EVENT | 2023/02/01

【CES2023レポート】XR開発者が会場で感じた進化。「Metaverse of Things」ってなんだ?(前編)

(c)Consumer Technology Association

小川恭平
BASSDRUMTech Dir...

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(c)Consumer Technology Association

小川恭平

BASSDRUMTech Director

1993年京都生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。学生の頃よりエンターテインメント業界に携わり、漫画を中心としたクリエイターエージェンシーでエンジニア兼編集者を経験する。独学で3DCG制作を始めた後、上海に渡り、中国ナンバーワンのバーチャルアイドルのステージ演出やミュージックビデオの映像制作・動画配信を担当。2020年よりアソシエート・テクニカルディレクターとしてBASSDRUMに参画し、エンターテインメント・AR/VRのエンジニアリング、ウェブサイトやサービスの構築からコンテンツまで、幅広いプロジェクトに携わる。

世界最大規模のテクノロジーカンファレンスである「CES」が2023年1月5日から8日にかけてラスベガスにて開催された。

1967年から続く歴史ある本イベントは「Consumer Electronics Show」と銘打った家電見本市であったが、ここ数年の展示内容は、5G、AI、XR、IoT、自動車、ロボティクス、スマート家電など多岐にわたる。

2018年より運営団体は「CEA(Consumer Electronics Association)」から「CTA(Consumer Technology Association)」へ、イベント名は「CES」に名称が変更されているように、最先端テクノロジー全般を扱う展示会となっている。

2021年は完全オンライン開催、2022年はオンライン/オフラインの並行開催であった。本年度は3年ぶりの本格的なオフライン開催となり、私の同行者の中にも久々に参加する方が多かった。

世界各国から集まった珍しいコンセプトモデル・新製品を実際に見て触って楽しみたいガジェットオタクもいれば、アフターコロナや環境問題などさまざまな世界情勢を踏まえて、どのようなテクノロジーや会社が今後必要になるのかというトレンドをキャッチしに来るマーケターもいる。

楽しみ方が人それぞれなのがCESである。

(c)Consumer Technology Association

私は普段、XR(AR・VR)領域のテクニカルディレクション・開発業務に携わっている。

昨年あたりから、メタバース作るための技術をリサーチし、開発する機会も増えてきた。

よく、「開発者の視点から最近のメタバースブームをどう捉えるのか」と聞かれることもあるのだが、よく分からないというのが正直なところである。仮にメタバースを「複数人が同じバーチャルな3D空間にログインして、リアルタイムで体験を共有しコミュニケーションを取る」ものと仮定したとき、その技術は既にあるし、空間や体験のクオリティも予算とやる気と時間次第でなんとかなる。

ただ、メタバースの金字塔となるサービスないしプラットフォームがまだいないのも事実で、単なるバズワードで終わってしまうのか、そもそも海外ではどう評価されているのか、メタバースの今後の展望を占いに私はCESにやってきたのだ。

Metaverse of Things(MoT)を求めて

メタバースについては昨年のCES2022から言及はあったが、今年からはメイン会場の中に専用ブースが設けられ、大きな技術トピックの一つとして扱う意気込みが感じられた。

CES公式サイトより。左下のピンク色で括られたコーナーが「ゲーミング/メタバース/XR関連」のブース

とはいいつつ、スマートシティ、デジタルヘルスなどのコーナーと比べればメタバースブースはまだまだ小さい。

CES公式サイトより

今年の基調講演の中では「The Metaverse of Things(MoT)」という概念が主催者であるCTAから発表され、参加者の間ではもちろん、SNSでも我々技術屋やVR好きの人々の間で瞬間的に盛り上がった。5年前あたりからよく耳にするようになった「Internet of Things(IoT)」。つまり、インターネット経由でモノ達が通信し相互につながる仕組みのことであるのだが、MoTをそのままの意味で解釈すると、「あらゆるモノがメタバースでつながること」になる。

ちなみに、調べてみると例年このテックトレンドの発表の場では、2020年は「Intelligence of Things」、2022年は「パンデミック・ピボット」といった、キャッチーな言葉が生まれがちではあった。

