CULTURE | 2020/04/24

映画館が危機に瀕する今だからこそ、濱口竜介監督が「ミニシアター・エイド基金」にかける想い|緊急連載 #新型コロナと戦うミニシアター (1)

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ミニシアターがなくなると映画界はどうなるのか

―― ミニシアターが消えたらどうなってしまうのでしょうか?

濱口:日本で年間上映される作品が約1300本あり、そのうちの1000本がミニシアターでの上映ですから、我々が観られる映画の選択の幅が著しく狭まってしまう。世界中の多様な価値観に触れる機会が失われてしまうということは、社会にとって大きな損失だと僕自身は思います。

―― 「ネット配信でも発表の場はあるじゃないか」という意見に対してはどう思われますか?

濱口:これは古い世代の考えかもしれませんが、映画が映画でなくなってしまう。YouTubeで作品を発表するというのも可能な世の中ですが、パソコンやスマートフォンではなく、映画館の大画面と大音響で観られるように作るのが、映画です。映画館が無くなってしまったら、まず作り方が変わってしまう。そうなると「映画」を作ることを志す若手の監督がものすごく出て来づらくなる世の中になってしまいます。

―― ミニシアター映画の特徴とはズバリ何でしょうか?

濱口:ちょっと単純化しますが、シネコンでかかる映画は1から10まで観客を楽しませますよ、という映画でしょう。それに対して、必ずしも漫然と見ていたら面白いかどうかわからない、「ちょっと退屈な映画」がミニシアターではかかります。だからこそ、映画館という環境が与えてくれる観客の集中力をものすごく必要としているのが、ミニシアターでかかる映画なんです。

例えば、自宅でネット配信を観ていたら、メールが気になったりもしますよね。そういった、注意が分散しやすい状況では魅力が感じ取りづらい映画がミニシアターではよくかかっています。映画館という場で、自分の目と耳を最大限開いて、集中力を発揮して見るのでないとその価値が現れてこない映画がたくさんミニシアターでかかっています。だからこそ、ものすごく質の高い、映画と観客の出会いがミニシアターで実現されるんです。しかも多様な形で。その体験というものが、もしミニシアターがなくなってしまったらそっくり失われてしまいます。

ミニシアターという場を必要としている映画が、非常にたくさんあるんです。観客に対して必ずしも分かりやすいだけではない価値というものが間違いなく存在しています。そういう映画のポテンシャルを十分に開いてくれるのが映画館の環境です。ただ経済性を重視すれば「ちょっと退屈な映画」はなかなかかからない、選ばれないわけです。それをミニシアターのプログラマーが、「これは観客に集中して見て欲しい」という強い思いで初めて上映を成り立たせています。もちろん興行ですから、経済性とある種の綱引きをしながら、芸術性、というと言葉が軽いですが、そういうものを保とうとしているのがミニシアターなんです。

*   * *

映画に関わる人の暮らしを守る即戦力になるようなお金を作るのが「ミニシアター・エイド基金」であり、5月末までには全国のミニシアターに分配できるようにしたいと語った濱口竜介監督。

コロナ禍により苦しんでいるのはミニシアターだけではないが、愛する映画やミニシアターの為に、まずはやれることをするという思いで立ち上げたクラウドファンディング。ミニシアターを救うためには、まだまだ支援金が足りない。

「ミニシアター・エイド基金」のクラウドファンディングはMotionGalleryで5月14日まで募っている。

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