ITEM | 2018/10/22

会社倒産!その「兆候」はあなたの会社にも迫っているかもしれない【ブックレビュー】


神保慶政
映画監督
1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏...

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神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

成功事例は「ヒント」、失敗パターンは「学び」

「失敗は成功の元」とはいうものの、できれば失敗は避けたい。経営者向けの月刊誌「日経トップリーダー」の編集部が帝国データバンク、東京商工リサーチの協力のもと、倒産した23社を徹底取材した『なぜ倒産 こうするよりほかになかったのか―』(日経BP)では、倒産企業のケーススタディから、命運を分けた瞬間の法則性が分析されている。

本書では成功事例というのはあくまで「ヒント」であって、それをコピーするのではなく自社仕様にうまく応用する必要があると説いている。一方、失敗は事例を比較・分析していると、「この時、この瞬間がカギだった」という転換点の共通性が見えてきて、他企業であっても失敗しかけている時は同じようなパターンが再現される確率が高いという。

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成功はいくつかの要因の組み合わせですが、失敗は究極的には1つの判断ミスによるもの。例えるなら、成功とはブロックを地道に高く積み上げることであり、失敗とはブロックの山のどこか一カ所に異常な力が加わることで一気に崩れるイメージです。成功の要因と違って、失敗は原因を特定できる分、ダイレクトに役立つのです。(P4)

本書は下記のような3章構成となっている。

第1章:急成長には落とし穴がある
第2章:ビジネスモデルが陳腐化したときの分かれ道
第3章:リスク管理の甘さはいつでも命取りになる

例えば、第1章ではキモかわいい絵柄が話題となりヒットした、なばたとしたか『こびとづかん』で急成長した長崎書店の経営破綻が紹介されている。担当編集者が退職し、移籍先の会社で同書の契約が見直され、長崎書店は出版権を失った。同社は利益の多くを『こびとづかん』やその関連商品に依拠していており、業績が順調な時に本業以外の投資をしてしまっていたことや、同書の契約条件の整理を重要視しなかったことが命運を分けたのだという。

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ヒットを生み出した後こそ、経営者の力量が問われる。ヒットにつながった自社の強みを分析した上で、それを生かしながら次の成長戦略を描かなくてはならない。(P77)

このように、23社分の事例が業績推移やまとめとともに本書には紹介されている。

失敗の「兆し」に敏感になろう

倒産とは「債務を弁済できなくなること」だ。2017年には約8,400件の倒産があり、本書では法的倒産と私的倒産に分けて説明がなされている。

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法的倒産には、再建型の「会社更生」や「民事再生」、清算型には「破産」や「特別清算」があります。一方の私的倒産は「銀行取引停止」や「任意整理」です。 倒産は「会社の死」を意味するものではありません。再建型の倒産では事業が継続されます。(P90)

第2章で紹介されているアート・スポーツという会社の事例を見てみよう。専門的な品揃えと手厚い接客で知られていた同社は、ピーク時は売上65億円を超えていた老舗スポーツ用品店だった。

2000年代に入っても錦織圭人気によるテニスブーム、東京マラソンによるランニングブームなどがあり好調だったが、東日本大震災震災、インターネット通販の急拡大の影響によって営業不振が続いたという。

成功体験は時に負の遺産になる。スポーツ好きの社長には「広い店に客は集まる」という確信があり、撤退のタイミングを逃して資金流出が続き、アート・スポーツは2017年に自己破産した。その後、ISG石井スポーツグループが業務提携をして経営を引き継ぐ形で再生した。

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実際、アート破産後の閉店セールでスタッフに尋ねると「商品の特徴を説明した直後に、店の外に出てスマートフォンで購入するお客様がいた」という。実店舗で商品を見て、価格の安いインターネット販売店で購入することがスポーツ用品でも増えていた。(P140)

筆者も同様のことをした覚えがあり少し心が痛んだが、店舗とネットとで数千円単位も値段が違うような場合、やはり多くの人は安い方を選んでしまうのではないかと思う。

本書にはこのように世の趨勢と読者の皆さんの経験がリンクする事例が多くあるはずだ。韓流ブームに頼りすぎたDVD制作会社、経験の浅いレストラン事業を拡大しすぎてしまった豆腐メーカー、百貨店に売上を依存していたフォーマルドレスメーカーなどが紹介されているが、本書を読むと身のまわりの小さな「兆し」を俯瞰した目線で見ることが可能になるだろう。

失敗例の知識は「こうすればよかった…」を予防するサイエンス

本書には倒産した企業の「生の声」が収められたインタビューも掲載されている。取材を断っている企業も多いが、収録されているインタビューはどれも一言一言に重さを感じる。

民事再生法を2013年申請したある中小部品メーカー元社長のインタビューでは、資金繰りに追われる前に抜本的な経営改革をしなかったことの後悔が語られている。

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やはり、本業の中に強みが隠れていると思います。また、不良資産となっていた土地を早期に売却すべく、早くから金融機関と交渉すべきだったとも感じています。(P225)

金策だけにとらわれていると前向きなことに取り組めない。リスクをできるだけ分散し、一社依存による利益の偏りを防ぐ必要があったということだ。

筆者が従事する映画産業も常に様々な困難さを抱えている。ストリーミングが普及して外出先でも映画が見られるようになり、映画以外の娯楽も増え、観客の動向は予測ができなくなってきている。『ワンピース』『ドラえもん』『アンパンマン』などファミリー向けの鉄板作品があるおかげで経営が成り立っている映画館は多い。だが大衆向けの作品ばかりに偏ってしまうと、映画の文化・芸術的側面が弱体化していってしまう。けれども、映画を見せる側も作る側も「失敗できない」状態が続いているため、リスクを回避するためにどうしても偏りが生まれてしまうのだ。

「他人の不幸は蜜の味」とはいうものの、本書では「成功はアートだが、失敗はサイエンス」と書かれている通り、失敗から学び、よりよい社会を実現しようというコンセプトで書かれている。ぜひ本書で「こうすればよかった」という状態に陥らないためのサイエンスを頭の中にインプットして欲しい。