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19年かけて三部作完結!『ミスター・ガラス』の魅力を徹底解説【連載】添野知生の新作映画を見て考えた(7)
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  • 2019.01.24
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19年かけて三部作完結!『ミスター・ガラス』の魅力を徹底解説【連載】添野知生の新作映画を見て考えた(7)

©Universal Pictures All rights reserved.
『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

過去の連載はこちら

1月18日に公開された『ミスター・ガラス』は極めて感動的な映画である。しかし残念ながら、なんの予備知識も体験もなしに観て、いきなりその感動を味わえるかというと難しいと言わざるを得ない。

そこで今回は初心者篇。まだ何も知らないあなたでも『ミスター・ガラス』を心置きなく楽しめるための解説をしていく。シャマラニアン諸氏にはわかりきったことばかりになるがご寛恕願いたい。

添野知生(そえの・ちせ)

映画評論家

1962年東京生まれ。弘前大学人文学部卒。WOWOW映画部、SFオンライン(So-net)編集を経てフリー。SFマガジン(早川書房)、映画秘宝(洋泉社)で連載中。BS朝日「japanぐる~ヴ」に出演中。

すべては19年前に始まった『アンブレイカブル』

※本記事に掲載する画像は全て『ミスター・ガラス』内のもの
©Universal Pictures All rights reserved.
『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

『ミスター・ガラス』は実は、『アンブレイカブル』『スプリット』という2本の映画の続篇である。ここまでの物語の集大成なので、三部作の完結篇と言ってもいいだろう。

『アンブレイカブル』(2000年)
『スプリット』(2016年)
『ミスター・ガラス』(2019年)

監督はすべてM・ナイト・シャマラン。3本とも彼のオリジナル脚本である。劇中でも現実と同じ時間が流れており、『ミスター・ガラス』は『アンブレイカブル』の19年後、『スプリット』の2~3年後の物語になっている。

『アンブレイカブル』は、米東部フィラデルフィア市で、フットボール・スタジアムの警備主任として働く中年男性デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)が主人公。年齢は明示されないが、40代前半ぐらいに見える(撮影時のブルース・ウィリスは45歳)。

主人公のデヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)
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『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

『アンブレイカブル』の冒頭で、フィラデルフィア駅に向かう長距離列車が暴走脱線し、乗客のほぼ全員が死亡する大事故が起きる。ただ1人生き残った乗客がデヴィッドで、しかも体に傷ひとつ負わない奇跡の生還だった。

そんなデヴィッドに連絡してきたのが、画廊「リミテッド・エディション」のオーナーでコミック研究家のイライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)。アメコミの膨大な物語は人類史の真実を反映していると信じる彼は、デヴィッドこそが不滅の肉体(アンブレイカブル)を持つ超人ヒーローではないかと考える。

コミック研究家のイライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)。非凡なIQと、生涯で94回骨折した壊れやすい肉体を持つ。彼が「ミスター・ガラス」でもある。
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『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

映画はこの2人の男の対立と協調を追いながら、それぞれの過去と現在を少しずつ明らかにしていく。1時間46分ある映画の尺の大半は、沈鬱なトーンで淡々と進み、スペクタクルな(視覚的に派手な)見せ場はまったくない。それにもかかわらず、退屈しないし、地味な映画という印象も受けないのは、これが長篇4作目となるシャマランの、とりわけ脚本家としての巧さだろう。

デヴィッドは妻オードリー(ロビン・ライト)、小学生の息子ジョゼフ(スペンサー・トリート・クラーク)と暮らしているが、心に鬱々とした悲しみを抱えており、事故前は離婚・転職の可能性を模索していた。かつて大学フットボールのスター選手だった彼は、運転していた車の事故で負傷し、プロ選手にならずに裏方の道を選んだという。

一方のイライジャは、骨形成不全症という生まれつきの難病で、苦痛と恐怖に苛まれながら成長した。幼い彼に生きる希望を与えるためにアメコミを贈ったのは、女手一つで彼を育てた母親(シャーレイン・ウッダード)だった。

デヴィッドを崇拝する息子が、父が不死身であると信じて拳銃を向けるシーンが恐ろしい。自説に固執するイライジャが不自由な体に鞭打って、銃を持っているかもしれない男を尾行するシーンもゾッとさせられる。一見すると脇すじに見えるこうしたシーンで緊張を極限まで高め、スリラーとして全体を充実させていく手腕に驚かされる。

『アンブレイカブル』はこうして、サイコスリラーの外見をまとった変格スーパーヒーローものとしての全貌を現わしていく。超人ヒーローとして覚醒するデヴィッド。彼を助けるパートナーとしてのイライジャ。そのコンビ結成を描いた映画なのだと信じそうになる。

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『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

デヴィッドの能力は、まず傷つかない体、そして怪力、さらに手を触れることで悪を感知する能力。駅の場面で幼い子供を連れた母親とすれ違うが、母親が子供を虐待していることが瞬時にわかる。しかしこの小さなエピソードを、ずっとあとになって続篇への伏線として利用することになるとは、シャマラン自身も想定していなかったに違いない。

