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PR 慶應SFCの学生がコンプラもプライバシーもデジタルタトゥーも気にしない遊び場を大人たちは作れるか?「デジタルツイン・キャンパス ラボ」シンポジウムレポート【後編】
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  • 2022.10.12
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慶應SFCの学生がコンプラもプライバシーもデジタルタトゥーも気にしない遊び場を大人たちは作れるか?「デジタルツイン・キャンパス ラボ」シンポジウムレポート【後編】

文:赤井大祐(FINDERS編集部)

慶應義塾大学SFC研究所とソフトバンク株式会社は、5GやBeyond 5G/6Gなどの通信技術を活用した次世代の情報インフラを研究開発する場として、2022年6月、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)に「デジタルツイン・キャンパス ラボ」を設立した。

左から佐藤雅明准教授、大越匡准教授、中村修教授、湧川隆次所長、大前学教授、脇田玲教授、堀場勝広室長代行

そして10月からの本格始動に向けた「デジタルツイン・キャンパス ラボ」における取り組みを紹介するシンポジウムが9月28日に開催され、慶應義塾大学 環境情報学部の中村修教授、ソフトバンク先端技術研究所 所長の湧川隆次氏を始めとする中核メンバーが登壇した。各登壇者が、それぞれの研究や事業の中で「デジタルツイン・キャンパス ラボ」とどのように関わり、どのような期待をもって取り組みに臨むのかを語った内容を前編ではお届けした。

若者にはディストピアよりもユートピアを想像してほしい。慶應SFC×ソフトバンク「デジタルツイン・キャンパス ラボ」シンポジウムレポート【前編】

シンポジウム後半では、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授の佐藤雅明氏と、ソフトバンク株式会社 先端NW研究室室長代行の堀場勝広氏が加わり、「これからの30年」をテーマにパネルディスカッションがおこなわれた。

後編である本稿では、このパネルディスカッションの様子をダイジェストでお届けする。

「5Gはこうやって使う」を示してほしい

パネルディスカッションは、ラボの代表を務める環境情報学部の中村修教授により進行。最初の議題は、これからの「インターネットのあり方」について中村教授から問題提起がなされた。

中村:今までのインターネットって世界と繋がれる的なことが喧伝されてきたけど、「サイバーフィジカルシステム」みたいな世界観になってくると、近くの人と通信したい、というのが大事になってくると思うんだよね。

例えばSFCは田舎だから迷子のおじいちゃんに関する放送が普通に流れたりするわけ。そこで優先されるものはプライバシーではなく、「迷子のおじいちゃんを探す」ということ。特定の地域内にしかリーチしない前提になっているからプライバシーの問題を考える必要はないんですよ。今までは世界を一つに、という方向でインターネットを考えてきたけど、これからはリージョンに対するマルチキャストだとか、狭い地域内でのネットワークがもっと大事になると思っているんですが、今まで通りのキャリアのあり方では難しい?

堀場:伝統的に周波数は用途ごとに割り当ててしまうので使いみちが限られていました。これがインターネットになることで用途が限定されなくなった。さらに5GになっていくとアプリからAPIドリブンに変えましょうということができるようになった。P2PでしたりPub/Subなどダイナミックに考えていかなければならない。いろいろなユースケースがでてくればキャリア側もそれに合わせて動かなければ、という意識になってくると思います。

ソフトバンク株式会社 先端NW研究室室長代行の堀場勝広氏

中村:やっぱり使い方ってキャリアがお膳立てしてどうこうというものでもないはずなのにどうしてもそうなりがちだよね。

堀場:キャリア側もそういったインターネットのユーザーに歩み寄る、といった形も必要かもしれません。

中村:その歩み寄ったさきがSFCということだ。

堀場:まずはSFCの皆様に使い倒していただいて、「5Gはこうやって使うんだぞ」というのを示していただければと思います。

大学は「許す」場所であるべき

続いて、SFCが築いてきた自由な文化を振り返り、これから学生への期待や大学という場のあり方について、各登壇者から思いが語られた。

中村:SFCを作ったとき入試はAOを採用してこれまでとは違う方法を模索した。それからインターネットはすべて自由に使って認証とかルールとか実験計画も全部いらない。自由にやってくれ、といったことをコンセプト、文化としてやってきた。それが新しい未来を作ってきたわけだけど。やっぱりこれはとても大事なことだと思うんだよね。

「デジタルツイン・キャンパス ラボ」代表 中村 修(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)

脇田:今の学生は行儀がよく、社会システムに従順で、逸脱したがらない傾向はあるかもしれません。それはデジタルタトゥーになるから警戒している、という説もある。でもデジタルツイン・キャンパスの中であればいくらやらかしても現実世界に影響しない。そういった砂場が作れると良いですよね。

