き電動自転車で渋谷の街を走ってもらい、危険を感じやすい道を明らかにする一方で行政が考える「危ない道」とのギャップをあぶり出す「渋谷ママチャリプロジェクト」などが紹介された。
「HIKAGE FINDER」の紹介。講演動画キャプチャより
また、博報堂の大家氏は、三井物産と共同で進める「shibuya good pass(渋谷グッドパス)」の取り組みを紹介。「渋谷の社会課題を解決するソーシャルグッドなサービス」をテーマに、①体験やサービスへの参加、②まちのアイデア投稿・応援、③参加・応援がまちづくりに与えた影響の見える化を柱とするサービスで、2021年春にアプリのβ版テストを開始するとしている。また各社と連携したモビリティ、エネルギー、都市農園、オフィスなど連携サービスも準備中だという。
講演資料より
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