CTAの基調講演でメタバースに言及している部分とその資料を簡単にまとめると、言葉自体の一人歩きしている感を指摘しつつ、「メタバースは段階を踏んで成長している途中で、いずれは次世代のインターネットになりうるものである」としている。そして、メタバースは消費者向けとエンタープライズ向けの双方向から推進されていくべきで、前者には「Virtualization(仮想化)」が、後者には「Immersion(没入感)」の技術が重要になってくると語っていた。

ところが「どんなモノがメタバースとつながるのか」という肝心なところは詳しく語られず、「メタバースの技術や今後のビジネス戦略のヒントは展示の中にある」という言葉を残していた。

というわけで、これから我々が作るべきメタバースとは何なのかを知るために、メタバースに接続されるモノたち(Things)を求めて私は会場を彷徨うことにしたのである。

ここからは私がCESの会場で見つけた、興味深い製品・サービスの数々をご紹介したい。今回は大きく分けて「没入感を増すためのハードウェア」と「バーチャル化技術の進化」の2つに分類できそうな展示が目立った。

前編では「没入感を増すためのハードウェア」に関連する展示内容をお伝えしていく。

【第3世代OLEDディスプレイ】

LGはゲーミングコーナーも人気で、240HzのOLEDゲーミングモニターの輝度の高さと高精細さを、正面から見たときのリアリティには驚かされた。

【立体視ディスプレイ】

2020年にソニーから発売された「Spatial Reality Display」をはじめとして、いくつかの会社が製品をデモしていた。

画面の前にいる人や目の動きをセンサーでトラッキングし、その位置情報をもとに左右それぞれの視点の映像を描画することで視差が生まれ立体的に見える仕組みになっている。

裸眼でも没入感を得られるのはいいことであるが、複数人の視聴は不可能であったり、リアルタイムで描画するためのハイスペックなGPUを搭載したPCが別途必要であったり広く使われるにはまだ時間がかかりそうである。

【ヘッドマウントディスプレイ】

昨年、「Meta Quest Pro」と「PICO 4」が発売されて以来、VR開発者界隈では「カラーパススルー機能」が盛り上がりを見せている。これはヘッドマウントディスプレイ(HMD)の前方に取り付けられたカメラで撮影した目の前のカラー映像をディスプレイに映す方法(ビデオシースルー方式と呼ばれる)で、CGデータをその上に合成し、没入感の高いAR体験ができるという機能だ。

Meta Quest以前からカラーパススルー搭載のHMDはあったのだが、価格帯が低いデバイスにも搭載されるようになってきて、会場でもいくつか体験することができた。

これまでにあったHoloLensやMagic LeapなどのMRデバイスでは、ハーフミラーに投影した映像を重ねるので、視野角が狭くCGが見切れてしまったり、重ねたCGが透過してしまったりするので没入感が損なわれる場合が多かったのだ。そういった経緯もあり、展示デモではパススルー映像の綺麗さを重点的に見るようにしていた。

■Magic Leap 2

カラーパススルーできるHMDを絶賛しておきつつ、こちらのMRデバイスも悪くはなかったので紹介しておく。

一般消費者向けではなくエンタープライズ向け製品へと路線変更した「Magic Leap 2」。CES期間中に、「IEC60601」という医療用電子機器の安全性と有効性に関する規格の国際認証を取得したことを発表した。今後は工場でのトレーニングやオペレーション補助の用途だけでなく、医療現場やヘルスケア分野での活躍も期待される。

実際に触ってみたところ「Magic Leap 1」と比べて縦方向の視野角が広くなっていたり、視力の悪い人はメガネ無しでも調整レンズでカスタマイズできるようになっていたり、調光機能があってAR部分が見えやすくなっていたりと、実用性がより高くなっていたのは驚きであった。

私が体験したデモはVR上に設置された自動車の、タイヤの形やボディの色を自由に変更したりできるカーコンフィギュレーターのアプリケーションだった。事前に撮影したブース周辺の画像をライトとして使用しつつレイトレーシングすることで、車体への映り込みを正確に再現し、質感のリアルさが際立っていた。

■Lynx R1 Headset

こちらの製品自体は2020年からあったのだが、リデザインを行い、軽量化されていた。カラーパススルーは、2つのカメラで撮影して左右それぞれ違う映像を見るので、映像でもちゃんと奥行きが感じられる。個人的にはQuest Proで感じられる画質の粗さがあまりなかったように思えた。

