CULTURE | 2018/04/10

アート&サイエンスで導く人類のネクストヴィジョン【前編】/田崎佑樹氏(WOW コンセプター)【連載】テック×カルチャー 異能なる星々 (1)

加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の才能たち...

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加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の才能たち。

これまでの常識を打ち破る一発逆転アイデアから、壮大なる社会変革の提言まで。彼らはなぜリスクを冒してまで、前例のないゲームチェンジに挑むのか。

進化の大爆発のごとく多様なヴィジョンを開花させ、時代の先端へと躍り出た“異能なる星々”にファインダーを定め、その息吹と人間像を伝える連載インタビュー。

記念すべき第1回は、日本を代表する先鋭的創造集団WOWのコンセプターとして、日本刀から地球外生命探査計画まで数々の特殊任務に携わり、サイボーグのベンチャー企業にも参画する田崎佑樹氏。

「人類進化のヴィジョンを拓くのが自分の役割」と語る異能プレイヤーの思考と横顔、その先に広がる眺めとは。

聞き手・文:深沢慶太 写真:増永彩子

田崎佑樹(たざき・ゆうき)

WOW コンセプター/クリエイティブ・ディレクター

1977年、愛媛県生まれ。マサチューセッツ大学ボストン校留学を経て、アート&サイエンスと建築プロジェクトを中心に、コンセプト構築、クリエイティブ・ディレクションにおいて国内外、メディア領域を問わず活動する。
主な実績に、函館市次世代交流センター「はこだてみらい館」、アートインスタレーション作品『UNITY of MOTION』(韓国・ソウル)、彫刻家・名和晃平との共同プロジェクト『洸庭 | 神勝寺 禅と庭のミュージアム』(広島・福山)、東京工業大学ELSI(地球生命研究所)藤島皓介との共同プロジェクト『Enceladus』など。2018年、サイボーグ・ベンチャー企業MELTINのCCOに就任。 

WOW所属、謎の“一人シンクタンク”の素顔とは

―― 田崎さんは、ビジュアルデザインスタジオ「WOW」に所属しながら、器用かつパワフルな手を持つ世界初のアバターロボット「MELTANT-α」をこの3月に発表したサイボーグ・ベンチャー、「MELTIN」でもCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を務めたり、地球外生命の探査計画に参画したりもされています。いったい何をしている人なのか、一言で説明をお願いできますか。

田崎:それが……難しいんですよね。WOWで主に担当している領域はアート&サイエンス、そして建築ですが、僕はコンセプトを考えるところから、プロデュースやクリエイティブ・ディレクションを主に担当しています。自分自身でも肩書きがわからなくなったので、日本を代表する彫刻家の名和晃平さんに相談したら「コンセプター」がいいんじゃない?ということでそうしました(笑)。

―― そもそもWOWといえば、日本テレビの報道番組『NEWS ZERO』のオープニングなどの映像や、2016年のグラミー賞授賞式でデビッド・ボウイの追悼パフォーマンスを行ったレディー・ガガの顔面に映像を投影したり、テクノロジーを駆使した空間インスタレーション作品などを展開したりしている先鋭的なクリエイティブ集団として知られています。そのスタッフの中で、とくにアートやサイエンス、建築を担当している人は田崎さん以外には思い当たらないんですが……。

田崎:いや、まあWOW社内でも僕が何をやっているのか、理解している人は少ないでしょうね(笑)。でも、コンセプトを立てるだけでなく、ちゃんと高次元にプロジェクト化し、実現させるのが僕のミッションなので。例えばアートの場合は、名和晃平さんと彼自身も初めてのアートと建築を融合させた作品『洸庭(こうてい)』を、足かけ約1年半かけて作り上げました。これは広島県福山市の「神勝寺 禅と庭のミュージアム」内のアートパビリオンで、内部の暗闇の中の水面にかすかな光を映し出すという、瞑想のためのインスタレーション空間です。

作品の経緯としては、WOWの作品はこれまで自然の原理や哲学的コンセプトに基づいて作られてきましたが、トレンド的なメディアアートの表現ではなく、普遍的な表現を深めていく現代美術にこそ適性を感じていたこともあり、現代美術と建築に同時に取り組む名和さんに、3年ほど前に共同制作を相談しました。

