EVENT | 2020/12/04

外出できないコロナ禍を逆手に取り、世界でバズった珠玉のアイデアたち。クリエイティブ・スタジオ「Whatever」のつくり方【後編】

前編では、クリエイティブ・スタジオ「Whatever」結成の経緯から「らくがきAR」、「WFH(Work From Ho...

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前編では、クリエイティブ・スタジオ「Whatever」結成の経緯から「らくがきAR」、「WFH(Work From Home) Jammies」、「ROBOT VIEWING」などの作品を紹介してくれた、同社CEOの富永勇亮氏、CCOの川村真司氏、Corporate Development Directorの井上裕太氏の3名。

後編では、彼らの拠点である「WHEREVER」1Fのショップ「New Stand Tokyo」、シンガポール・チャンギ空港の生け垣でできた迷路「Blooming Passage」、Zoomの無料ヴァーチャル背景「Zoomoji」などの作品もご紹介いただいた。彼らが掲げる“Make Whatever.Rule, Whatever.”=「何でもつくり、ルールは無用だ」の真意とは?

聞き手・文:米田智彦 写真:神保勇揮

富永 勇亮

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立命館大学在学中の 2000年に AID-DCC Inc. 設立に参画、COOとして在籍、2014年4月 dot by dotを設立。2018年からPARTY New Yorkのプロデューサーを兼務、2019年1月に合弁、Whatever Inc.を設立、代表に就任。2019年8月に東北新社と共同出資しWTFCを設立、CSOに就任。 広告、インスタレーション、ミュージックビデオ、IoT、ファッション、TV などメディアを横断したプロデュース活動を行い、カンヌライオンズ、SBSW、文化庁メディア芸術祭、The Webby Awardsなどを受賞。 Lyric Speakerを開発するCOTODAMAへの出資、AI×ブラインドテイスティングで好みの日本酒がわかるサービス“YUMMY SAKE”への出資、テクニカルディレクター集団BASSDRUMへ出資、社外取締役を兼務、クリエイティブコミューン “WHEREVER”を運営するなど、クリエーター同士のゆるやかなネットワークをつくる事がライフワーク。

川村 真司

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Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。東北新社と共同出資して設立した、WTFCのCCOも兼任。 Whatever合流前はクリエイティブ・ラボPARTYの共同創設者/エグゼクティブ・クリエイティブディレクターと同時にPARTY New YorkのCEOを兼任し全てのグローバルビジネスを担当。数々のブランドのグローバルキャンペーンを始め、プロダクト、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など活動は多岐に渡る。カンヌ広告祭をはじめ数々の賞を受賞し、アメリカの雑誌Creativityの「世界のクリエイター50人」やFast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」などに選出されている。

井上 裕太

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マッキンゼーで日米欧における経営コンサルティングに従事後独立。企業の組織変革・事業創出を支援するほか、『WIRED』誌の北米特派員も兼務。2014年、TBWA HAKUHODOを母体としたスタートアップスタジオ・quantum設立に参加。CSOやCIOとして大企業及びスタートアップとの共同事業開発・投資を統括。
また、被災した若者のリーダーシップ育成支援の財団設立、文科省初の官民協働プロジェクト「トビタテ留学 JAPAN」の発起、九州大学 客員准教授として SDGsデザインユニットを支援するなど、産学官民連携も経験。
2020年よりWhateverに参加し、変革戦略と投資を主導。現在、デザインファームのKESIKI INC. パートナー、グッドデザイン賞 審査委員・ユニットリーダーなども務める。

Whateverのプロジェクト③最新Femtech商品が一挙に並ぶショップ「New Stand Tokyo」

富永:次はNew Stand Tokyoという、うちの1階のお店ですね。この建物はWHEREVERというコワーキングビルを始めた時に、この1階をスペースとして僕らが専有するにはもったいないし路面で立地もよくて外に開けている。六本木はやっぱりアートとか、日本の中ではグローバルな街なので、そういう人を巻き込める場にしたいということでギャラリーにする? ショップにする? という話をしていたんですけど、自社でやったところでそんなにハネないという結論になって。

