EVENT | 2020/01/08

「日本の所得税が世界2位の高さ」ってホント?調べてわかった意外な事実

世界経済フォーラムのウェブサイトに寄稿した記事「Which countries tax their citizens t...

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世界経済フォーラムのウェブサイトに寄稿した記事「Which countries tax their citizens the most?」のグラフ

あくまでこれは「最高税率」の話

「日本の所得税が世界で2番目に重い」という衝撃のデータが存在する。

このデータは、ドイツの調査会社Statista(スタティスタ)のリサーチャー・Brigitte Van de Pas氏が2019年に国際的な非営利財団「世界経済フォーラム(The World Economic Forum)」のウェブサイトに寄稿した記事に掲載されたものだ。

1位がスウェーデンで57.19%、2位が日本で55.95%、3位がオーストリアの55.00%で、その後もオランダ、ベルギー、アイルランド、オーストラリアと並ぶ。

だが、これだけを見て「日本の所得税ってこんなに高いんだ!」と理解してはいけない。グラフにも「Highest rate of income tax」と書かれている通り、あくまで「最高税率」の話である。ちなみ日本の所得税最高税率は課税所得4000万円超の45%(これに2037年まで復興特別所得税2.1%が乗算され45.95%となる)で、これに住民税(このうち均等割で課される額が各都道府県・市区町村によって異なるので一概に言えないが、ざっくり書くと所得税の10%)が加算される。

ちなみに「それでは最高税率を納める納税者が何人おり、所得税をいくら払っているか」も気になるところだが、残念ながら日本ではそれがひと目でわかる統計データは存在しない。重複もあるため「合計すればこれが実態である」とは言えないものの、参考になりそうなデータを挙げると、国税庁の「民間給与実態統計調査(令和3年)」では給与所得者合計が5931万人・源泉徴収された税額が11兆1870億円の中で、最高ランクの「2500万円超」の人数は11.6万人(全体の0.4%)で、税額は2.03兆円(全体の17.5%)となっている。

また確定申告を行った人の統計である「申告所得税標本調査(令和2年)」では申告者合計が657万人で、所得税の納税額が5.8兆円。税率が適用される人が含まれる「2000万円超~5000万円以下」の納税申告者の割合が3.7%、「5000万円超~1億円以下」が0.7%、「1億円超」が0.3%で、合計が4.7%。この3区分の人が支払った税額を合計すると3.6兆円(全体の64.1%)となっている。


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「給料の何%が税金で取られているか」を見ると先進国平均よりも低い

OECD「賃金課税統計 2022年版」より、中央値の賃金を得ている独身労働者への課税割合のランキング。日本の順位とパーセンテージは赤く囲った部分

なお、近年では世界各国の税負担の割合を比較するためのデータとして、世界の主要国36カ国が加盟するOECD(経済協力開発機構)が毎年発表している「賃金課税統計(Taxing Wages)※リンク先は2020年版の日本語要約」が参考になる。

これは雇用者・雇用主が支払う個人所得税と社会保険料の総額から、現金給付の受取額を差し引いた金額で算出されるもので、簡単に言えば「雇用主が雇用者に対して支払っている総金額の何%が税金として取られているか」という割合であり「税のくさび」とも呼ばれている。

この統計の2022年版(※リンク先PDF)における、「中央値の賃金を得ている独身労働者への課税割合」を読むと、トップ3はフランス(47.0%)、フィンランド(42.7%)、トルコ(39.9%)と続く。日本は20位(32.6%)で、OECD加盟国平均(34.6%)より2%低い。また、同報告書にある所得税・雇用者の社会保険支払額・雇用主の社会保険支払額の割合を比較したグラフをみると、日本では所得税よりも社会保険支払額の割合の方が多いことがわかる。

同じくOECDの「賃金課税統計 2022年版」より、中央値の賃金を得ている独身労働者への所得税・雇用者の社会保険支払額・雇用主の社会保険支払額の割合を比較したランキング。日本の順位と割合は赤く囲った部分

これに加えて各国にそれぞれ消費税や自動車税、酒税など各種直接税の有無・パーセンテージの違いなどもあるので、一概に各国民の税負担を比較しているデータとは言えないものの、「賃金課税統計」を読むかぎり日本の一般庶民は他国と比べてもそこまで税負担割合が高いとは言えなさそうだ。

とはいえ、日本では「増収分は全額社会保障の充実に充てる」と謳って増税された消費税(2014年に実施した5%→8%へのアップ時点)の増収分で、明確に「社会保障の充実」に充てた割合がわずか16%しかない(大半が基礎年金国庫負担割合の1/2分、あるいは使途がいまいち明確になっていない「後代へのつけ回し軽減」という名目で占められている)という話もあり、税負担がどれだけの割合か、どれだけ上がったか下がったかを注視するのと同様に「税金がどんなことに使われているか」をウォッチしていくことも重要そうだ。

文:神保勇揮(FINDERS編集部)

2022年12月15日更新(初出は2020年1月8日)


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