彫刻家・名和晃平との協働によるアートパビリオン『洸庭』(2016年/神勝寺 禅と庭のミュージアム)外観(Photo : Nobutada OMOTE|SANDWICH)。

―― 『洸庭』にもつながりますが、WOWのアート活動にまつわるステートメント(通称「アニマ理論」)をまとめたりもしていますね。「アニメーション」の語源であるラテン語「アニマ(Anima)」から、動かないものを動かす映像技術によって生命現象を作り出していくという。WOWの活動において新領域のリサーチとともに思想面を深掘りするなど、一人シンクタンク的な役割も担っているように思います。

田崎:そうですね。まずは僕のバックグラウンドからお話しましょうか。大きくは3つの要素があって、まず小さい頃から考古学者になりたかった。そこからボストンの大学で人類学を学んだので、ポール・ゴーギャンの絵のタイトルにあるとおり「我々はどこから来たのか? 我々は何者か? 我々はどこへ行くのか?」が僕の活動におけるテーマです。その後建築について学びつつ、今に至る興味対象としてアートとサイエンスがあります。

一方で職歴としては、元々は制作会社に勤めていて、広告の企画でWOWに映像の部分を依頼しました。そのご縁でWOWへ転職し、クリエイティブディレクターとして広告的な業務に携わるようになったわけですが、元々アーティストの友人が多かったのと、個人的に関わっていたプロジェクトで本当にやりたいことを徹底的に掘り下げなければならない状況に追い込まれました。その結果、自分の中に残ったのが、アート、サイエンス、建築だった。それ以降は大きく気持ちが吹っ切れて、自分独自のプロジェクトを生み出すことに集中してきました。

彫刻家・名和晃平との協働によるアートパビリオン『洸庭』(2016年/神勝寺 禅と庭のミュージアム)内、闇の中の水面にたゆたう光のインスタレーション(Photo : Nobutada OMOTE|SANDWICH)

SFとイーロン・マスクから学ぶ、未来を創るヴィジョンの力

―― 広告の仕事に対して疑問を感じていたということですが、具体的にはどういうことでしょうか?

田崎:5年ほど前から感じていたことですが、日本ではテクノロジーが薄っぺらな先進的イメージとなって広告と結び付き、マス向けの“子どもだまし”として消費されてしまっています。でも、アメリカ西海岸をはじめ、世界の流れはテクノロジーを大きな社会変革の源泉として捉え、いかにビジネスとして社会実装を進めていくかにシフトしている。先鋭的なメディアアートの作品にしても同様に、表現作品である以上に社会の先を照らし出すコンテクストが評価され、それを企業や社会が積極的に取り込んでいく土壌ができている。つまり、日本とはテクノロジーに対する捉え方がまったく違うなあと、日々悶々と考えていたわけです。

そんな折、後でご紹介する『Enceladus』というプロジェクトをきっかけに、ユーグレナが主導して運営する先端技術系ベンチャーキャピタル「リアルテックファンド」の投資家たちと出会ったことが大きな転機になりました。ユーグレナはミドリムシの研究開発および事業展開で上場し、「バイオテクノロジーで、 昨日の不可能を今日可能にする」というヴィジョンの下、自分たちの資金を投入してバイオ燃料のプラントを建設し、日本の航空機燃料市場の未来を変える挑戦を続けています。彼らは情熱や資本など、あらゆる手段を使って世界を変えようとしていて、圧倒的にカッコいい人たちだと思いました。資本を稼ぐことは方法論であって目的ではない。ヴィジョン、情熱、先進性によって世界を変えていく。この人たちと肩を並べて、新たなプロジェクトを作り出したいと強く思いました。もっと言えば、自分自身も未来をよりよく変えていく人になりたいと思いました。

