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「一人親方」と子育てを両立する女性左官職人、金澤萌氏|幸せに生きるためのおカネと働き方のリアル
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  • 2018.11.30
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「一人親方」と子育てを両立する女性左官職人、金澤萌氏|幸せに生きるためのおカネと働き方のリアル

(c)Nao Kono

女性活躍担当大臣なるものが誕生してからしばらく経つが、その成果については今一つ明確に見えてこないと嘆く人も多いのではなかろうか。それでも、これまで男性ばかりだった仕事を女性がしている姿を日常生活の中で目にする機会は増えたことは間違いない。タクシー・バス・トラックの運転手、駅員、大工なども女性だったりする場面が多い。

今回話を伺ったのは、埼玉県で女性左官職人(個人事業主)として仕事と子育てを両立している金澤萌氏だ。

取材・文:6PAC

金澤萌

左官職人/インテリアコーディネーター

2005年にものつくり大学卒業後、左官職人として原田左官工業所ならびに小林左官工業所にて修行する。10年に男児を出産したことを機に、仕事優先の生活を改める必要があり、自分らしく左官業と子育てを両立することを考え、13年にmarumo工房を立ち上げ独立。14年からは「好きなツクルを楽しむトコロ」として、アトリエLEADの運営も手掛けている。
marumo工房公式サイト
http://www.marumo-sakan.com

『天うらら』に衝撃を受け職人の世界へ

金澤萌氏
(c)Nao Kono

「幼少期から職人の世界に憧れていた」という金澤氏だが、1998年に放送されたNHK連続テレビ小説の『天うらら』に衝撃を受けたという。主人公・うららの「大工になりたい」という台詞に触発され、大工になるべく当時開校したばかりのものつくり大学へと進学。だが途中で左官の授業の方が面白くなり、そのまま左官職人の道へと進むこととなった。

ものつくり大学を卒業した2005年当時はまだ女性の職人を積極的に採用している会社は関東でさえ1社のみだったそうだ。その1社である原田左官工業所に就職し、一人前の職人になるための修行が始まった。「女性社員にハードな仕事はさせない」という会社の方針には従わず、男性社員と同等の仕事をしたという。その理由は明確で、「どんな仕事でもすべて自分1人で出来るようになりたかったから」だという。

(c)2018 Sozo Nakashima

2008年には尊敬する先輩が独立するにあたり、小林左官工業所を共同で設立した。翌09年には妊娠、10年には出産し、母となった。子どもが生まれ、保育園に入ってからは呼び出しも多く、親方と2人の会社だったので、急遽仕事を休むと大きな迷惑がかかり、心苦しかったことから、2013年に個人事業主としてmarumo工房を立ち上げ独立した。もともと独立志向が強かったこともあり、子育てと仕事のペースを自身で模索するという側面もあるという。

marumo工房は埼玉県草加市を拠点として、住宅や店舗の壁の左官工事、タイル工事などを請け負っている。DIYの施工補助にも積極的に応じており、家族や友人とDIYを楽しみたい人のためのワークショップも度々開催している。さらにモルタル雑貨をはじめ、左官材を使用した雑貨、タイルを使用した雑貨も制作しており、手作り市や物販イベントで販売をしているほか、オーダーメイドでの雑貨、看板・表札・ウェルカムボードなどの依頼も可能だ。

施工ワークショップの様子
(c)Moe Kanazawa

今も仕事を続けている理由については、「一番は仕事が楽しい、左官をすることが楽しいということ。左官が楽しく好きだから続けています」と語る。同時に、「marumo工房を通じて、左官の壁塗り作業を楽しんでもらえたり、左官のものつくりに触れてもらえることが、左官の技法を広め、左官仕上げを日常に取り入れていただくきっかけになればと思っています。左官や左官職人がより身近な存在になることを願っています」ともいう。仕事をする上で大切にしているのは、「自分がどうなりたいか、どうしたいかを日々常に考えイメージすること。それを周囲にも伝えること。人とのご縁や出会いも大事にし、仕事があるのが当たり前という感覚にならないこと」だそうだ。

仕事の悩みは今でも元親方や先輩職人へ相談するという。ただ、子育てと現場作業の両立という悩みに関しては、相談できる人がいない。子どもが保育園の時(0~6才)は、日々模索して悩み続けてきた。子どもが生まれて8年経過したこともあるが、子育てと仕事の両立という面で落ち着いてきたのはつい最近のことだと語る。

