ゲオスピードの第1号店「ゲオスピード 仙川店」の外観。11月27日には2号店として小田急線沿線の「祖師ヶ谷大蔵店」もオープンした
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取材・文:6PAC
林俊樹(はやしとしき)
株式会社ゲオホールディングス 広報部(兼GM)・デジタル戦略部・情報システム部担当 上席執行役員
株式会社ゲオネットワークス 代表取締役、株式会社ゲオ デジタル事業部 担当執行役員、株式会社ゲオインタラクティブ 代表取締役会長、株式会社ゲオペイメントサービス 取締役も兼任
有料動画配信サービス拡大の中で、なぜ「新型店舗」なのか
Netflixの大成功が引き金となり、さまざまなジャンルの映像コンテンツが定額制の有料動画配信サービスというビジネスモデルへと移行している。2019年11月12日には、Netflixの牙城を切り崩すべく、ディズニー作品を筆頭に、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズといった世界的に人気の高い映像コンテンツを揃えた「Disney+」が、満を持してアメリカでサービスを開始した。プロレス団体のWWEや、八村塁選手がプレーするバスケのNBAなども、試合中継などの映像コンテンツを有料動画配信サービスで提供している。
NHK放送文化研究所やインプレス総合研究所などによる調査データを読むと、日本で有料動画配信サービスを利用したことがあるという層はおおよそ20%前後。「アメリカの今は日本の数年後」と良く言われるが、日本ではまだ全国的に浸透しているとは言えない状況だ。日本市場の特殊性ということも関係しているのだろうが、日本人も大好きなディズニー、ピクサー、マーベルといったキャラクター関連のキラーコンテンツが充実している「Disney+」が、本腰を入れて日本市場でサービスを開始したら、有料動画配信サービスがさらに普及するきっかけになるかもしれない。
そんなことを思っていたら、日本の大手レンタルビデオチェーンである株式会社ゲオが、新型店舗の「GEO SPEED(ゲオスピード)」を始めるというニュースを目にした。スマホで注文・決済したレンタル商品やゲームソフト・ゲーム機器を店内のロッカーを通じて受け取り、返却時も含めて店員と接する必要がないという形式だ。ただ店内は完全に無人というわけではなく、2名程度のスタッフが24時間常駐し、商品のロッカー投入や来店客対応(店頭でも商品検索や支払い・受け取りが可能)をしている。利用システムは通常のゲオ店舗の場合、新作が1泊2日、それ以外が7泊8日で固定されているが、ゲオスピードでは新作・準新作ビデオとCDアルバムが翌日13時まで100円、旧作ビデオとCDシングルが50円で、以後1日あたりの追加料金がかかるという「借りた日数分だけ払う」方式になっている。
ゲオスピードの料金体系
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ゲオスピードの狙いはどこにあるのか、ゲオホールディングス上席執行役員の林俊樹氏に話を訊いた。
駅ナカ駅チカ・誰にも会わず・大量の在庫から選びたいというニーズに対応
注文してから受取可能までの時間は「同時間帯の注文数にもよるが、最短で3分」としている
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―― 宅配レンタルも有料動画配信サービスも提供している御社が、あえて利用者に「DVDを取りに行かせる」形態のゲオスピードを立ち上げた理由についてご説明いただけますでしょうか。
林:「遠方の店舗にわざわざ足を運ぶのが面倒」、「誰にも会わずにレンタルしたい」、「夜中でも借りたい・返したい」などといったニーズに応えるべく、生活導線上で誰にも会わない新業態としてゲオスピードをオープンいたしました。
超小型のレンタル店を志向し、大都市部のレンタルニーズに応えつつローコスト運営をするのが狙いで、5年前くらいから構想しておりました。セルフレジの隆盛など、ユーザーが非対面を好むことが分かり、サイネージで非対人接触の店舗の企画が進行していって、今のロッカー型となりました。
注文から自宅に届くまでに少し時間がかかる宅配レンタルに比べ、ゲオスピードは即時性がメインです。通勤・通学の途中などに受け取って、すぐ観たい人にご利用いただけると思っております。従来のゲオショップを含め、さまざまなお客様のニーズを補完し合えると思っております。
―― ゲオスピードの消費者メリット、そして御社のメリットはどのような点にあるのでしょうか?
林:消費者側のメリットとしては、先に述べたようなニーズが叶えられることもそうですが、レンタル料金が固定泊数ではなく、基本料金と借りた日数分での料金形態ですので、必要な分だけの料金でレンタルすることができることが挙げられます。また弊社側のメリットとしては、ローコスト運営が可能で、狭い面積でも多くの作品を品揃えすることができるため、駅中や駅近郊での出店が可能になります。また、ユーザーの幅を広げることもメリットの1つです。
「生活動線上にある便利な店舗」がコンセプト
林俊樹氏
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―― ゲオスピードの一番のウリは何でしょうか?
