LIFE STYLE | 2020/05/21

前を向いて「元の生活やビジネス」には戻さない。Withコロナのヨーロッパで今話されていること【連載】オランダ発スロージャーナリズム(24)

アートセンターに併設されているレストラン「メディアマティック」では、個室ダイニングとでもいうべき、これまでの「効率性」を...

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レジリエンスをいかに作っていけるか?

ここでキーになるのでは?と筆者が思っているのが「レジリエンス」という考え方。ヨーロッパでは、これが盛んに言われています。日本語だとなかなか適切な言葉で表現しづらいのですが、一般的には「回復力」と訳されることが多いようです。が、今、ヨーロッパで使用されている文脈を考えると、臨機応変力、対応力、柔軟性、あるいは余裕といった意味が含まれているように感じます。また「レジリエンス」を高めるためには、政府と国民が信頼しあい、普段から汚職、浪費などがない透明性を持ち、市民同士が連帯性を高める必要があると言われています。

例えば2019年、ドイツはOECDから「ICUの数が多すぎるので、もっと減らすべきだ」という指摘を受けていたと言います。ところが、今回のコロナ禍において、ドイツでは感染者こそ多かったものの死者はそこまで多くありませんでした。それどころか、実はオランダでも多くの重症患者がドイツのICUに運ばれて、助かった命が多いのです。2017年のOECDの統計によると、人口千人あたりの病床数はドイツが8.00床。オランダは3.32床。医療崩壊が深刻と言われたイタリアは3.18床、米国2.77床、英国2.54。一方、実は日本は世界一で13.0床です。

昨今は、あまりにも効率を重視しすぎるあまり、まったく余裕のなくなってしまった社会やビジネス環境となってしまっているのですが、ドイツではたまたまこうした余裕があったために、多くの命を救うことができたのです。

一方で、このコロナパンデミックの最中に、ベルギーで初の女性首相に正式に任命されたソフィー・ウィリアム首相は、2015年~2019年まで務めていた財務大臣時代に、医療費を削減したことにより、現在、医療関係者や国民から強烈な批判を受けています。

あまりにも効率性を重視しすぎる社会は、平等性も失います。富裕層から優先して治療を受けることができたり、「ソーシャル・ディスタンス」をとることができたり。それに対して、柔軟性も対応力もなく、ただただ効率だけを求められて、余裕のなくなった世界でしか生きていくことができない人の住むエリアなどでは、そこでクラスターが発生したら最後、治療も受けることができない、といったことなどが起こっています。今回はこうした不平等が明らかになりました。

ポストコロナでは、こうしたことがない「レジリエンスのある社会」にする、つまり「元の世界には戻らせない」というのが、今、欧州各地で話されていることなのです。

実は日本でも昨年来、政府は病院統廃合や病床削減を推進しています。医療費の膨張に対する懸念もあったのでしょうが、このコロナ禍において「レジリエンスを高めないといけない」という、世界のトレンドとは完全に真逆になってしまっています。早急に見直す必要があるのではないでしょうか。

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