文:岩見旦
世界の富裕層は、常に世界中の国や地域を移動している。より税金の安い国や、環境汚染や犯罪の少ない地域に移り住むこともあるだろう。あるいは単なる気分転換というパターンもあるかもしれない。しかし、富裕層が移住先として魅力を感じている国、見放している国には傾向としてそれぞれ事情があるようだ。
アフレイシャバンク・モーリシャスの調査を元に、Visual Capitalistが制作した、昨年移住した世界の富裕層の流出国、流入国をまとめたマップを紹介する。
世界中で移住した富裕層の人数は2017年の9万5000人から14%増加し、2018年は10万8000人となった。このマップの緑の矢印が富裕層の流入、赤の矢印が富裕層の流出を表している。また、ここでは富裕層を資産が100万ドル(約1億1000万円)以上と定義している。
富裕層が最も流出している国、中国
直近20年間で最も多くの富裕層を誕生させた国である中国。現在もまだ成長を続けているにも関わらず、最多となる1万5000人の富裕層がこの国から流出した。ただし、この人数は中国の富裕層全体の2%に過ぎない。流出国2位はロシア、3位はインドと続いた。
注目すべきは流出国4位のトルコだ。昨年通貨危機が発生し、リラの下落率は3割に達した。インフレ率は約20%に達し、失業率が上昇。有権者の間で不満が高まり、抗議活動が行われている。このことを敏感に察した、トルコの富裕層全体の10%に当たる4000人がこの国を離れた。
富裕層が最も流入している国、オーストラリア
一方、富裕層が昨年最も流入した国はオーストラリアで1万2000人。2位のアメリカをしのぎ、4年連続で1位となった。堅調な経済を背景とするオーストラリアは、子育てに向いているとされている。また相続税がなく、医療費も低いため、アメリカの代わりとして富裕層から熱い視線を集めている。
2位のアメリカには1万人が流入。ニューヨーク、ロサンゼルス、マイアミ、サンフランシスコにはそれぞれ1000人が移り住んだ。また、流入国3位はカナダと北米の国が並んだ。
日本は流入国、流出国ともに名前が挙がっていない。しかし、日本の相続税は最高税率55%と、世界的に見ても非常に高い。また2020年1月からは高収入の会社員に増税を課す新税制が適用されることから、今後富裕層の流出が加速するのではと不安視する向きもあるようだ。