EVENT | 2020/12/04

外出できないコロナ禍を逆手に取り、世界でバズった珠玉のアイデアたち。クリエイティブ・スタジオ「Whatever」のつくり方【後編】

前編では、クリエイティブ・スタジオ「Whatever」結成の経緯から「らくがきAR」、「WFH(Work From Ho...

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Whateverの独自プロダクト⑤8カ国でナンバーワンを獲ったアプリ「らくがきAR」

―― ところで、コロナの影響はどうでしたか?

富永:むちゃくちゃありましたね。数億円ぐらいの損失。しかも4カ月ぐらいで(苦笑)。

―― うわー! プロジェクトが飛んだということですか。

富永:延期という名のキャンセルですね。僕と川村は今年3月のSXSWでスピーカーとして喋る予定だったんですが、イベントが中止になると聞いた時、これはオリンピックも、何もかもがすべてなくなると思ったんです。つまり僕らが6月までに予定している、さまざまなフィジカルのイベントもそうなるなと。僕たちは人がたくさん来る、わっとみんなが驚く、行列ができる、そういう「人を集めるクリエイティブ」をつくってほしいと言われることが多いので、それが密を避けろと言われたら全部なくなるなと完全に諦めて……。

川村:パジャマをつくり始めたんです!(笑)

富永:パジャマもですし、さっきのROBOT VIEWINGもつくりましたし、エンジニアリソースが空いたからこそ「らくがきAR」のローンチもできたんです。らくがき系コンテンツは元ココノヱの宗を中心に10年近く企画開発していて、AppleのARkitが出てきた2017年には「らくがきAR」アプリもプロトタイプまでは出来ていたので、コロナをきっかけに一気に公開までもっていくことができました。

これは描いた絵が命を吹き込まれて踊る。エサをあげて、食べ終わったらうんちをするという一連の流れを表現しています。

川村:うんこに気づかない人もいるようですね。「らくがきAR うんこ」って、結構検索で上がっている(笑)。

富永:これは配信5日で46万ダウンロードぐらいいったんですよ。めちゃくちゃダウンロードされて。

川村:8カ国の有料総合アプリランキングでナンバーワンでした。当初1000人まで無料キャンペーンをしていたんですが、瞬く間に30万ぐらいダウンロードされていたんです。結果、無料の総合アプリランキングでもナンバーワンになりました。ただ、そのお金、できれば欲しかったな、みたいな(笑)。

富永:そういう意味では、今回のようなタイミングは無理にクライアントワークを追い掛けても意味がないんですよね。クライアントも僕たちもストレスが溜まるし。なので、諦めて自社開発してしまおうということで、New Stand Tokyoの件も含めすべてのリソースをほぼ自社開発につぎ込みました。

次の新しいきっかけは、絶対に自分たちで生み出さないといけないんです。そういう意味ではそれを考える期間ができたこと、そしてその期間に何かつくれるメンバーがいるということは、幸運なのかもしれません。世の中にとってヒントになるようなものをどんどん生み出していければ、ROBOT VIEWINGのような新たな体験が生まれるし、「らくがきAR」みたいな巣ごもりを楽しませるものができたりするので。なくなったのはお金だけです(笑)。

井上:ああいうプロジェクトがその場でやりきれちゃうのは、さっきの「考えてつくれる」が社内で完結するからですね。私は結構いろいろな、いわゆるクリエイティブ業界の会社にいたりもしたんですけど、やろうと思っても普通の会社だったら、ここはどこかに発注しなきゃとなる。それがZoomで会議しながらその場でプロットができちゃって、1週間後には誰かが手作りでプロトタイプをつくって、その後にちゃんと商品化までできてしまう。今は軽やかに全部そっちに振ったと言っていますけど、これができるチームはほとんどないんじゃないかなという気がします。

富永:外部への発注があると意思疎通にも時間もかかるし、思いついたことをパッと実行するのは難しいです。全部自社で完結してしまっているからやれているのはある。

川村:自粛期間と言われていたけどこういう状況を逆手に取って、ただ自粛するというよりは富永が言ったみたいに次への投資期間として、話題になるものだったりもっと世の中で便利だったり、みんなの楽しみが減っている時期だからこそ、少しでも楽しくなれるようなものをつくったらいいじゃん、と思って活動しています。

結局5月から8月の間で9個ぐらいプロジェクトをローンチしていて、パジャマやROBOT VIEWING、New Stand Tokyo、らくがきARの他にも、ミルトン・グレイザー (Milton Glaser)とかポーラ・シェア(Paula Scher)とか、名だたるメンバーも参加したニューヨークのパブリックアートプロジェクトにも参加して、ポスターを二つ作って全米のビルボードに掲出されました。あとは、「Zoomoji」というタダで使えるオンライン会議用の背景をつくったり。

Whatevrが制作したポスターが全米のビルボードに掲出された

―― ああ、これは見ました!

