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これで950円!?プチ観光気分で絶品とろろめし定食を味わう 島勝(奥多摩湖)【連載】印南敦史の「キになる食堂」(9)
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  • 2022.07.05
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これで950円!?プチ観光気分で絶品とろろめし定食を味わう 島勝(奥多摩湖)【連載】印南敦史の「キになる食堂」(9)

印南敦史

作家、書評家

1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て独立。一般誌を中心に活動したのち、2012年8月より書評を書き始める。現在は「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.JP」「ニュースクランチ」など複数のメディアに、月間40本以上の書評を寄稿。
新刊は、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。他にも『読書に学んだライフハック』(サンガ)、『書評の仕事』(ワニブックスplus新書)、『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』 (星海社新書)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)など著書多数。

JR奥多摩駅からさらにバスで30分、遠出の甲斐がある定食屋へ

たまたま車で通りかかった奥多摩湖畔に食堂らしき建物を発見したのは、もう20年くらい前のこと。以来ずっと気にかかっていたのだが、とはいえ「ちょっと確認してくるわ」というわけにはいかない場所である。

そのため実際に足を運ぶまでにずいぶん時間を要してしまったのだが、それでも頭の中に残ったままではあったのだ。「島勝」という名の、その食堂のことが。

JR青梅線で終点の奥多摩駅まで行ったら、そこから先はバス。カーブの多い道を30分ほど進むと、やがて「留浦」というバス停に到着する。目指す島勝は、そのすぐ近くだ。

のれんの清潔感は、その店のあり方を如実に表しているものなのだ(と、個人的には思っている)。そして島勝の白くパリッとしたのれんは、ここがきちんとした店であることの証明でもある。向かって左側には、「島勝」と彫られた立派な木の看板がかかっている。

「お食事処」と白く抜かれた青いのぼりが2本立っており、その上にはソーラーパネルが5枚。どうやら2階は住居になっている様子であり、周囲の環境と無理なく調和している。

のれんをくぐってお邪魔すると、木目調の店内には、やはり木の質感を生かしたテーブル席が大小合わせて4卓。席間にも余裕があり、ゆったりと落ち着けそうだ。ほどなく正面奥の厨房から、ご主人と思われる男性が水とメニューを運んできてくださった。

かつ丼から蕎麦、うどん、ラーメンまで、意外なくらいにメニューは豊富。「せっかくここまで来たのに、かつ丼っていうのもなぁ」と思ったりもしたのだが、「下田畜産の青梅豚の揚げたてかつで作ります」などという記述を目にしてしまうと、ちょっと心が動かされてしまう。

とはいえ、この土地らしさを楽しむには、やはり「とろろめし定食」(950円)がよさそうだ。かつ丼は都心でも食べられるが、外食でとろろめしをいただく機会ってあまりないし。それに写真を見る限り、とにかく品数が多い。文句なしに満足できそうなので、ここはとろろめし定食でいくことにする。

見るからにヘルシー、そしておいしさ盛りだくさんな「とろろ定食」

注文が通ると、厨房にいらっしゃる奥様が支度を始める。どうやら調理は奥様で、配膳をご主人が担当しているようだ。

待っている間、ゆっくりと店内を見回す。壁にはサイン色紙もたくさん貼られている。どうやら、ドラマの撮影にも使われたようだ。

さて、やがて「おまちどうさま」という声とともに運ばれてきたとろろめし定食を見て驚いた。メニューの写真で確認してはいたものの、実際に確認すると非常に豪華なのである。

プレート上にはとろろ、ご飯、味噌汁が三角形になるように並べられており、その間に小鉢が3つ、小皿が3つ。山菜の煮物や蒟蒻の刺身、卯の花の煮つけ、煮物などなど。左奥に並んでいた揚げ物はなんと椎茸のフライで、これが驚くほどみずみずしくておいしい。

というよりも、明らかに旬の素材が使われたすべてが絶品。繊細な舌など持ち合わせていない僕にさえ、きちんと手がかけられていていることがわかる。だから食べるという行為が、「次はどれにしようかな?」と、思わず迷い箸をしてしまいそうになるくらいに楽しいのだ。

明らかに体によさそうだし、一口いただくごとに、感謝して食べなければという気持ちが大きくなる。そこで意識して普段よりもゆっくり、きちんと噛みながらひとつひとつをいただいた。

そしてクライマックスは、お待ちかねのとろろである。醤油を少しだけ垂らしてかき混ぜ、ご飯にどばっとかけ、音が立つことも気にせずに勢いよくかき込む。強い粘り気が心地よく、適度な塩気とも相まってご飯が進む。これを食べられただけでも、時間をかけて来た甲斐があったと感じる。

あとから聞いたところによると、やはり調理は奥様のご担当らしい。旬の素材を使うため季節によって内容は変わるそうだが、客側にとってそれはうれしいことでもある。

お店ができたのは、小河内ダムとともに人造湖の奥多摩湖が誕生した昭和32年(1957年)。つまり、今年で65年目ということになる。現在のご主人は2代目にあたるそう。なるほど、東京最西端の観光地としても親しまれる奥多摩湖とともに、時を刻んできたわけだ。

「きょうは橋がかかってるよ」

お勘定を済ませて外に出ると、ご主人が窓から身を乗り出して声をかけてくださった。どうやら湖には、日によって簡易橋がかかるらしい。

せっかくだからとほとりまで降り、橋をゆっくり渡ってみる。月曜日ということもあって人はほとんどいないが、前から来たカップルが「こんにちは」と声をかけてくれたりする。「こんにちは」と返事をし、橋の真ん中、つまり奥多摩湖の中心部あたりで止まってみる。大きく広がる光景を目にするとやはり、「ここが東京だとはなぁ」と感じずにはいられないのだった。


島勝
住所:東京都西多摩郡奥多摩町留浦617
営業時間:夏10:30~18:30、冬11:00〜17:00
定休日:第1水曜・木曜日

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