EVENT | 2019/04/04

銀座久兵衛も絶賛するわさびのおろし金『鋼鮫』。開発した老舗食品会社、山本食品が込める想い

©2018-2019 YAMAMOTO SHOKUHIN.
食品会社と聞くと、肉や魚などの加工、製造、販売を...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

©2018-2019 YAMAMOTO SHOKUHIN.

食品会社と聞くと、肉や魚などの加工、製造、販売を展開する会社を連想するのが一般的だ。おいしいステーキを焼くためのフライパンや、肉を切ることに特化した包丁など、肉や魚を美味しく食べるための調理器具や雑貨も販売している食品会社など聞いたことがないだろう。

静岡県三島市に株式会社山本食品という会社がある。わさびの加工、製造、販売を主事業とし、売れ筋商品のベスト3が、わさび漬、わさびマヨネーズ、わさびアヒージョという、明治38年創業の「伊豆のわさび屋」だ。同社では一般消費者向けにわさびの加工品を販売するが、一方で寿司屋などのプロが支持する調理器具を販売していたりもする。飲食業のプロなどから高い支持を得ている商品とは、“わさびを美味しく食べるためのおろし金”の『鋼鮫(はがねざめ)』だ。

この『鋼鮫』を企画・開発したのは、わさびの専門家とも言える同社の4代目社長、山本豊氏。『鋼鮫』に関する詳しい話を同氏に伺った。

取材・文:6PAC

銀座久兵衛のテレビコメントが導火線となり全国から注文殺到

山本豊氏
©2018-2019 YAMAMOTO SHOKUHIN.

『鋼鮫』は、これまで最もわさびをおろすのに適しているとして江戸時代ごろから用いられてきた鮫皮おろし板よりも、さらに辛味や香りが引き立ち、かつ手入れの容易さ(鮫皮おろし板は使用後に洗って完全に乾かさないまま食器棚などにしまうと、高確率でカビが発生してしまう)を両立させたアイテムだ。

静岡県立大学食品栄養科学部の食品科学研究室が行った研究結果によれば、一般的な「金属おろし金」の辛味度を1としたとき、「鮫皮おろし板」は約1.2、『鋼鮫』は約1.5であることが証明されている。

データ提供:静岡県立大学 食品栄養科学部 食品科学研究室

現在は3種類のバリエーションで販売中。スタンダードモデルである『本わさび専用おろし板 鋼鮫』(税込4,320円)、ミニサイズの『本わさび専用おろし板 鋼鮫ミニ』(税込2,700円)、プロ仕様で最も大きい『本わさび専用おろし板 鋼鮫プロ』(現在キャンペーン中で税込1万800円。定価は税込1万4,040円)となっている。いずれも多くの注文が舞い込んでおり、発送まで約1カ月待つ必要があるほどだ。

発売当初は一般消費者による購入が多かったものの、SNS経由で認知度が上がるにつれ、プロからの注文が徐々に増えていった。Twitterでバズった昨年末頃からは、メディアにも数多く取り上げられ、日本屈指の有名寿司屋である銀座久兵衛が「『鋼鮫』は本当にいい、当店でも使っている」と複数のテレビ番組でコメントした。これが導火線となり、以降全国の寿司屋、日本料理店、そば店からの注文が殺到することとなった。すると、今度は「プロが認めた『鋼鮫』」ということで、再び一般消費者の購入も増加する好循環を生むことになった。

一番売れているのはスタンダードの『本わさび専用おろし板 鋼鮫』で、販売総数全体の約6割を占める。累計販売数は明らかにしていないものの、2019年になってからの『鋼鮫』3種合計の累計販売数は、3月23日現在で約7,000枚だという。

お客さんからの声がきっかけで『鋼鮫』を開発することに

写真左がミニモデル、中央がスタンダードモデル、右がプロモデルとなっている
©2018-2019 YAMAMOTO SHOKUHIN.

