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女性でも「オッサン化」は起こりうる?組織の悪癖を軌道修正する方法【ブックレビュー】
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  • 2018.11.12
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女性でも「オッサン化」は起こりうる?組織の悪癖を軌道修正する方法【ブックレビュー】

神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

http://y-jimbo.com/index.html

「オッサン」の倫理と資本主義の精神

昨年生誕200周年を迎えたカール・マルクスは「これまでのすべての社会の歴史は階級闘争の歴史である」と『共産党宣言』で記したが、「オッサン」との闘争の必要性を感じている方は要注目の一冊。山口周『劣化するオッサン社会の処方箋 なぜ一流は三流に牛耳られるのか』(光文社)は、「オッサン」を反面教師に、現代日本で持つべきマインドセットについて教えてくれる。

本書の中で使われる「オッサン」という言葉は、中高年の男性全体を指すわけではない。下記のような特定の行動様式・思考様式を持った「人物像」として定義されている。

1:古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を拒否する
2:過去の成功体験に固執し、既得権益を手放さない
3:階層序列の意識が強く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る
4:よそ者や異質なものに不寛容で、排他的
(P10)

つまり、女性も「オッサン」になり得るわけだが、ふと誰かの姿が思い浮かんだ方もきっと多いだろう。ファストフード店で飛行機のファーストクラス的な対応を求め、傍若無人な振る舞いをする人もオッサン。いい学校を卒業して大企業に就職すれば幸せになれるという「幻想」(と著者は記している)を持ちがちなのもオッサン。

さて、なぜそのオッサンが社会に蔓延することになったのか。著者はその構造を紐解いていく。明らかにおかしい点がある提案が通ってしまう、明らかに視点が偏っているのにまかり通ってしまう。組織の中でも、より広範な社会でもそうしたことは往々にしてある。

ユダヤ人思想家のハンナ・アーレントは、ナチスドイツによるユダヤ人迫害の根源を「凡庸な悪」という言葉で表現し、思考停止した人間が悪意なく大虐殺を行えることを示した。日常生活におけるいざこざと大虐殺では少々スケールが違うかもしれない。しかし、ホロコーストと同じ原因からオッサンは負のサイクルを世に生み出している。主体性の無さから、陳腐な悪で社会を凝り固めてしまうのである。

「数」がパワーとなる現代の市場や組織において、構造的に最初に大きな権力を得るのは、いつも大量にいる三流から支持される二流ということになります。 これはなにも組織の世界に限った話ではなく、書籍でも音楽でもテレビ番組でも同じで、とにかく「数の勝負」に勝とうと思えば、三流にウケなければなりません。 (P39)

例えば、本書では企業の人事の例が紹介されている。凡人には天才を見ぬけず、覆しがたい凡人だらけの組織が形作られてしまう。天才は排除され、悪いサイクルがさらなる負の流れを呼びこみ、取り返しがつかなくなってしまう。効率重視の資本主義が生み出すサイクルが膨大な労力を使いながらも何の文化も生み出せないのは、こうした構造的な難点があるからだと著者は指摘している。

オッサンは「知らないこと」を話せない

オッサンのネガティブなパワーは一筋縄では駆逐できない。ワクワクする仕事を追求することもなく、システムから与えられる理不尽さに対して何年、何十年ものあいだ妥協に妥協を重ねてきた結果として「劣化したオッサン」が量産されてきた。例えばオリンパスの粉飾決済事件に見られるように、組織内の悪事に抗うことなく見過ごしてしまうのならば、それに加担しているのと同じであるということにも気づかない。著者はその原因が「美意識の欠如」にあると指摘している。

組織の美意識がうまく備わっているとどのようになるか。2018年6月のロイターの記事で、米軍の無人機(ドローン)による画像認識システムの開発に協力したグーグル社の社員約4,600人による抗議(オピニオン)が行われて、大量の「人財」が辞職(エグジット)することとなった例が紹介されている。

グーグルの社員はまさに、人工知能による画像認識を武器に利用するという経営判断に対して、オピニオンとエグジットという二つのレバーを用いて、経営者に対して圧力をかけたわけです。最終的に、このフィードバックを受け、グーグル経営陣は人工知能を武器に利用しないという原則を作成し公表するにいたっています。(P66)

こうした「社風」を醸成するためには様々な歯車が噛み合っていなければならない。オッサンの気質が一朝一夕にはつくられないように、組織の「オッサン化」を避けるためには歯車を一度止めてひとつひとつ見直す労力と、組織内の協力体制が必要だろう。

著者は「流動性知能(推論、思考、暗記、計算など、分析と論理に基づいて問題解決をする際に用いられる類の知能)」と「結晶性知能(知識や知恵、経験知、判断力など、経験則や蓄積した知識に基づいて問題解決をする際に用いられる類の知能)」という言葉で、年長者というのは社会においてどのような価値があるのかを考察している。オッサンは過去の武勇伝や内輪の話に終止して、まだ「ない」話や、不可能と思える話を話題に出さない。これは「流動性知能」が若い時にピークを迎え朽ちていった最たる例である。本当は、そうした経験を体系化させて「結晶性知能」を形作ることに労力を割かなければいけなかったのだ。

当たり前といえば当たり前だが、年長者は若者よりも長く生きている。その意味で、年長者の知能や経験がデータベースとして役立つことは間違いない。しかし、それが若い人の知能・能力よりも優れているとは保証されないのだ。

リーダーシップに知識は必ずしも求められない

「若輩者のほうが長けている点がある」ということを前提に年長者がコミュニケーションすると、牽引するタイプとは異なったリーダーシップを発揮する。これは「サーバントリーダーシップ」と呼ばれていて、メンターなどが代表的な存在だ。知識面は旬な人物にまかせておいて、自分はその旬な素材の器となって支援する。知識が多少なくとも支援は可能なのだ。

「古典」と言われているもの、あるいは「色あせない」と言われているものの存在は、時間の経過の長さが「老い」ではなく「輝き」になりうると教えてくれる。

ここに50年前から読まれ続けている本と、5年前から読まれている本があるとき、前者の本の方が、より長い期間、これからも読まれ続けると考えていい。 「壊れるもの」は時間を経過するごとに老いていきますが、「壊れないもの」は時間を経過するごとに若返っていく。 (P136)

似たようなことは「安定」と「不安定」にもいえる。オッサンが好む終身雇用制は、年長になるにしたがって生活が安定してくるという考えが基盤にある。しかし、「不安定=悪」とは限らない。不安定だが壊れない強靭さから価値が生まれ得るからだ。もちろん、不安定が続きすぎて崩壊してしまうことは避けたいところだが、不安定だからこそチャレンジが生まれるし、解決が目指される。地震発生のメカニズムのように、安定しているときにはどこかに歪みが生まれているとも言える。著者はそのエッセンスを、ルソーが記した『エミール』の名言で示している。

わたしたちは、いわば、二回この世に生まれる。
一回目は存在するために、二回目は生きるために 。(P174)

生きなければ死ぬことはできない。安定と秩序を好み、変化やリスクを避ける「オッサン化」を食い止めなければ、それは自分の人生にも影響してしまう。一見キャッチーな題名からは想像できない深い洞察と、リスクを恐れない心構えに触れることができる一冊だ。

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