川村:そこでニューヨークのNew Stand のCEOを務めるアンドリューに話をしてみたんです。彼とはNew Incというインキュベーターのメンター同士として出会って、PARTY New Yorkでもいくつかコンサルティングを手伝ったりしていました。彼が経営するNew Stand は、デイ・インプルーブメント・カンパニーという、毎日がもっとワクワクするようなプロダクトを紹介していこうということで始めていて、コンセプトにもとても共感していたので、そのアメリカ外初店舗を一緒につくれないかと打診してみたのです。そしたら「めちゃめちゃいいじゃん、東京大好き!」と好反応で、交渉の末かなり自由度の高い契約で日本でのライセンスをもらえました。それが去年の暮れぐらいで、そこからNew Stand Tokyo実現への作業がはじまりました。

New Stand本体は、元々News Standという新聞スタンドをリノベーションしようというシンプルなアイデアから始まっていて、最初の1号店は、ユニオンスクエアの地下鉄のキオスクを改造して、ボロボロの駅構内にいきなりおしゃれなセレクトショップをオープンしたことで話題になりました。販売されている商品は、日常的に毎日使うようなものなんだけど、ただすごくおしゃれだったり、ちょっと面白いアイテムが置いてあったりしていて。その後、全米で40店舗ぐらいまで拡大しています。

一方New Stand Tokyoは、元々New Standが本国で持っていたテーマを踏襲はしているんですけど、日本に持ってくるに当たって新聞売店だった過去はそんなに関係ないので、コンセプトはもうちょっと新しくした方がいいねということで、「未来の日用品」というテーマで、サステイナブルなプロダクトや、ソーシャルイシューを解決しようとしている商品を中心にセレクトして販売しています。

―― 消費者はプロダクトだけじゃなくてそこにまつわるストーリーも買っているのだという話が言われて久しいですね。

富永:はい。新型コロナもあったことで、ある種、そのコンセプトがタイムリーになったと思います、そんなニューノーマルがどうなっていくのか、という点ではすごく取り上げていただいて、メディアではかなり紹介されたんです。

New Stand Tokyo内にあるFemtechコーナー

特に注目されているのは、Femtech(FemaleとTechnologyをかけあわせた造語。女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる商品やサービスのこと)のコーナーです。Femtechの商品が路面店でこれだけ集まっているところは国内にはなく、国内未発売の製品を実際に見れるということで、たくさんの人に訪れて頂いてます。

「未来の日用品」をコンセプトにする僕たちのお店にとっては、Femtechは、まだ日用品になっていないモノの代表で、女性にとっての日常をこれからもっと良くするという意味では最適なプロダクトです。

NEW STANDのFemtech関連のキュレーションは、fermataに任せています。彼女たちは、孫泰蔵さんのMistletoeと共同でFemtechに特化したスタートアップに投資するファンドもやっていたりして、国内外のFemtech商品を日本に紹介する第一人者です。

彼女たち自身が店頭オペレーションをしてくれるので、Femtechを世の中にわかりやすく伝えるevangelistの役割ができています。

New Stand Tokyoはコロナ禍の中でオープンするのが狂っているね、と言われたりしますが、むしろ、こんな時期だからこそ、お店をやっていることで、今まで出会えなかったアーティストや生産者の方やにも繋がれたりしています。例えば、コクヨデザインアワードの展示やアーティストわかるさんとのコラボ商品、HERALBONYのPOPUPなど。お客様と直接繋がる場所があることで、日々新しいビジネスが生まれています。

Whateverの独自プロダクト④シンガポール・チャンギ空港の生け垣でできた迷路「Blooming Passage」

富永:あと、クライアントっぽい仕事を紹介すると、シンガポールのチャンギ空港にJewelってのがあるんですが……。

―― 僕、行きましたよ!

川村:本当ですか!!

―― シンガポールからの帰りの便で、空港に隣接しているJewelに寄っていろいろ巡っていたら、飛行機に乗り遅れました(笑)。走ったんですけど、もう搭乗はダメだって言われて(苦笑)。

川村:ターミナルが遠かったんじゃないですか。

―― 9時間待ちました、次の便まで(笑)。

富永:ただ、9時間楽しめますね!