早く自分でデモを作ってみたくなる製品であった。

■VIVE XR Elite

CESで発表されたHTC製のスタンドアロン型のヘッドマウントディスプレイで、単眼のRGBカメラからカラーパススルーも可能。

こちらは実際に体験できなかったのでオフィシャル映像を紹介する。

■MREAL X1

エンタープライズ向けを見越してか、軽量かつ、被る・手持ちなど体験用途に合わせて柔軟に変形できるところが特徴である。こちらも2眼のカメラでカラーパススルーができた。

体験したデモは手持ち状態で、工場のオペレーションをARで体験するものだった。ハンドトラッキングにも対応しているので、コントローラを使わずに素手でAR上のボタンを押したり、自分の手がオクルージョンされて見えるようにすることも可能。

また、他社の光学トラッキングシステムとMREALを併用して、イマーシブシアターのような体験コンテンツも展示しており、エンタメ用途での活用もできることをアピールしていた。

バーチャル空間とリアル空間をシームレスにつなげられると表現の幅が広がりそうである。

■holoride retrofit

ソニーとホンダがタッグを組んで発表したEV「AFEELA」が、ゲームエンジン「Unreal Engine」を有するEpic Gamesとも協業してエンターテイメントの新しい価値創出を狙うように、自動車がメタバース空間とつながる未来はそう遠くないはずである。

「holoride retrofit」は、車の位置情報や加速度をトラッキングし、BluetoothでHMDに送信するデバイスである。アプリケーション側で受け取った情報を制御すれば、リアル空間の車が左にカーブを曲がると、バーチャル上の空間も同じスピード・方向で曲がるのである。曲がる際に感じる重力とバーチャルが同期していると面白い体験になるし、酔いも起こらないのは驚きであった。

ただ、せっかくラスベガスの街をドライブしているのに、シューティングゲームやNetflixを見るだけだったのは勿体なく、なんともいえない気持ちになったのも事実である。

まだ対応しているHMDが「VIVE FLOW」のみであり、これが先ほどのパススルーに対応したHMDに対応したりすると、例えばドライブしながらARとVRで現在と過去、未来を行き来する、バックトゥザフューチャー的なエンタメコンテンツを作ることができる未来はあると思う。

【ハプティクスデバイス】

VRコンテンツ用途のハプティクス(触覚技術)製品は数社展示されていたのだが、多くのデバイスが「デカすぎる、重そう」な印象しかなかった。

これは極端な例で、しかも前世代のモデルであるのだが、HaptXのグローブはまさにそのひとつだった。同製品はバーチャル上でモノをつかんだ時、背負ったバックパックからグローブに空気が流れ、その空気圧で感覚を再現するというものであった。

■OWO Skin

そのような中で、この薄型軽量ハプティクススーツは目立っていた。600グラムと他のデバイスと比べるととても軽量で、10個の刺激を受ける箇所とベースとなる感覚をいくつか組み合わせ、パラメータを制御すると無数の感覚を作ることができるとしている。

SDKも充実していて今すぐ使ってみたいデバイスのひとつであった。

以下の動画はハプティクススーツを着て、フォートナイトをプレイしている様子。銃撃が当たったときの振動を再現しているようだ。

【嗅覚デバイス】

■ION 3

体験したデモの中で個人的に一番驚きがあったのが、このOVR Technology社のウェアラブル嗅覚VRデバイスである。緑色の噴出口の部分が鼻の前に来るように耳にかけて被る。ベースとなる匂いのカートリッジが入っていて、それらのパラメータをBluetooth経由で、スマートフォンやPC、HMD内のアプリケーションから制御することで、数千通りの匂いを生成することができるようだ。

体験したデモは、アプリで動画を再生すると、それに対応した匂いが香ってくるというシンプルなものであったのだが、不思議な没入感があった。

また、このアプリケーションでは、動画編集ソフトのようなUIでタイムラインに香りを埋め込むことができ、タイミングやにおいのパラメータを制御できるようになっている。

日本のアロマジョイン社も今回これと似たアプリケーション・デバイスを発表していた。

メンタルヘルスケア的な側面もあるので、今後嗅覚デバイスの需要は増えそうである。

続く後編では、もうひとつの注目テーマ「バーチャル化技術の進化」についてレポートする。

後編記事はこちら


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