川村:それから今グローバル展開のNHK Worldで展開している、楽しく手洗いができる手洗いダンスみたいなものを子どもに教えるショートフィルムだったり、野球の無観客試合を観客席にいるかのように見られるロボもですね。ROBOT VIEWINGと違って動かせないですけど、そのかわり360度試合会場を見渡せる仕組みになっていて、そういうまた別のリモートビューイングの形もコロナという状況で後押しがあったからつくれたものでした。

普通の時期と比べても結構プロジェクト数が多いというくらい5月~8月の4カ月にギュって凝縮して、いろいろなものを作りました。不謹慎かもしれないですけど、こういった世界規模の社会変化というか危機に見舞われている時期って、すごく明快に社会の課題点が浮き彫りになるじゃないですか。変えなくてはいけないものがみんなに見えて、それを後押ししてくれる空気が逆に生まれる。それが僕らにとってはチャンスでもあって。人と距離をとってとか、リアル空間に呼んではいけないとか、そういった制約が逆にすごくクリエーションのヒントになっています。

―― 制約がある方がクリエイティビティが増すという。

富永:だからこそアイデアがどんどん出てきたんです。これだけ4カ月のコロナ禍でつくれたというのは、僕らの一つの特徴ではあります。

領域を超え、ワクワクするものづくりをしていきたい

―― 最後に今後のビジョンについてお聞かせ願いたいんですけど、まずは富永さんから。

富永:今日、僕たちは取りとめもなくいろんなアウトプットを見せたので、なんの会社かわかりにくいと思いますが、Whateverは、その名の通り、なんでもつくります。メディアやジャンルといった枠組みを飛び越えて、誰も見たことがないような体験の、企画から開発まで行うという意味で、Crossborder:Genreであり、東京・ニューヨーク・台湾・ベルリンという4拠点を活かして、国境・文化を越えたブランディングやコンテンツ開発をサポートすることが可能という意味で、Crossborder:Culturesであり、通常の雇用形態ではない複数社で働くメンバーがいたり、コワーキングビル自体をつくっていろんなクリエイターたちも入っているような組織を越えたコミュニティを形成するという意味では、Crossborder: Organizationsでもあります。

僕たちはこれからも、きっとさまざまなボーダーを超越してモノづくりをしていくと思います。

川村:僕のそもそもの活動指針は、いかに効率良くもっと面白いものをたくさんつくれるかでしかなくて、今までの過去の会社もずっとそれでやってきました。その中でちょっとこれまで足りていなかったのは、さっき言ったビジネスドメインのことだったり、例えば自社でやったものをどうスケールしていくのかということだったり、かたやどうやってビッグブランドのC levelの人に寄り添えば大きいブランドの変革に寄与できるのかといった視点だったりでした。その足りないピースが井上がジョインしてくれて埋められているのがすごく助かるし、刺激的に感じています。

案件によっては、投資や外部CCO的にスタートアップの中に入っていってクリエイティブのお手伝いもできるようになりました。例えばメルカリのロゴリニューアルプロジェクトをTakramさんと一緒にやったり。

一発の勝負の打ち上げ花火的な話題化のための案件に関わるのも好きですけど、もっと長く付き合うとか、もっと恒久的に残るものをつくっていく仕事をやっていきたいと思っています。ようやくそれができるチームビルディングができたというタイミングでもあるので。

井上:このチームの強みは、自分たちがワクワクするものをつくりたいということがすごく根っこにあるなと思っています。

体験のデザインと実装だけじゃなくて、クリエイティブ目線で企業経営自体のアドバイザリができるとか、それこそスタートアップに投資して外部CCOとして経営に関わることができるようなチームが今後もっと求められてくると思っています。すでにWhateverではそれが実現されつつあるんですが、そういう方法をもっと試して、より人々に大きなインパクトを与えることで、みんながワクワクすることがもっとできるんじゃないかなという気がしています。


Whatever

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