デヴィッドの悲しみは、暴力を嫌う妻のためにこれらのスーパーパワーを押し殺し、中年まで無為に生きてきたところから来ている。普段から着ている警備員の雨ガッパが、フードを被れば顔が隠れるので、そのまま彼のコスチュームになる。緑色なのはそれがたまたまホームチームのチームカラーだったから。だが雨ガッパは実は、水が唯一の弱点であるデヴィッドが、それをカバーするアイテムを無意識のうちに選んだものでもある。

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『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

一方のイライジャは、生い立ちを描く場面でいつも鏡像の中に現れる。周りの子どもたちは骨の脆さをからかって彼を「ミスター・ガラス」と呼ぶ。コミックの最初の1冊が入ったプレゼントの包みは紫色。正装したときのコートの裏地も紫色。デヴィッドのいくつかの特徴がクラーク・ケントを連想させるとすれば(傷つかない体、大学フットボールの選手、ニューヨークに出て就職しようとすること、事故から恋人を救出するときの抱きかかえるポーズ)、イライジャの紫はジョーカーの色である。

こうしてゾッとするような余韻を残して終わった『アンブレイカブル』は、多くのファンにとってM・ナイト・シャマランの最高傑作となり、長年その地位を守ってきた。

破壊された者こそが進化を遂げる『スプリット』

その16年後に公開された『スプリット』は、誘拐事件の被害者として、どことも知れぬ場所に監禁されている3人の女子高校生のパートと、その犯人である多重人格(スプリット・パーソナリティ)の青年が、精神科の主治医と面談を重ねるパートの、2つの流れで構成されている。主人公は誘拐された少女の1人、ケイシー(アーニャ・テイラー=ジョイ)。誘拐犯ケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)には23人分の架空人格があり、そのうち6つが目まぐるしく交替で出現する。担当医のカレン・フレッチャー博士(ベティ・バックリー)は、彼が凶悪な犯行を実行中であることに気づいていない。

誘拐犯で23もの人格を持つケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)。潔癖症の青年、9歳の少年、女性人格などの人格を抱え、現れた人格によって体型や体質まで驚異的に変化する。
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『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

というわけでこれは、誘拐犯と犠牲者の攻防を描いたサイコスリラーとして、まず見応えがある。ケヴィンは実母による凄惨な虐待を受け続けて育ち、そこから逃れるための自衛機能が複数の人格を発生させたと考えられている。自分たちを「群れ (The Horde) 」と自称する彼らが若い女性を犯行対象に選んだのは、彼女たちが苦痛を味わったことがないからだといい、苦痛を知らぬ者は不純であり、生贄にふさわしい、という奇妙な信念が披露される。

実は、ケヴィンの中の3つの人格、パトリシア、デニス、ヘドウィグは、24番目の人格として、「ビースト」と呼ばれる半人半獣のモンスターが存在すると確信しており、それを召喚するために他の人格を封じ込め、人食い生物であるビーストに捧げる生贄として彼女らを選んだのだ。

ここで提唱されるのは、虐待などの強い苦痛を味わった者は、その苦痛によって自らを解放し、未知の力に至ることができる、という思想。「The broken are the more evolved(破壊された者こそが進化を遂げる)」という決めゼリフが出てくる。人の肉体の限界を超えた何か、言うなればアメコミのスーパーヴィラン(超人的能力をもつ悪役)のようなものに変身するというのだ。そして「群れ」は、そのことを何とかして世界中に公表したいと考えている。

『スプリット』の後半は、ビーストが本当に出現するのかどうかが最大の見どころとして進む。そして、不意に予想外のやり方で、これが単独作でないことが明かされ、映画は観る者の熱狂と歓呼のうちに幕を閉じた。

アンブレイカブルでスプリットな映画作家

写真左端の人物が監督のM・ナイト・シャマラン
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『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

M・ナイト・シャマランほど奇妙な映画作家は、これまでいなかったし、これからも出ないのではないか。

2作目以降の全監督作がハリウッドのメジャー配給会社で公開されているにもかかわらず、自身は故郷のペンシルヴェニア州フィラデルフィアから出ず、ほとんどすべての作品がフィラデルフィア市内と近郊を舞台にして撮影されている。

監督作のほとんどが超自然現象を扱ったスリラーで、ほぼすべてがオリジナル企画。脚本は必ず自分で書く。プロデューサーを兼任し、必ずといっていいほど自分の映画に出演している。

1970年生まれのシャマランは現在48歳。『ミスター・ガラス』は13本目の監督作になる。インド系アメリカ人の移民二世で、両親はともに医師。フィラデルフィアの郊外で育ち、ヒンズー教徒だが、キリスト教カトリック系の私立学校で教育を受けた。ニューヨーク大学に進学して映画を学び、22歳で早くも長篇監督デビューを果たしている。

画面サイズはどちらかといえばヴィスタ・サイズが好みのようだが、『アンブレイカブル』『スプリット』『ミスター・ガラス』の三部作はスコープ・サイズで統一されている。彼の今のところ唯一の続篇シリーズでもある。2013年からデジタル撮影に移行した。

