EVENT | 2020/05/01

今、明かされるラグビーW杯招致の舞台裏。キーマン徳増浩司が語る「前例のないプロジェクト」を成功させる方法

2019年12月20日、慶應義塾大学日吉キャンパスにて、同大学院システムデザイン・マネジメント研究科の開設10年記念公開...

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質疑応答その1:国際社会に「刺さる」プレゼンの方法 

以下、ここからは質疑応答および、神武氏・矢野氏とのパネルディスカッションをお届けする。一度失敗したプロジェクトを再起動させる方法、「伝説のプロジェクト」はいかにして始まるのか、頑張った物事の「やめどき」はいつなのか、といったトークテーマについて、神武氏・矢野氏も交えた貴重な経験談が語られた。

Q1:招致にあたって大変だったことが多数あったと思うんですけれども、その中でも一番心に残っていらっしゃることは何か、そしてそれをどのように乗り越えたかということを教えていただけますでしょうか。

徳増:文化が違う他国の人たちに、何をアピールしたら響くのかということを探っていくのが大変でしたね。例えばイングランドのラグビー協会にプレゼンテーションに行った時の笑い話があるんですけど、イングランド協会の会長が自国の理事たちに向かって「日本人は人前で鼻をかむのは失礼だと考えているから、この場では謹んでほしい」と話しました。「あと戦争の話は厳禁だ」と。

で、いよいよ全員揃ってプレゼンが始まるかと思いきや、一人イギリスの理事が遅れて入ってきて、チーンと鼻をかんだらほかの理事が青ざめてしまいまいした(笑)。そうしたら今度は森会長が戦争の話を始めた。ラグビーを愛していた自分の父親が、第二次世界大戦中にイギリス人の捕虜と日本人との間でラグビーを行う場を設けて、ラグビーを通じて友情の絆が生まれたという話でした。それ自体は美談だったのですが、その場で通訳をしていた私自身も、頭をさっと聞き手側に切り替えてどうやったら伝えたいメッセージを正確に相手に伝えることができるか、全力を尽くしました。伝える側と伝えられる側のカルチャーの違いを知っておくことが大切です。

日本人の完璧主義も、プレゼンテーションはマイナスに働くことがあります。例えば「セキュリティはどうですか?」と言われた時に「今のところ90%確保できている」と言いがちです。「その10%で何かあったらどうしよう」と感じてしまうのです。ところが、プレゼンで勝つためにはまず「セキュリティは完璧です」と言い切るべきです。まず言っておいて後から考える、後からつじつまを合わせるぐらいのメンタリティでいかないといけないんですね。

徳増氏提供

質疑応答その2:一度失敗したプロジェクトをいかに再起動させるか

Q2:一度ワールドカップの招致に失敗してしまったあと、次もトライするためにステークホルダーたちとどのような調整をされたのでしょうか?

徳増:最初の招致活動は非常に孤独な活動でした。日本ラグビー協会の2階の小部屋で3人のスタッフによる招致事務局でした。周囲の人たちからも「あんなことやっても無駄だろう」と言われ、まるで中小企業の商品開発部みたいなものです。つまり、いま目の前にあるものに役に立たない。商品開発している財政的な余裕もない。そういう中で前に進めなければならなかった。

最初の招致には失敗してしまいましたが、これは明らかに次の招致活動への土台作りとなりました。たとえば、最初のころは名刺を差し出しても「どこの誰だろう?」という見方をされましたが、1回目の招致活動を通じて他国の理事たちがファーストネームで呼んでくれるようになりましたし、近隣のアジアの国々の皆さんが応援してくれるようになりました。

さっき話した「日本はこう見られているんだ」「だからこうしなきゃいけない」ということがわかった。そういう点では、招致活動が仮に失敗したとしてもやってみることに価値があると思うんですね。関わったスタッフたちが経験を積んで成長するということです。一方、日本協会自身も、自分たちがもっと実力をつけないと、世界では通用しないという考え方ができるようになりました。