『鋼鮫』の開発のきっかけはお客さんの声だった。「家ですりおろしたら全然辛くなかった」、「思ったより風味が乏しかった」といった声を寄せてくれたお客さんに、どうやってわさびをおろしたのかを詳しく聞くと、家庭にある金属やプラステック製の薬味おろし器を使い、大根おろしを作るようにすりおろしているのが現状だったという。

わさびの正しいおろし方を知らなければ、寿司屋で食べるような本物のわさびの味がわからない。老舗和食店で提供されるわさびのように、わさびが本来持つ風味や辛味を味わってもらいたい。そのためには、わさびのおろし方やコツを知らなくても本当のわさびの味を引き出せるおろし板が必要だといった想いが、『鋼鮫』へとつながっていくきっかけだった。

そんな中、10年前に地元信金の異業種交流会で、町工場と呼ばれる会社の経営者達と知り合うことになった。素晴らしい技術力を持っているが、下請けという立場で仕事をしているため、その技術力が世の中に知られてないことを知り、ならばと5年前に町工場発の雑貨事業を始めた。はからずも、この町工場の技術力が『鋼鮫』の実現を後押しした。

「『鋼鮫』の開発の最初のひらめきは金属を溶かして加工する“エッチング”という技法を知ったこと」だと同氏は言う。職業柄ということもあってか、「初めてこの微妙な凹凸に触れた時、わさびがおろせないかな?と感じ、まずはやってみよう!と脳内行動が始まった」そうだ。

「成功の反対は失敗ではなく何もしないこと」をモットーとする同氏は、即行動に移した。「最初は理屈ではなく、とにかく試作を作っては実際にわさびをすりおろして試す、を繰り返しました」という。初期の頃にはおろし面に、三角、四角、星形といった形が描かれ、次にABCやアイウエオといった文字が試された。その中でアルファベットの「C」の形がわさびをおろすのに一番良いことに気付いたそうだ。「この円に一箇所開きがある形に何かヒントが?と思いました」と言う同氏が、200以上の形や文字を試して最終的に採用したのが「わ」「さ」「び」の3文字。この3文字の形の中には、偶然ではなく「C」の形が入っている。

刺身のおまけではない「主役」たりえる美味しさを目指して

よく見ると、おろし面に「わさび」の文字が記されている
©2018-2019 YAMAMOTO SHOKUHIN.

『鋼鮫』が話題になったことで、「わさび屋としての知名度が上がると共に、わさび漬けなどの当社製造商品の売上も全体的に伸びております。特に当社が元祖の『わさびマヨネーズ』や、わさびアヒージョなども引っ張られる形で売れています」と、その波及効果を語る。

山本食品オンラインショップで販売されている、わさび加工食品の一部

「『鋼鮫』を開発・販売した目的は、本わさびがいかに美味しいかということを再確認して欲しいというわさび屋としての願いからです」という同氏。「高価なお刺身をチューブや付属のわさびで召し上がるのではなく、普段召しあがっているスーパーでお買い求めのごく普通のお刺身を、『鋼鮫』でおろした最高の状態の本わさびで召し上がって頂きたいです」ともいう。

そんな同氏の一番のお勧めレシピは「わさび丼」だ。温かいご飯の上に鰹節をたっぷりかけ、『鋼鮫』でおろした本わさびをのせて醤油を混ぜながらいただくシンプルな丼だが、「本わさびを最も味わえる逸品」だそうだ。

「わさび」というものを軸に、どういった未来予想図を描いているのか訊いてみた。すると、「今やあらゆる加工品に“わさび風味”があふれています。もちろん、わさびという文字がパッケージに書かれ、わさびがメジャーになることは嬉しいのですが、“ツンと鼻に抜ける辛味”がわさびと思われているのは本意ではありません。わさび屋から言わせると、わさびの立ち位置ってとても不思議なんです。本わさびは誰でも“高価なもの”だということは知っているはずなのに、加工され形を変えると安価になっていくんです。チューブのわさびや粉わさびは数百円もしくは百均ショップでも購入できるような価格帯に、さらにもっと小さなパック(袋)になると、刺身のおまけとなり価格もつかない。同じわさびという名前なのに…だからこそ知ってほしいんです。本当のわさびを、本当のわさびの美味しさを!混ぜものや西洋わさびは、わさびという名前であってもわさびではないことを。私は伊豆のわさび屋です。わさびは日本原産のハーブです。今はとにかくまず日本国内の皆様に本わさびを再確認していただきたい」と熱い想いを吐露してくれた。

『鋼鮫』に限らず、株式会社山本食品では4年前から打ち出している『わさびを、もっと、おもしろく』というキャッチコピーのもと、今後もわさび屋としての最大使命である「わさびの魅力を知っていただくこと」に注力した取り組みや製品をどんどん発信していくそうだ。


山本食品公式サイト

『鋼鮫』公式サイト