文:神保勇揮(FINDERS編集部)
レノボは「次世代の企業経営者に贈る特別対談企画」として定期開催しているオンラインイベント「Lenovo C-Suite Chat Show」を7月8日(金)に配信した。
今回は、フリージャーナリストの池上彰氏を迎え、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社 代表取締役社長のジョン・ロボトム氏との対談が行われた。本稿では同対談のダイジェストをご紹介する。
なお、対談の様子は8月5日(金)18:00までアーカイブ配信されており、登録すれば無料で視聴できるのでお見逃しなく。
Lenovo C-Suite Chat Show
~Smarter Leads to Better Transformation~
https://f2ff.jp/lenovo/csuite-chat-show/22
PCだけじゃない!縦横無尽に広がるレノボのビジネス領域
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社 代表取締役社長のジョン・ロボトム氏(写真中央)と池上彰氏(写真右)。写真左はMCの川崎りえ氏
対談の冒頭、レノボの印象について聞かれた池上氏は、「IBMが2005年にパーソナルコンピュータ部門を売却した際、事業の選択と集中という意味でアリだと思いました。そしてそれ以降、法人向けではなく個人向け市場がどんどん広がってきて、パソコンを中心にコアビジネスと展開したのは“先見の明”があったと改めて思いますね」と語った。
これに対しレノボのジョン社長は、「今でこそ販売数世界一のPCメーカーではありますが、実はサーバー事業もIBMから買収し、もっともっとIT技術を活かしてソリューションを提供するといった、レノボとしてもトランスフォーメーションの最中です」と応え、さらにレノボグループが“ポケットからクラウドまで”をスローガンに、単にハードを販売して終わりではなく、あらゆるデバイスでのソリューションをワンストップで提供する体制を構築してきたことをアピールした。
続いて池上氏からは、「昔の日本企業は先行する企業や国に、追い付け追い越せと頑張ってきたのだけど、追いついてきてからは、自分の頭で考えなければならない。日本企業自体が転換期に来ている。」という課題が投げかけられた。
この課題について、日本生まれオーストラリア育ち、日本在住期間も18年以上と日本語も堪能なジョン社長は、「日本からオーストラリアに帰国する際はいつも日本の電化製品を必ず買って帰り周囲に自慢していた」という。「これまでも、今でも、日本から生まれた素晴らしいITソリューションはいくらでもあります。それをグローバル展開していく際に、レノボがお手伝いしていきたいと考えています」と語り、議論へと進んでいった。
「ある種の黒船」によってもたらされた日本の働き方改革のゆくえ
今回の対談で語られたテーマは、「働き方改革」「ビッグデータ」「医療」の3つ。
最初のテーマ「働き方改革」について池上氏は、「これまでも“長時間労働”や“女性活躍社会”は問題とされていたが、実現するのはまだまだ先と思われていた。ところが突然コロナになって、リモートで仕事ができるとなれば、家で子育てや介護をしながらでも仕事ができるようになった。“やり方を変えればできる”ということに、この2年間で皆が気付いたと思います」と語った。
ジョン社長も、「家から仕事をしなければいけないという状況になって、ITの力が働き方改革を加速させた。」と語り、トヨタ自動車の設計開発部門の3D CADソフトウエアが利用できる仮想デスクトップ環境を構築し、自宅でもオフィスと同等レベルの作業をできるようにしたレノボのソリューションを紹介した。
レノボの「データ中心型」インフラストラクチャー・ソリューション
https://www.lenovo.com/jp/ja/data-center/solutions/customer-stories/toyota
議論が進む中で池上氏は、「日本は“改良は得意”だが“大胆な改革は苦手”で、びっくりするような商品などはなかなかつくりだすことができない。働き方改革についても、これまで日本人はせいぜい水曜日をノー残業デーにする、金曜日をプレミアムフライデーにするといった小手先の取り組みしかできませんでしたが、コロナ禍が黒船のような外圧として働いて、一気に変わることができたと思います」と、日本の働き方改革についての自身の見解を述べた。
さらに二人の議論は、働き方改革における「リバースメンタリング」(若手社員が上司や先輩社員に助言や指導を行う人事育成方法)や「Z世代ならではの働き方」、「退職者の再雇用」などに広がり、これからの企業は考え方を変え、“若者の考えを受け入れ、フレキシビリティを持ち、いい結果が出せる環境づくり”に取り組む重要性について意見を交わした。
日本は隠れた「データ大国!?」ビッグデータをどう活用するか?
