CULTURE | 2023/03/31

たった5万円で誰でも美少女3Dキャラになれる!?ソニー注目の新ガジェット「mocopi」を編集部・舩岡が体験してみた

画面に表示されている女の子は、「mocopi」アプリにプリインストールされている公式キャラクター「RAYNOS(レイノス...

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画面に表示されている女の子は、「mocopi」アプリにプリインストールされている公式キャラクター「RAYNOS(レイノス)ちゃん」。アバターデータを持っていなくても「mocopi」を手に入れれば即「バ美肉」できる

2023年1月、ソニーはモバイルモーションキャプチャーの「mocopi(モコピ)」を発売した。

本製品は500円玉ほどの大きさで、たった8グラムのセンサーを頭・腰・両手首・両足首の計6箇所に同梱のバンドで取り付け、あとはスマホさえあれば屋外・屋内どちらでもアバターの動きを表示・撮影できるデバイス。つまり「3Dキャラの動きを自由自在に表現できる」アイテムだ。

従来、こうした機材は数十万円することも珍しくなかったが、「mocopi」の価格はなんと約5万円。PC接続を前提としないため気軽に外に持ち出せる点もポイントだ(Bluetooth接続なので電波がない圏外の場所でもOK!)。

「mocopi」の注目度は非常に高く、発売日から大量の「やってみた動画」がアップされており、現在もSNSや動画サイトで検索すると数多くの投稿を見ることができる。

今回は「mocopi」の開発に携わった、ソニー 新規ビジネス・技術開発本部の中林澄香さんに話をうかがい、実際に編集部員の舩岡が体験もさせてもらった。

聞き手:神保勇揮(FINDERS編集部)・舩岡花奈(FINDERS編集部) 文・構成・写真:神保勇揮

VTuberに大人気のアプリ「バーチャルモーションキャプチャー」の開発者も巻き込み、発売告知時点でTwitterトレンド入り

インタビューに入る前に、まずは「『mocopi』を使用すると何がどうなるのか」がわかる短い動画を観ていただきたい。

編集部も当然「mocopi」の概要は事前に下調べして取材に臨んでいるが、いざ実物を目の当たりにすると、本当に自分が3Dキャラクターになれたかのような感動を覚えてしまった。記事の最後で2分20秒ほどのロングバージョンも掲載している。

この映像では、スマートフォン上の「mocopi」アプリでアバターを動かしている様子を、説明のために外部モニターに出力している。スマートフォンからテレビモニターにケーブルでつないでいるため、多少のラグは生じているが、スマホ画面ではラグなしで動作を表示できていることが確認できた。

* * *

ソニー 新規ビジネス・技術開発本部 通信技術開発部門 モーション事業推進室 中林澄香さん

―― 中林さんは「mocopi」開発のどういった部分に携わったのでしょうか。

中林:私はターゲットユーザーや仕様を決めて商品に落とし込んでいく、商品企画を担当しています。

―― 「mocopi」の初期アイデアはどのように生まれたのでしょうか。VRChatファンやVTuber運営者向けのプロダクトとして考案されたのか、あるいは既にソニーさんに技術があって「これをプロダクトに掛け合わせたら面白いかも」という流れだったのでしょうか。

中林:後者ですね。2019年に投資家・アナリストおよびメディア関係者向けに開催したイベント“Sony Technology Day”で発表した技術をもとに、同じ年に行われた『ソードアート・オンライン』の展示イベント「ソードアート・オンライン -エクスクロニクル-」のブース出展というかたちで展開していました。

具体的には「6つの小型軽量センサーを装着するだけで全身の動きを捉える独自のモーションキャプチャー技術」によって、主人公のキリトや相棒のユージオになりきり、来場者自身の体の動きを使ってリアルタイムに「ソードスキル」を発動し、次々に侵攻してくる敵のゴブリンを討伐するという内容でした。

この技術を今後どう使うか、いろいろとご意見をうかがう中で、VTuberの方やアバターを使ってクリエイトされている方々に見せに行ったところ「これだけで動きが取れるんですか!」と皆さんがすごくびっくりされたのを見て、ここにビジネスチャンスがあるんじゃないかということで動き始めました。

―― これまでモーションキャプチャーデバイスは数十万円したところ、「mocopi」の販売価格がたった5万円というのは衝撃でした。

「mocopi」のセンサーと同梱の装着用バンド。本当にこれだけ準備すればOK

中林:確かに価格破壊だと言われていますね。加えてこれまでのモーションキャプチャ―デバイスはPCが必須であったり、ヘッドマウントディスプレイが必要だったりと必要機材も多かったので、価格だけでなく「スマホと小型デバイスだけで屋外でも使える」というコンセプトの実現にはこだわりました。

―― FINDERSのTwitterアカウントでも、CESの現地レポートをしていた時に「mocopi」を紹介したツイートが一番反響がありましたし、発売日の1月20日からTwitterでは「今日届いた!」「早速使ってみた!」という投稿で溢れていました。

中林:最初の製品発表が2022年11月で、その時もTwitterのトレンド入りしていてびっくりしましたし、翌月に予約を開始したところ「1カ月待ってました!」という方が多くて嬉しかったです。

―― 発売前からこんなにも強固なファンコミュニティができあがっていることにも驚きました。

中林:そうですね。Discordの「mocopi」ファンコミュニティが発売前からできていて、今ではそこにソニーの社員も参加して、使い方の質問に答えたり、要望を吸い上げたりするために利用しています。もともとメタバース愛好者やVTuberの方々はこういったオンラインコミュニティで会話するカルチャーがあり、ファンの皆さんが盛り上がっている場所に我々も参加させてもらっている格好ですね。

―― 「mocopi」の開発にあたっては、個人開発でありながらVTuberの間でスタンダードになっていた3Dモデルのコントロールソフト「バーチャルモーションキャプチャー」の作者もチームに加わっていたというのが驚きでした。こうした動きはソニーとしても珍しいケースだったのでしょうか?