中村:キャンパスだからなにをやっても許される、「大学生だから」という赦しが、その空間にあって、その中で自由に発想してもらいたいというのはある。

脇田:社会にはテクノロジーが許しても制度が許さない、という事例がたくさんあります。でもそれを許すのが大学という場所だと思うんです。コンプライアンスですべての大学を一様に縛ろうとする動きもありますが、それぞれの大学で味のある実験をするべき。それでもコンプラがうるさいようでしたら「シミュレーションだから」ということで逸脱できる構造があると良い。

大越:やっぱり新しいインスピレーションを生み出すのはいつも学生ですよね。面白い取り組みって、だいたいアイデアから実装や広報用の撮影に至るまで自分たちでやっているんですよ。

佐藤:インターネットというものが公になったような気がします。その影響もあって脇田さんがおっしゃったように行儀が良いとか、現実世界よりも真面目に振る舞おうとしているのかもしれません。昔僕らが体験していたインターネットの世界って現実よりも実験ができて楽しい、という場所だった。対して今の学生はもっとフォーマルなものと捉えているかもしれない。もっとヤンチャなことをやってもいい、失敗したり、多少怒られるようなことをやっていい、と学生たちが思えるような、チャレンジの後押しができるといいですよね。

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授の佐藤雅明氏

デジタルに「血の気」は宿るのか?

そして議論は今回のパネルディスカッションのメインテーマでもある「これからの30年について」へと移っていった。

中村:僕は広帯域が大好きだから帯域を太くすることに命をかけてきたんだけど、そろそろアプリケーション、ユーザー側がネットワークに対して追いついてないと思うんだよね。次の30年でもっと広帯域で通信ができるようになったら何を送りたい?

大越:僕がひとつ考えているキーワードに、「血の気」があります。インターネットで血の気を送り合いたい。今でもリアルタイムでビデオ通話ができるし、4Kや8Kの超高解像度の映像も送れる。それでもちょっとした視線の動きや、表情の機微はまだまだ伝えきれていない。ここが閾値を超えたときに、おそらく血の気というものが共有されるようになると思う。僕は今のデジタルに血の気はないと思っています。これを超高速・超低遅延でできるとデジタルのキャンパス上にも血の気が宿るかもしれません。

慶應義塾大学 環境情報学部 准教授 大越 匡

脇田:最近8Kの動画を扱うことがあるんですが、8Kってヘッドマウントディスプレイをつけなくても視野角60度以上かつ、リフレッシュレートが60Hzを超えると没入感を得られるらしいんです。でも8Kをデータとして扱おうとすると平気で1TBとかになってコピーだけで30分とかかかるので扱いづらい。それが5Gでもってサクサク通信できるようになればクリエイションの現場は大きく変わると思います。

佐藤:例えば医者が患者をオンラインで診察するときに、技術屋は顔が見られればいいと思っていたところ、現場としては細かい表情や歩き方、洋服についたホコリの量など、もっと総合的な情報を観ていたいという要望があったんです。一方で眼科は高画質な静止画があればいいだとか、それぞれの場所で求められるものが変わります。どの分野にどんな技術が有効なのかは使ってみないとわからない。そういったことをどんどん実験してユースケースを考えていく場所とするべきです。

デジタルツインならではの「擬似的な危険」

中村:さっきから話している通り、学生たちには自由な発想であってほしい。例えば学生たちが教員や大人の知らないところで勝手に5Gを活用して繋がってくれたりしているとおもしろいよね。

脇田:デザイナーやエンジニアはツールを正しい方法で使うのに対して、アーティストはあえて間違った使い方をすることで、「反転」を炙りだしたりする。学生のアーティストに5Gのインフラができたらどうするか聞いてみたんです。そうしたらキャンパス中にカメラをばらまいて、「ここを通ったら全部(情報が)抜かれる、という物理的な場所を作ってみたい」と言うんです。将来できうるスラムを再現し、そこに直面したときにどんなことを感じ、考えるのか。さらにそこにはどんなインフラや制度が必要になるのかを考える。デジタルツインならではの擬似的な危ない体験をできるエリアを作って実験したい、と話していました。外の世界でやったら犯罪だけど実験という名目でやれば多くのものを得られるわけですよね。

中村:SFCは「未来からの留学生」というように、ずっと実験的であり続けてきた。今回のプロジェクトでは学生教員一体となって実験に取り組んでいけると良いなと僕は思っている。

脇田:そのためには、まずは教員が率先して変わっていく必要があるかもしれませんね。

中村:なるほど。それが一番難しいんだけどね(笑)。あとは、ここで得た実験の成果ってどうやって社会実装していけばいいのかな。

5Gとかbeyond 5Gに関する取り組みって国も関わって研究計画〜報告書まで求められながらやっていくのでかなりハードルが高い。でもSFCだったらそういうのは全部無しにして、例えば学生全員にeSIMを配ってキャンパス内でなら自由に使える。代わりにプライバシーはないけど(笑)とか。その代わりうるさいことも言わない、みたいなこともできるわけ。これは本当にやっていこうと思っていますが、そういった環境を整えていくことがやっぱり社会実装に向けた一番の近道であり、他のプロジェクトとの一番の違いんじゃないかなと僕は思っています。