林:アピールポイントはレンタル行動を便利にしているという点です。ゲオスピードの店舗では、滞店時間が最短で10秒程度とスピーディに利用でき、超大型店並みの在庫(仙川店では7万タイトル・10万枚以上を確保)からチョイスできるのがメリットだと考えています。現状の店舗では取り置きはやっていませんので、ウェブサイトで決済し、ロッカーに準備ができるとメールが来るのも便利ではないかと考えております。また、繰り返しになりますが、借りた日数分だけ支払う方式も新たな価値になると考えます。通常店舗は固定の泊数・固定料金ですが、決まった泊数、料金パターンではなく、お客様が必要な分だけの料金でレンタルすることができます。
―― 店頭だと観たい作品の在庫が1~2本しかなく、タイミングが合わなくてなかなか借りられないというケースもあったりします。一方、宅配レンタルでは在庫切れや貸し出し中といった問題は少ないようですが、ゲオスピードの場合はどうなっているのでしょうか?
林:大型店を超える在庫量となり、タイミングと作品によりますが、お客様が早く返却するメリットがある新たな料金体系ですので、在庫は早く回転するのではないかと思います。
―― ゲオスピードをまず東京・調布市の仙川店で始めるのは、テスト的な意味合いからでしょうか? 今後の展開予定についてお聞かせください。
林:「生活導線上で借りる・返せる」、「レンタル行動を便利にする」を目的としており、弊社の出店基準と物件を照らし合わせて、仙川店でのサービス開始を判断いたしました。今後は実証を経て、大都市部の多数店展開を企図しております。
動画配信と対決するのではなく、あくまで「お客の選択肢を増やす」
在庫検索から決済までの流れはすべてネットで完結しているが、店頭でも商品検索や注文が可能。店舗は完全に無人ではなく、入会申込や店頭注文などに対応するスタッフが24時間常駐している
―― Netflixに続き、ディズニー、ワーナー、NBCユニバーサル、Appleといったプラットフォーマーやコンテンツホルダーが続々と有料動画配信サービスに参入済・参入予定です。遅かれ早かれ、日本もこの動きに追随すると思いますが、御社としてはどう対抗していくつもりなのでしょうか?
林:すべての需要がVOD(ビデオ・オン・デマンド)の品揃えでカバーできるかどうかは日本ではまだ未知数の部分があり、決めるのはお客様だと考えております。弊社が取り組むべきは、お客様の選択肢を増やしていくことだと考えております。
―― 消費者側からすると、「確かにこれは便利だし安い!」という声もある一方、「早く返せばお得というのはわかるけれど、急かされているような気持ちにもなる」「ネット配信されていない、マイナー作品や旧作こそ充実させてほしいがまだ少ない」といった声もあるようです。少子化ということもあり、こうした不満を解消して、より多くのロイヤルカスタマーを抱えることがレンタルビデオ業界の生き残り策なのかと感じます。御社はどうお考えでしょうか?
林:あくまで事業ですので、利益や効率をにらみながらになりますが、「さまざまな需要にお答えできているか?」に対する回答は難しいです。ただ、趣味性の高い商品を取り扱わないとは考えていません。レアな作品を切り捨てる意図もございません。リピーターとして弊社のサービスを利用していただいているお客様も新規のお客様もどちらも大切だと思っております。料金に関しましては、繰り返しとなりますが、ゲオスピードでは、レンタル料金は固定泊数ではなく、基本料金と借りた日数分での料金形態ですので、早く返すほど、お得にレンタルができます。
―― 現在、御社が課題としてとらえている問題は具体的にどういったものがあり、それを解決するためにどう動こうとされているのでしょうか?
林:弊社全体では、従来の事業(レンタル事業・リユース事業など)の革新と、新たな新規事業の創出に取り組んでおります。詳細に関しましては、現状お話できることがございません。
―― 今後ますます存在感を強めていくであろう有料動画配信サービスに対し、御社は「競争」か、それとも「共存」か、どちらの姿勢を取っていくのでしょうか?
林:弊社といたしましては、競争を意図するというわけではなく、お客様の選択肢を提供していきたいと思っております。
―― 時代の流れということもありますが、すでに有料動画配信サービスに流れていった消費者も多いかと思います。いまだに御社のレンタルサービスを利用されている方々に対して、なにかメッセージはありますか?
林:今後とも、レンタルをご贔屓にお願いいたします! ゲオショップ、ゲオスピード、宅配レンタル、どれであってもお客様が“便利で使いやすい”と思う弊社のサービスを使っていただければと思っております。