中林:異例だと強調するほどではないかなと思います。ソニーグループ全体として2022年度の経営方針説明会で「メタバース分野に注力する」と発表し、クリエイターを支援する技術を強化していくという動きも背景としてありました。新規事業系の部署は、どのプロジェクトも少人数でフットワーク軽く、ただサービスやプロダクトを出して終わりではダメで、その後の進化や他社との協業もどんどん取り入れてアウトプットしていかないと生き残れないという意識がありますから、おのずとそうなった部分もあったかと思います。

―― 商品のパッケージやCM・広告も非常にポップで、広義のオタクカルチャー圏以外にも届けようとする意思が感じられます。

中林:プロダクトを発表した後、TikTokerなどの方からも「アバターと一緒に動く動画を作りたい」といった反響があったんです。スマホの縦画面で録画できるので、そのままTikTokやYouTubeのショート動画として投稿できる点も相性が良いと言えるかもしれません。

スマホから音を拾って「リップシンク」も可能、アプリ間連携は今後も拡大

3Dアバターを別の背景に合成するためのグリーンバック表示にも対応している

―― mocopiの性能的なお話もうかがいたいのですが、どこまでの動きをできるものなのでしょうか。

中林:加速度センサーが入っているのでかなり速い動きにも追従できます。ひとつの例として、「mocopi」を使って超高速ダンスをフルボディトラッキングできるのか、検証している動画がありますのでぜひご覧ください。

―― これはすごくわかりやすい例ですね。他にもどこまでの動作が可能なのか試しているユーザーがTwitterで「側転したらアバターが画面から落ちていなくなってしまった」と投稿しているのを見かけました。

中林:そこは制約があって、正確にトラッキングを続けるには、足が床についている必要があるんですよね。ただ、ジャンプ程度でしたら全く問題ありません。「スケボー/スノーボードをやってみた」という方もいらっしゃいました。

「踊ってみた」を楽しんでくださる方もいらっしゃいますし、「『mocopi』はどこまでのことができるのか」をある種エクストリームなところも含めて追求される方もいらっしゃるので、SNSや動画サイトなどを色々チェックしてみていただきたいですね。

―― ユーザーの皆さん向けの小ネタと言いますか「実はこんな使い方もできるんですよ」というポイントは何かあったりしますでしょうか?

中林:小ネタと言えるかはわかりませんが、「mocopi』はリップシンクにもちゃんと対応しているんです。

スマホのマイクから音を拾い「あいうえお」の母音を認識し、それぞれに対応した口の動きをします。全身のトラッキング用に開発したデバイスではありますが、もちろん顔だけ、上半身だけで使うユーザーさんもいらっしゃいます。そうした方でも口の動きをトラッキングし、そのままスマホカメラの動画撮影と同じように音声も録音できます。

また、先ほどお話しした通り、バーチャルモーションキャプチャーと連動できるので、「mocopi』を使ってモーションデータを送信しつつ、フィンガートラッキング用のグローブなどを併用されるユーザーさんもいらっしゃるようです。

ーー ちなみに公式アバターのRAYNOS(レイノス)ちゃんは商用利用も可能なのでしょうか?

中林:個人利用であれば利用規約の範疇で自由に使っていただければと思いますが、企業の方がオリジナルの3DモデルではなくRAYNOSちゃんをイベントや自社PRの動画に使いたいということであれば、お手数ですが一度ソニーにコンタクトを取っていただき、活用方法だけ教えていただければと思います。

―― 先ほどのお話の中でも、ソニーさんがメタバースに注力していくという方針があるということですが、「mocopi」は今後、どのような展開を考えていらっしゃるのでしょうか。

中林:ユーザーの皆さんにより楽しく使っていただくべく、現在も様々な声を吸い上げているところです。「mocopi」はまだまだいろんなシーンで使えると思っています。例えばゲームやアニメ制作ソフト向けのプラグインを開発して、本格的な3Dアニメーションの制作過程で使っていただけるソリューションのデモを進めていたりもします。

また、開発ツールのパッケージであるSDK(Software Development Kit)を公開しており、例えばヘルスケアやロボティクスなどの領域でも、開発者やクリエイターの方々と一緒にユースケースを作っていきたいです。

* * *

インタビュー終了後、編集部の舩岡が「mocopi」を体験させてもらった動画のロングバージョンがこちら。

ちなみに最近では「mocopi」を用いて「屋外でキャラを映した実写映像作成」を試みるユーザーも数多く現れ、他にも「キャラの顔部分だけを合成して実写動画を制作するVTuber」も登場した。バーチャル背景ではなくリアル世界で3Dキャラが人間らしく動いているのを見ると「このキャラクターは本当に実際に存在して生きているんじゃないか」と実感できてしまう。「すごい時代になったものだな」と感動する一方で、自分の認識に無かった出来事が起こってちょっと戸惑ってしまう気持ちもある。

だが、その戸惑いも一時的な感情でしかなく、今後はAIチャットなどの進化も相まって、人間とキャラクターが“共存”する光景も珍しくなくなっていくのだろう。誰でもより安価に、簡単に3Dキャラになれる、3Dキャラクターがどんどん現実に進出してくる時代に、どんなクリエイティブが今後出てくるのか。とても楽しみだ。