「ほんの少しの変革」を支えるために
―― コロナ禍での休館について、今後、どうやって乗り越えようと考えていらっしゃいますか?
北條:今回のことは、1館2館が生き残るということではないと思うんです。業界全体がどうなるかというところまで来ています。#SaveTheCinemaみたいなところに映画館の皆で参加して、国からの補償や支援をちゃんと取り付けるようにする。今後も映画館に支援をしてもらえるような体制を今回のことを機会に考えてもらうことが重要だと思います。
いつ映画館が今まで通りにオープン出来るかは正直わからない状況ですが、コロナが収束したら、やりたい企画だったり、やってみたい特集上映を考えているのが今は一番楽しいですね。休館というこの状況が5月いっぱいまで続くとミニシアターはかなりまずい状況になりますし、6月まで続くと廃業するところが出てくるかもしれない。
―― 新作映画の公開延期も相次いていますが、ユーロスペースで特に観て欲しい公開予定の新作映画を教えてください。
北條:5月30日に公開予定のロシアのアレクセイ・ゲスマン・ジュニア監督の映画『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』は、観て欲しいです。1970年代のレニングラードが舞台で実在した伝説の小説家ドヴラートフの半生を映画化した作品です。画を見ていればその人の気持ちが分かる。緊張感のある画面なので、画を見ているだけでも面白いし、見終わる頃には彼がこういう思いだったんだと気づかされるんです。
『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』では、「雪解け」と呼ばれ言論に自由の風が吹いた社会に再び抑圧的な「凍てつき」の空気に満ち始めた時代に、ヘミングウェイなどアメリカ文学の影響を受け、飄々としたユーモア感覚でロシア文学史においてユニークな存在となったドヴラートフが、仲間と共に苦難をやり過ごし、孤独に葛藤し、自分の人生を生き抜こうとした姿を描く
©2018 SAGa/ Channel One Russia/ Message Film/ Eurimages
―― シネコンでは上映されない海外の新しい才能やヨーロッパの監督の作品を上映する理由はなんですか?
北條:新しい作家(映画監督)の仕事の方がリスクがあり手間もかかりますが、仕事としては面白い。アキ・カウリスマキ監督、アッバス・キアロスタミ監督のようにずっと一緒に歩んでいるというか上映しているのは、人間に対する観察眼とか描き方が他の監督とは 全然違うからです。
難民問題や貧困問題を描いたり、今の社会で映画が何をするべきかきちんと描いてくるのがカウリスマキであり、ケン・ローチ監督も社会をしっかり見て難民問題を映画にしているので、今回のコロナのこともきっと映画にしてくれると思うんです。ミニシアターでしか上映出来ない監督たちの作品ですから、その時に日本でちゃんと上映出来るようになっていたいし、これらの映画からこちらも学ぶことが多いんです。
―― ミニシアターでしか体験出来ないことはなんでしょうか。
北條:作品を選んで上映する側としての考え方ですが、ほんの少しの変革願望なんです。こういう映画を上映すれば、今まで分からなかったことを分かってくるんじゃないか、こういう映画を上映すれば、知らなかった作家のことを分かってくれるんじゃないか、それがミニシアターの仕事だと思っているんです。それを少しづつ重ねていけば、少しは映画の世界が変わっていき、社会の見方が変わっていくんじゃないか、歴史の見方が変わってくるんじゃないか、と思っているんです。
―― ミニシアターが消えてしまったらどうなるんでしょうか。
北条:ミニシアターは一度潰れたら復活しませんからなんとかしないといけないんです。岩波ホールが2018年に創立50周年を迎えたわけですが、そう考えるとこの国では50年間、文化と産業を守ってきたと思うんです。それが一気に無くなってしまうと、いざ、この文化を復興させるとなるとかなりのエネルギーと時間が必要になると思うんです。次の是枝裕和監督、濱口竜介監督は出てこなくなってしまいます。
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「ミニシアター・エイド基金」のクラウドファンディングはMotionGalleryで5月14日まで募っている。
エッジの効いた作品を上映する、シネコンでは見られない世界各国の社会問題を映画で上映することで、映画の見方はもちろん、社会への見方が変わるかもしれないと語ったユーロスペースの北條支配人。
そんな都会のド真ん中にある老舗ミニシアターは、全国のミニシアターが生き残ることを強く願っている。
第1回:「ミニシアター・エイド基金」の発起人のひとりである濱口竜介監督のインタビューはこちら
第3回:ポレポレ東中野&下北沢トリウッドの大槻支配人インタビューはこちら