LIFE STYLE | 2018/09/19

アメリカで密かに巻き起こる「右ハンドル日本車」ブーム。背景には映画『ワイルド・スピード』の影響が

取材・文:6PAC
製造から25年経過すると米国内では「クラシックカー」
ある分野に詳しい人たちが好んで使用する専門...

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取材・文:6PAC

製造から25年経過すると米国内では「クラシックカー」

ある分野に詳しい人たちが好んで使用する専門用語は、その分野に興味がない人にとっては暗号のように聞こえてしまうものだ。「JDM」という言葉を聞いて何のことかピンと来た人は自動車の輸出入ビジネスに関わっているか、相当なクルマ好きではないだろうか。

JDMとは「Japanese Domestic Market(日本の国内市場)」を意味するのだが、平たく言えば日本国内仕様の右ハンドル車のことだ。1970年代以降のアメリカでは普通に左ハンドルの日本車がたくさん走っているし、あちこちに日本車ディーラーがあるので日本車自体は簡単に購入できるのだが、近年一部のアメリカ人の間でこのJDMと呼ばれる右ハンドル車が人気だという。

右ハンドル車の輸入を認めていないアメリカという国で、国内仕様の日本車に乗るには「25年ルール」という壁が存在する。製造されてから25年経過していれば、米国内では「クラシックカー」に該当することになり、右ハンドル車を輸入できるようになる。おまけに関税も排ガス規制も対象外となるのだ。

映画「ワイルド・スピード」シリーズによって生まれた日本車人気

「アメリカ国内でスカイラインGT-R(BNR32型)を一番多く売った」という米フロリダ州オールドスマーの輸入業者、Montu Motorsのメカニック兼セールス担当のサミュエル・ジョセフ氏に詳しい話を聞いた。

Montu Motorsのトップページ

同氏は「当社でJDMを月に何台販売しているか数字は公表できないが、JDMの対する需要は非常に強い」という。ゲームの『グランツーリスモ』や、映画『ワイルド・スピード』の影響でJDMの人気が高まったそうだ。ワイルド・スピードシリーズの顔でもあった、今は亡き俳優のポール・ウォーカーも、スカイラインGT-Rとスープラを所有していたのは有名な話である。

同社の公式サイトを見ても、スカイラインGT-R、スープラ、ランサーエボリューションといったワイルド・スピードシリーズの常連だったJDMが顔を並べている。価格的には、スカイラインGT-Rが2万5,000ドル(約278万円)前後、スープラが4~5万ドル(約445~556万円)となっている。ちなみに1番人気はGT-Rで、2番人気がスープラとのこと。

米国内で近年注目されているJDMは、「最近だと、スカイラインGT-RのBCNR33型とBNR34型、マークIIのJZX90型とJZX100型、オートザムAZ-1、フィガロ、ランサーエボリューションといったところが注目度が高い」という。また、2019年に輸入解禁となるスバルWRX STI(インプレッサ)とスカイラインのHCR33型も注目の的になっているそうだ。JDMの魅力は、「なんといっても信頼性と改造の余地が残されている点」だという。

ジョセフ氏によると、米国でJDMの輸入が活発化したのは2014年で、国内で規模の大きいJDM輸入業者は10社以下。競争はあるが、それ以上にお客さんのニーズが強い状況だそうだ。予想はしていたが、購入者は主に20~30代の男性だという。

YouTubeにはMontu MotorsからスカイラインGT-R(BNR32型)を購入したコロラド州の警察官、マットさんのインタビューがアップされているのだが、9月12日時点で約142万回も再生されていることから、注目の高さがうかがえる。

マットさんによれば、「GT-Rに乗っている時はロックスターにでもなった気分です。駐車場で後をつけられたり、親指を立てられたり(いいね!の意味)、手を振られたりします」とのこと。「“警察官なのにGT-R乗ってるなんてイケてる”とも言われます」とも言う。GT-Rに乗っているととにかく人目を引くようで、「映画やゲームの中でしか見たことがない車が目の前に現れたら、誰でも触りたくなりますよ」と語る。渋谷のスクランブル交差点にフェラーリで乗りつけようものなら、大注目を浴びるのは必至だが、それと同じ現象がアメリカでも起こるのだ。

マットさんが購入したスカイラインGT-R(BNR32型)は、2014年8月1日午前0時1分ちょうどにカナダ国境を超えて、アメリカに入国したこと自体がウェブメディアで記事にもなっている。

FIRST LEGAL R32 NISSAN SKYLINE GT-R IN U.S. IS COP-OWNED (W/VIDEO)
https://www.motortrend.com/news/first-legal-r32-nissan-skyline-gt-r-u-s-cop-owned-wvideo/

This Cop Imported The First Legal R32 Nissan GT-R Into The US
https://carbuzz.com/news/this-cop-imported-the-first-legal-r32-nissan-gt-r-into-the-us

Police officer imported the first Nissan Skyline GT-R into U.S.
https://www.motor1.com/news/63157/police-officer-imported-the-first-nissan-skyline-gt-r-into-us/

マンハッタンのタイムズスクウェアをJDMを含む日本車の改造車が占拠したイベントの様子。まさにワイルド・スピードの1シーンといった感じだ。

アメリカ以外でもJDMの人気は高いようで、アイルランドでは「JDM Car Culture」なるイベントも行われている。

グローバルなフィルターを通すと“日本独特”のものが化ける

福島県二本松市には「エビスサーキット」という、ドリフト走行の聖地として有名なサーキットがある。ワイルド・スピードでの日本車の活躍によって徐々にJDMの人気が高まり、またシリーズ3作目で日本が舞台の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』では、同サーキット支配人の熊久保信重氏がドリフト場面のカースタントを担当していることもあり、海外からも聖地でのドリフトを体験しようと多くのクルマ好きが訪れている。

ドリフトとJDM。どちらも“日本独特”のものだったが、ハリウッド映画というグローバルなフィルターを通して世界中の車好きに知られることとなった経緯がある。そういう意味でワイルド・スピードシリーズが日本車にもたらした恩恵は計り知れないのかもしれない。