大越:もちろん社会実装に向けた現実的なステップはありますが、まず実験ベースでいいから想像したものを形にすれば現実的な部分はあとから付いてくるはず。Twitterはあるタイミングで「Forsquare」というサービスと提携して位置情報を共有できるようにしましたが、これまでプライバシー情報だった位置情報を開示することで新しい価値が生まれた事例もあります。そういった実験をまずはSFCの中から仕掛けていけるといいですよね。

堀場:やっぱりそういった情報を「取れる」「置いておける」「人に公開できる」というのがプラットフォームに求められる価値ですよね。百聞は一見にしかず、まずはSFCの中でやってこれだけのベネフィットがあるとわかった。それを日本やもっと広いフィールドに広げていくとすれば、じゃあどうするかという考えが浮かびます。でもいきなりやろうとするとどうしても考えの幅が狭くなるんですよね。

中村:CPSがキャンパス内に「閉じている」ことを言い訳にすればいいと思うんです。そもそも人間が暮らしている環境はある程度閉じているわけだし。技術的にというより、情報の扱い方として閉じているということにして、それを言い訳にして未来を作っていってほしい。例えば自動運転だとかドローンだとかって閉じているから自由にできるわけですよ。今もリモートドローンのレース大会とかやりたいなと考えているんです。

大前:自動運転の実験は閉じていると本当に楽なんですよね(笑)。

慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 教授 大前 学

偉い人が考える未来なんて絶対やってこない

中村:それでは質問が来ているのでお答えしましょうか。

【質問】このような5G/6Gの取り組みは世界的に見ても先進的なものなのでしょうか?総務省なども5Gに関する取り組みを進めています。

中村:「目的ベースでやっていない」。これが絶対的に違うと思います。総務省もさまざまな取り組みをやっていますが、ユースケースに応じて個別にプロジェクトをやっている。今回の我々の取り組みはとにかく環境があるから自由に使ってくれ、というのが圧倒的に違う発想です。学生だったらきっと面白いことやってくれるよね、という。投げやりといえば投げやりなんだけど(笑)。

堀場:通信のインフラという点では前例がないわけではないのですが、「デジタルツイン・キャンパス ラボ」は通信だけでやっているわけではない。アプリケーションが花開くのに重要なのはエコシステムだとよく言われますが、通信だけじゃなくて、コンピューティングの環境だとかその使い方だとかといった部分も含めて考えることで、新たなアプリが花ひらいていくのではないかと思います。

脇田:すごく大事な観点なんですが、偉い人たちが集まって考えた未来なんて絶対にそうならないわけですよ(笑)。願望でしかなかったりして。若い人がやりたいことをやって、それが未来を作っていくのでその実験場として価値があると思います。失敗もいっぱいあって、ものすごい数のトライアルからいくつか成功例がでてくれば良い。

慶應義塾大学 環境情報学部 教授 脇田 玲

大越:特に学生のみんなに言いたいのですが、知らないことは強さなんですよ。ここにいるみなさんは経験をお持ちなので社会、制度、規制について知っちゃっているんです。それによって自分のデザインスペースが自然と狭まっている。学生はその縛りがないので、その強みを是非生かしてほしい。

佐藤:今の大学って不公平感をなくそう、といった風になりがちじゃないですか。「デジタルツイン・キャンパス ラボ」は「公正」であれば何でもやっていい。それは自分で問いかけながら、失敗しても良い場所として学生に使って貰えればいいと思う。

中村:今回ソフトバンクさんと実証実験を重ねてきて結構いいところまできました。eSIMはまだ配れていないけど、基地局を立てたりと自由にやってきた。審査とかはしないので学生、教員などキャンパスのみんなにはどんどん声を掛けてほしいし、企業の皆様にもどんどん提案をいただけると嬉しいです。オープンなプロジェクトなので皆様といろいろな実験ができたら良いと思います。


各登壇者が「デジタルツイン・キャンパス ラボ」に対する期待をおおいに語ったパネルディスカッション。それぞれの知見からさまざまな意見が飛び出したが、ここで放たれていたメッセージは終始一貫して、「学生たちに自由な発想でチャレンジしてもらいたい」というものだった。

そしてそれを実現するために、ソフトバンクは最先端の情報環境を提供し、SFCは開校以来培ってきたその自由闊達な文化でもってサポートするということだ。

「デジタルツイン・キャンパス ラボ」から生まれた取り組みが、次の30年間で我々の生活に根付いた文化やサービスとなって世の中に現れることに期待したい。


前編はこちら

デジタルツイン・キャンパス ラボ - 慶應義塾大学SFC研究所

〈シンポジウムのアーカイブ動画が公開されました!〉

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