――まあ、そうですけど(笑)。

富永:ここはシンガポール政府が力をだいぶ入れていて、ハブ空港としては世界一の規模なんだけど、これからもその地位を継続させるために、街に行かなくてもJewelにいればプチシンガポールを全部楽しめる場所にしようということで、約280商業施設が地下5階、地上5階に入っているんです。そして店だけじゃなくてもっとゆっくり楽しめるようにということで、40メートルの滝や、公園があるんですけど、その中には有料のアートゾーンもあって、僕たちはそのアートゾーンの一部の施設「Hedge Maze」という、生け垣でできた迷路の中に「Blooming Passage」というインスタレーションをつくりました。

人感センサーを迷路の中に入れて、人が移動すると感知して生け垣に花を咲かせるという作品です。

Hedge Maze”の中で人の動きに反応して色とりどりの花が咲き出す“Blooming Passage”

これは生の生け垣なので、あまり電気的な機構を入れると、水やりとか電源を切ったりする時に問題が生じるので、エアコンプレッサーで花を咲かせる独自の機構を開発しています。

―― 造花ですか?

富永:飛び出す花は造花です。これをつくるきっかけになったのが、大丸百貨店の創業300周年記念で制作したインスタレーション「Flower Mirror」です。

京都の大丸インタスタレーション

300周年記念として、京都本店と八重洲のお店に何かインスタレーションをつくりたいということで僕たちにオファーが来て、約800本の造花を使いそれをステッピングモーターでコントロールして花で作られた鏡のような作品をつくりました。

深度カメラが人の動きやシルエットを判別して、その人の姿を自由に開閉する花が鏡のように出したり、300周年にちなんで「300」の数字を映し出したり、他にも様々な文字や図形などの形を出したりする仕組みをつくったんですが、これを見た担当者がダイレクトに連絡をくれて、Jewelのテーマが「植物」だから一緒に何かできないかと。

こんな感じで、しっかりテクノロジーも使って海外の大きな仕事をもらったりしているんですけど、僕たちにとってはパジャマをつくるのも、これをつくるのもある種そんなにエネルギーのかけ方は変わらない。

川村:かける人の数や時間は相当違いますけどね(笑)。

富永:気持ちは同じ。どちらも細部にこだわってつくってる。

川村:僕らのクライアントはどちらかというともうちょっと領域をまたぐというか、「何をやってもいいから、とにかく伝えたいメッセージが届くようにしてほしい」という依頼が多く、こういったコンテンツ寄りのプロジェクトの方が数としては増えてきています。でも広告案件も、いまだに携わっています。

たとえばShopifyは日本でローンチするキャンペーンをやりたいということで、久しぶりに広告の仕事をしました。アメリカとかだとShopifyはすでに時価総額が10兆円を超えるリーディングカンパニーなんですけど、日本には数年前から参入はしていたのですが、人員も含めて体制が整っていなくて。その時から広告の相談をいただいて、ちょこちょこアドバイスをする中で信頼関係がつくれ、今年いざやろうとなったときに改めて声をかけてもらえたので嬉かったです。

こうした海外企業が日本進出するケースは本国のCDやCEOとやりとりしないといけないから、英語がちゃんとできるチームにお願いしたいと言われることが多いです。さらにはグローバル企業なので海外の知見やグローバルでも通用するクリエイティブが分かるチームを探しているとなると、未だに日本ではほとんど選択肢がないので、僕らのところへ相談がくることが最近増えています。2年前Slackの日本進出のローンチキャンペーンもやったりしたんですけど、海外のブランドが日本にエントリーするときはすごく僕らに注目してもらっているというか、依頼をいただくことが多くて。グローバルに通用するクリエイティブを作れて、テクノロジーへの理解もあるという特徴が、こういった海外のテックカンパニーに評価されているなと感じています。

僕や井上を中心にグローバルがちゃんとできるメンバーがたくさんいることで、国境を超えたクロスボーダーなコミュニケーションがつくれていると感じます。他でもUber Eatsの台湾でのキャンペーンや、過去にはNikeのフィリピンでの体験型イベントを実施するなど、アジアでの実績も積み重ねてきています。

次ページ:Whateverの独自プロダクト⑤8カ国でナンバーワンを獲ったアプリ「らくがきAR」

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