こう書くと順風満帆のようだが、実はシャマランはどん底の時期を経験している。そもそも、自伝的要素の強い作品や、天使、幽霊、フェアリー・テイルなどを題材にした、祈るような静謐な作品が本領のはずだったのに、第3作『シックス・センス』の大ヒットによって、トリッキーなサプライズ・エンディング、どんでん返しの結末を期待されるヒットメーカーと見なされるようになったのが不幸だった。

『アンブレイカブル』のあと、『サイン』『ヴィレッジ』『レディ・イン・ザ・ウォーター』『ハプニング』と、内容の先鋭化と、観客の期待との齟齬がどんどん広がり、ヒット作が出ない時期が続いた。『レディ・イン・ザ・ウォーター』と『ハプニング』はこれはこれで最高傑作と見なしてもいい内容だったと思うが、いかんせん製作規模に比して作者の真意がわかりにくすぎた。

自分の幼い子供を喜ばせるために取り組んだという『エアベンダー』、雇われ監督としてウィル・スミスの企画を引き受けた『アフター・アース』という、シャマラン色皆無の2本がキャリアのどん底だったのは間違いない。そのあと7年ぶりにオリジナル脚本に復帰した『ヴィジット』で待望の復活。従来の十分の一以下の製作費でありながら、ていねいに製作されたコンパクトなスリラーはシャマランにしか作れないものだった。そして『スプリット』で世界を驚かせ、集大成となる『ミスター・ガラス』でも徹底して自分の作家性を貫いてみせたというわけだ。

不死身の復活劇と、1人で何役も兼ねる能力。シャマランこそがアンブレイカブルでスプリットな作家といえる。

いよいよ彼自身の物語へ『ミスター・ガラス』

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『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

本作の原題『Glass』を「グラス」でなく「ガラス」と表記する邦題に当初は違和感を覚えたが、実際に作品を観ると『アンブレイカブル』から直結する物語であり、19年前の劇中ですでに「ミスター・ガラス」と訳されているのだから仕方がない。違和感はあっけなく霧散した。

前作から2~3年後、ビーストの出現はなく、「群れ」は新たな生贄を捧げるため、再び誘拐事件を起こす。彼らを追うのが、60代になったデヴィッド・ダン。5年前に妻と死別したが、息子とともに警備装置のショップを経営しながら、密かにヒーロー活動を継続。今では「監視人 (Overseer) 」の名で知られている。

ここからの意外な展開がまず見どころで、「群れ」「監視人」に長期拘束中の「ミスター・ガラス」という三大キャラクターがついに顔を揃え、そこへ前作『スプリット』の主人公だった少女ケイシーも戻ってくる。

デヴィッドの弱点が水なのは、子供時代にいじめを受けプールで溺死しかけたことが原因で、彼もまた超人化のきっかけは虐待体験だったことが判明。ケイシーも前作で描かれた恐ろしい虐待を告発し、今は里親のもとで暮らしている。4人がともに「破壊された者こそが進化を遂げる」の条件を満たしている。

そして、1作目がデヴィッドの物語、2作目がビーストの物語だった以上、今回の3作目は当然、タイトルロールであるミスター・ガラスの物語に決まっている。

ではミスター・ガラスとは一体何者なのか、と考えた時、それはやはりどうしたってシャマラン自身であるという結論になる。どん底の時期を経て復活したシャマランと、19年間、病院で鎮静剤漬けだったミスター・ガラスの境遇を重ねて考えることもできる。

シャマランは自作のほとんどに俳優として出演し、中には驚くほど重要な物語のキーパーソンを演じている場合もある。そもそもデビュー作『Praying with Anger』 (1992・日本未公開)が、自伝的な物語を自身の主演で映画化した作品で、インド系アメリカ人の若者がインドに滞在し、クライマックスでリンチ殺人を止めるためにヒロイックな活躍を見せるのだから、ヒーローを演じることにためらいがあるとは考えられない。

その彼がこの三部作では、すべてに同じ小さな役(ジェイという学生。のちに警備員となる)で出演するにとどまっている。これはすでにミスター・ガラスという重要人物が、シャマランの分身として存在しているからではないのか。インド人系アメリカ人としてフィラデルフィアで育ち、そこになんの壁も苛めも辛いこともなかったとは考えられない。その彼の分身がミスター・ガラスなのではないか。

M・ナイト・シャマランは、彼にしかできない映画を、彼にしかできないやりかたで作ってきたし、一度は諦めたそのやりかたに復帰してみせた。それがシャマランの姿勢だととっくにわかっていたはずなのに、今回またしてもそれを強く思い知らされた。

ミスター・ガラスが「これはリミテッド・エディションではなくオリジン・ストーリーなのだ」と言うのは、これを「独立性の高い、短期連載の、例外的な物語」と見なすのではなく、新しい普遍的な変化の始まりと捉えてほしいからに他ならない。それに触れた私たちは、ある確信を胸のなかに生きて行く。私たちが勝ったのだ。


『ミスター・ガラス』公式サイト
Movies.co.jp/mr-glass

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『ミスター・ガラス』2019年1月18日(金)より、全国ロードショー!

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