そして彼らと名和さんとの出会いによって、自分なりの時代認識と未来牽引のダイアグラムが見えてきたのです。

20世紀と21世紀の変化ダイアグラム

未来牽引ダイアグラム

20世紀までのテックドリブン(技術主導)の産業のあり方に対して、21世紀はヴィジョンドリブン(概念主導)の時代だと捉えています。産業革命以降の世界は圧倒的に物質量産社会でした。物質を大量生産して大量に販売し、その資本を金融が支配して、人々の幸せや豊かさとは違う論理で世の中が突き進んでいたわけです。そのシステムを変えるきっかけになったのがインターネットの登場であり、よりよい社会のヴィジョンが共感を呼び、そこからビジネスが生まれ、新しい仕組みが立ち上がる。そしてプラットフォーマーであるGAFA(Google、Apple、 Facebook、Amazon)と、テスラ、スペースXのイーロン・マスクを代表するビジョナリーたちが人類社会を牽引しています。イーロンがいなかったらNASAが凍結していた火星中計画は再始動していなかった。彼は火星移住から人類はマルチプラネタリー時代に突入していくという壮大なヴィジョンを地道な研究開発と実験によって一歩一歩進めています。そして、リアルテックの人たちはまさに日本版イーロン・マスクだと思います。

「WOWが動かす世界」展に見るヴィジュアライズの地平

—— イーロン・マスクといえば世界中の注目を集める天才起業家ですが、気候変動や隕石などで人類が滅びる可能性に対して、火星への移住の必要性を本気で考えていると聞きます。そのために、CO2排出削減につながる電気自動車メーカーのテスラや宇宙開発ベンチャーのスペースXなど、数々の巨大事業を立ち上げてきたと。

田崎:そうです。だから大切なのは、いかに強く社会問題を批評的に意識し、ヴィジョンを思い描くことができるかどうか。しかも信念のレベルを超えていい意味での狂気や宗教のように人を惹き付けながら、投資を集め、実現可能な技術を組み合わせ、ヴィジョンを実現していくわけです。こうした現代の企業体は短期的な収益も必要ですが、それを超えて、よりよい人類社会実現のために動いている大変面白い時代だと思います。

WOW代表・高橋裕士の生家である刀匠・法華三郎とマーク・ニューソンによる現代日本刀『aikuchi』のコンセプトムービー(2015年)。

その一方で、日本人ほどいい意味の狂気を持った民族はいないと思っています。そのことを確信したのが、WOWが世界的デザイナーのマーク・ニューソンと手がけた日本刀のプロジェクト『aikuchi』でした。現代人は1秒でも先に進むことを進化だと思っていますが、刀匠の一族は代々、技と精神性を口伝と身体性で受け継いでおり、その最高峰は平安時代、鎌倉時代の作品です。ところが当時の名刀を見ても、マニュアルがない以上、その作り方はもはや失われています。その究極の高みに自分が到達できるかどうか、ひたすら一生をかけて追求していくわけです。自分の人生を超えた1千年というスパンを相手に、数十年の人生を捧げていく。これはまさに狂気ですよ。

―― 伝統工芸をはじめ、文字通り“魂を込めた”超絶技巧なものづくりなど、日本には世界の人々から見ると「なぜそこまで突き詰めるのか」「いったい誰と戦っているんだ」と思わせるような、ある意味で求道的、変態的ともいえる精神的な素質があるように思います。

田崎:まさにそうです。後ほど詳しくお話ししますが、僕が参画しているサイボーグベンチャーのMELTINもその一つだし、WOWがクオリティとして追求している映像表現にもその一端が表れているかもしれない。ちょうどこの4月に東京・青山のスパイラルで開催されるWOWの展覧会のタイトルを「WOW Visual Design Studio ―WOWが動かす世界―」としたのも、まだ見ぬ世界を新たに描き出すCGという“世界創造ツール”を使い、先ほど話に出た「アニマ(ラテン語で霊、魂の意)」による“動き”を吹き込むことによって、独自のヴィジュアライズ地平を切り拓いてきたと思うからです。そのあたりはぜひ、展覧会で体感していただければと思いますね。

後編につづく)

展覧会「WOW Visual Design Studio ―WOWが動かす世界―」ティザームービー(2018年)

【展覧会情報】

WOW Visual Design Studio ―WOWが動かす世界

4615

スパイラル 東京都港区南青山
5-6-23

映像作品アーカイヴや、世界的デザイナーのマーク・ニューソンによる現代日本刀などのプロダクト、透明有機ELディスプレイ20枚を用いた新機軸のインスタレーション作品まで、昨年20周年を迎えたWOWの過去/現在/未来を一望する展覧会。


WOW

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