CULTURE | 2020/11/26

“ビックリ建築”が放つ現代社会へのメッセージ 白井良邦(ビックリ建築探求家)【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(17)

加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の才能たち...

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忘れられた作品、異端の巨匠……徒花ゆえの輝きを愛でる

ーー ちなみに、これらの作品を手がけた建築家は、いわゆる建築界では名の知られた方なのでしょうか。

白井:いえ、ほとんど知られていない人ばかりです(笑)。むしろ、政治的なものやメディアを取り込んで自分自身を売り込んでいくような活動には興味がなく、純粋過ぎるほどに理念を追求しようとした人が多いように思います。とくに『フトゥロ』の建築家にインタビューを試みた時は、『フトゥロ』自体がオイルショックで姿を消してしまったこともあり、当時のことをほとんど忘れているようなそぶりで、切なかったですね……。

サーカシヴィリ政権下で建てられた建築群より、CMD『国会議事堂』(2012年/ジョージア・クタイシ)(写真:白井良邦)

―― 一方で、掲載例の中でも村野藤吾や黒川紀章、ブラジルのオスカー・ニーマイヤーは世界的にも知られる建築家ですね。

白井:確かに村野藤吾は文化勲章を受勲するなどしていますが、実作数やその完成度の高さからすると個人的にはまだまだ評価されていないと感じています。本紙で取り上げた『日生劇場』(1963年)は、曲がりくねった壁面や2万枚ものアコヤ貝による天井装飾など、独創を極めた傑作だと思います。

一方でニーマイヤーに関しては、首都ブラジリアの都市計画全体を手がけるなど世界的な注目を浴びながら、軍事政権下では国を追われ、欧州へ事実上の亡命をしています。その後、ブラジルでもう一度返り咲くわけですが……今でこそ英雄扱いされているものの、まさに波瀾万丈の人生だったと思います。彼は104歳で亡くなっていますが、以前に取材を試みてもNGだったのに、99歳で再婚をした時に「お祝いを届けたい」と個人的にコンタクトを試みたところ、すんなりOKが出たんです(笑)。にもかかわらず、気さくに1時間も話に応じてくれた。ニューヨークの国際連合本部ビルの設計案をル・コルビュジェに改変された苦い思い出を例に挙げて、「人生で後悔するような妥協をしてはならない」というメッセージをもらったのは、忘れられない思い出ですね。

オスカー・ニーマイヤー『ニテロイ現代美術館』(1996年/ブラジル・ニテロイ) 写真:森嶋一也

―― 作品も建築家も、いずれも数奇な運命を辿った例ばかり。いわゆる建築の本とはまったく異なる不思議な目線ですが、それはどうしてでしょう?

白井:そもそも“建築の本”を作るつもりはまったくなくて、建築に詳しくない人でも楽しめるもの、心惹かれるものを作ろうと心がけました。テキストも、それぞれの建築の背景にある歴史や理念をポイントにしています。建築家が建築に込めたメッセージを私が読み解き、言葉にすることで、現代の閉塞感に対するヒントにしたいと考えたのです。

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