建設業を志す女性のために、具体的な働き方を示し続けてることが使命

(c)Moe Kanazawa

marumo工房が目指しているところは?と訊くと、「建設業界は男性社会ですが、少なからず現場に女性が増えています。その中で、やはりライフスタイルが変わると、仕事を変えたり、辞めてしまう女性が多いのも事実です。marumo工房ができることは、そういった建設業を志す女性たちのために、どうやって仕事と子育てを両立するのか、ワーク・ライフ・バランスをどうしていくのかといったことを示し続けていくことだと思っています。そのためにも好きな左官をしながら、私自身も子育てや家庭との両立を常に模索しています」と明確なビジョンを示してくれた。marumo工房を立ち上げ、個人事業主になったことで得たものは「経験、自分で開拓していく力・人脈、人のつながり、いい意味での自由」だという。逆に「安定」は失った。

自分で自分の仕事をコントロールする上で気を付けている点は、「時間管理とスケジュール管理です。日々の時間管理、スケジュール管理は余裕をみて行っています。私の場合は子どもが学校に行っている間しか仕事ができません。つまり残業もできないので、1日の作業可能時間と作業内容が見合っているか、常にいろんな想定をしながら動いています。2~3日の小さな現場でも、お客様とのやりとりや書類制作などが必要です。現場仕事をひたすらに詰め込むのではなく、どんな現場も予備日を設けてスケジュール管理しています。予備日を設けることで、忙しさで現場作業のみに追い込まれることなく、気持ちにゆとりが生まれます。そうすることで、お客様とのやり取りや事務仕事も落ち着いてでき、ワークショップや新しいことを模索したり考えることができます」と説明してくれた。

個人事業主という立場で左官業をするメリットを聞くと、

・自分の都合で自由に予定を組めること。例えば子どもの長期休みの時は現場仕事の量を少なく調整できる。第三者を介さずお客様と直接やり取りが可能なため、自分の好きな仕様の仕事ができる場合が多い。だから仕事が楽しい。

と答えてくれた。逆にデメリットを聞くと、

・仕事の安定(安定した収入)はない。好きなだけ休むこともできるが、その場合はもちろん収入が減る。

との回答。

収入面だが、現場仕事、ワークショップや雑貨販売、ものつくり大学の講師関連の3つの柱があるそうだ。それでも、「収入の安定はありません。月ごとに変動します」とのこと。「これくらい仕事をしたら、これくらい収入がある、というのは読めるので、自身の現場が少ないなと判断したときは、応援現場(他社の現場)にスポットで行くこともあります。そうすることで、最低収入は調整しています」ともいう。会社員時代と比較すると、「仕事をする時間が減ったことやボーナスなどはないので、基本的には収入は減っています」というが、大きな現場が決まったりすると、会社員時代の月額以上になる時もあるそうだ。

ワーク・ライフ・バランスを模索しながら人生を楽しみたい

(c)2018 Sozo Nakashima

最後に人生の設計図について聞いてみると、目標として、子育てと仕事を両立し、好きな仕事を続けること、子どもの存在を好きな仕事ができない言い訳にしないこと、人生を楽しむことの3つを挙げてくれた。「左官という仕事が純粋に好きで楽しい。だけど、家族がいる以上、仕事のみをしていてもダメで、その時しかできない子育ての意義や楽しさもきっと多々あります。そのバランスを常に模索しながら、人生を楽しみたいと思っています。そのために、来春から今の埼玉に加えて広島との2拠点での生活を予定しています。子どもが小学生のうちに、田舎の自然の中での生活をしたいというのが目的です。仕事を辞めるわけではなく、広島での左官仕事を開拓したり、関東でのこれまでのお客様との仕事も続けていく予定です。収入も減ったり、新しい悩みも出てくるだろうけど、それも含め変わらず模索し続けていきたいと思っています」という未来設計図も描いている。

あなたにとっての幸せとは?と聞いてみると、「子どもとのやりとりの中にある、微笑ましい瞬間。自分自身が納得いく壁ができた時。お客様が喜んでくれた時。そういった日常の楽しさの中にある、ほっこりする瞬間。なんでも“楽しむ”という感覚」と語ってくれた。

会社組織に縛られない生き方を模索している人達へ金澤萌氏からのメッセージ

「職人の業界では、“一人親方”という働き方が昔からあります。独立を目指す場合は、一人親方として、どういう仕事をしていきたいかをよく考えておく必要があると思います。経験したい仕事内容を優先して成長するのか、まずは収入を優先して現場を選ぶのか。そして、さらにその先をどうやって生きたいかを真剣に考えることによって、自分の考えで生きていくことが可能になると思います。また、その過程でつながる人とのご縁はとても大事にしてほしいと思います」

左官職人 金澤萌氏の平均的な一日のスケジュール
05:00 起床
05:00~06:30 事務仕事
06:30~07:30 家事・朝食・子どもの支度
07:30~08:00 現場準備(車への積み込みチェック)
08:00~18:00 現場仕事(現場への通勤時間を含む)
18:30~19:00  子どもの迎え・帰宅
19:00~20:30  夕食支度・夕食・子どもの宿題の手伝い
20:30~21:00  子どもとお風呂
21:00~ 子どもと就寝or事務仕事が溜まっている時は仕事

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