続いてのテーマは「ビッグデータ」。特にスマホから収集される人々の行動データはビッグデータとして注目されているもののひとつだ。ビッグデータについて解説を求められた池上氏も「位置情報などはプライバシーが抜き取られているような気もするけど、匿名の情報として処理されているのであれば不利益があるわけではない。人々の動きを大きなデータで集め、人の流れ方、行動が見えてくるとそこから新しいビジネスチャンスが生まれる」と説明した。
一方、ジョン社長によると「過去2年のデータは約2%しか使われていない。98%はうまく活用できていない」といい、今後の課題としては「集めたデータをうまく組み合わせて活用していくことが重要」と語る。
さらにジョン社長は「日本は資源がない国だとよく言われますが、外から見る日本は、特に製造業など資源がない国として、ものすごく上手に取り組んできたことが、経済成長につながったのだと思います。そして、まだまだ世界的に見ても日本は人口も多く、つまりデータの数も多い。それをどう使い、どんなサービスを提供できるかを考えていけば、成長機会は大いにあると思っています。日本はデータ大国なんです」と熱弁を振るった。
池上氏も、「日本は資源大国、1億2600万人が毎日データを作り出している」と応え、期待を寄せた。
続いて議論は、このように集めた膨大なデータをどのように処理するのか?レノボも取り組むスーパーコンピュータ(HPC)の話題へと移った。
ビッグデータの計算を担うスパコンは、世界中のメーカーが開発にしのぎを削っているが、ジョン社長によると、実はスパコンの性能ランキングである「TOP500」のうち、約3分の1がレノボのシステムを利用しており、ベンダー別のシェアでは堂々の1位を誇っている。直近では2021年12月に大阪大学核物理研究センターで同社のシステムが導入された事例もあり、着実な成果を生み出しているという。
導入事例 大阪大学核物理研究センター
世界有数の核物理研究を支える LenovoのHPC基盤
https://www.lenovojp.com/business/case/171/index_2.html
一方、コンピュータの性能向上に伴って気になるのは、データセンターにあるサーバーを含めた電力消費問題だ。ジョン社長によると機器の性能が現状のままの場合、2030年には電力消費量が今の6〜7倍に、2050年には600倍にも上るという試算もあるという。
これらの課題に対しレノボでは、2012年から「Lenovo Neptune」という水冷技術を展開。以後ずっと改良が進められており、今後は電力消費量やCO2排出の削減を進めるだけでなく、再生可能エネルギーの活用、そしてカーボンネガティブと言われるサーバーなどの稼働によって発生する熱を用いた暖房への活用するプランの検討なども進めているという。
Lenovo Neptune
https://www.lenovo.com/jp/ja/data-center/neptune
データセンターの水冷化を促すレノボ--廃熱の新たな利用も(ZDNet Japan)
https://japan.zdnet.com/article/35177234/
医療界のGAFAを日本から生み出す!?
最後の対談テーマは「医療」。このテーマでまず話題に上がったのはやはり新型コロナウイルス。池上氏は、「新型コロナウイルスは、発生直後からすぐに遺伝子解析が行われ、WHOを通じて世界中にデータを配布し、世界中の学者が同時に研究することができたため、通常7~10年かかるワクチン開発が、たった1年で完成することができた。このことは、今後も新たなウイルスが発生しても同じようにすぐにワクチンが開発できるという点や、がんについても、さまざまなデータを集積や個々のDNAの分析など、大きな役割を果たすようになるのではないかという点で、医療の可能性を明るいものにしている」と語った。
レノボのジョン社長も、製薬会社のリサーチ部門向けソリューションである「がん研究」や「ゲノム解析」においても、スーパーコンピューターの活用により処理スピードが格段に上がり、解析数が増えたことで、より効果的な薬や治療方法の研究が進められつつあることを紹介した。
一方、「日本はG7の中でもベッドの数も多く、MRIなどの機器もたくさんあります。でも医者・看護師は少ない。つまり現場にものすごく負担がかかる中で頑張っているということです」と、医療現場の負荷軽減を実現するための病院のデジタル化=DXについての重要性についても触れ、東京の牧田総合病院の移転に伴う電子カルテシステムのサーバー基盤統合を例に、「ITを活用し、サービスのレベルを維持しつつ負担を減らすことができるソリューションを提供、レノボとしてお手伝いしていきたいと思います」と語った。
レノボ、ゲノム解析でSCSKと協業
~ゲノム解析時間を従来比で約160倍高速化するGOAST検証環境を共同提供~
https://www.scsk.jp/news/2021/press/product/20211209.html
導入事例 牧田総合病院
病院移転を機に乱立する電子カルテシステムのサーバーの基盤を統合し課題を一気に解決
https://www.lenovojp.com/business/case/166/
さらに池上氏は、長寿化に伴い課題となっている“健康寿命”を取り上げ、「ギリギリまで健康で暮らせるように、デジタルトランスフォーメーションは役に立つと思いますし、ゲノム分析や薬、介護ロボットなど、少子化に対応する未来が生まれてくるのではないか、それをとにかく早く見たいなと思いますね」と語った。
ジョン社長も、「本当におっしゃる通りです。大企業による活躍はもちろんですが、医療だけでなくスタートアップもどんどん出てきてほしいですし、政府にもユニコーンを増やすような政策を期待したいです。スピード感のある会社が増えてITを中心に提供するサービスが増えると医療現場はもっと良くなると思います」と語り、「なるほど。医療界のGAFAを日本から生み出すというのは夢のある話ですね」と、池上氏も期待を寄せた。
対談の締めくくりに池上氏は、レノボがデバイスやハードウエアだけでなく、ソフトウエアを含めた包括的なソリューションで日本社会を支える、変えていく企業であることを認識したうえで、 “人間としてのソフト=人間にしかできないこと”の重要性について説き、ジョン社長も「日本はグローバルリーダーになって欲しい。日本から生まれたテクノロジーやソリューションは山ほどあります」と言い、「今後、日本社会において、どうやってITを使って生活レベルをあげていくか?ということに貢献したい」と語った。
今回、「働き方改革」「ビッグデータ」「医療」をテーマにデジタルトラスフォーメンション(DX)について議論を交わした池上氏とジョン社長。新型コロナウイルスをきっかけに突如進んだ働き方の変化や、ビッグデータの活用で驚くべきスピードで開発されたワクチンなど、DXにより世の中がさまざまな変化を遂げていることは言うまでもない。
そして、今後も次々と新たなテクノロジーが生まれる中で、“よりよい社会をつくる”ために、 “データ大国”である日本がさまざまな分野においてDXを推進し、世界の中でのより存在感を高めていくことに期待したい。