文:神保勇揮
受賞作品はいずれも大人顔負けのクオリティ
11月21日、U-22 プログラミング・コンテスト2021の最終審査会が行われ、審査対象となっていた374作品のうち、入選していた16作品の中から
経済産業大臣賞:4作品
経済産業省商務情報政策局長賞:6作品
および、
スポンサー企業賞:10作品
SAJ賞:1賞
視聴者賞:1作品
が選出された。
本コンテストは、優れたIT人材の発掘・育成を目的に1980年から経済産業省主催でスタート。その後40年以上、時代の変遷によって名称や対象年齢を変更し、2014年には主催を民間のソフトウェア開発企業らに協賛を得て実行委員会を組織し、一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)が運営、今回の開催で42回目を迎えた。
過去の入賞者の中には、
・日本有数のユニコーン企業でもあるAIスタートアップ、株式会社Preferred Networksに所属する奥田遼介氏(2008年度 経済産業大臣賞)
・複数のSaaS間のデータを統合し、業務の自動化を実現するプラットフォームの開発と運営を手掛ける、Anyflow株式会社を起業した坂本蓮氏(2012年度 商務情報政策局長賞/2014年度 商務情報政策局長賞)
・優秀なセキュリティエンジニアが集う株式会社イエラエセキュリティ所属の三村聡志氏(2010年度 経済産業大臣賞)
といった人材も輩出している。
経済産業大臣賞は、「プロダクト」「テクノロジー」「アイデア」「総合」の4つの観点から受賞作品を選出するもので、これまでの入賞作の中には、大人顔負けの「これはそのまま商品化・サービス化できるのでは?」と思えてしまうほどの作品も少なくない。
本稿では、この経済産業大臣賞に選ばれた4作品をご紹介する。
総合:Chokoku CAD
制作者:船橋 一汰
学校名:一宮市立大和中学校
全応募作品のうち、先の「プロダクト」「テクノロジー」「アイデア」の3つのカテゴリの観点から見ても大変優れており、総合的にバランスが取れている「総合」に輝いたのは、「Chokoku CAD」だ。この作品はブラウザ上で動作する3D CADアプリケーションで、開発者の船橋一汰さんはなんと中学1年生。
画面上の立方体を彫刻のように削っていくことで、単純な操作で複雑な図形を作成することができる。既存のモデリングソフトを使っている際、あまりに機能が多すぎてやりたいことを直感的に実現できない、初心者には使いづらいと感じたことから開発に至ったという。
機能は「図形の描画と移動」「新しい立方体の配置(複数の図形を組み合わせられる)」「着色」のみとなっており至ってシンプルだ。既存ファイルの読み込みも可能で、作成したデータはUnityのアセットとして使用したり、3Dプリンタで印刷することもできる。
プロダクト:ヒトコエ
制作者:m×(えむかける)
学校名:HAL名古屋
続いて有用性・芸術性面で大変優れており、ビジネス展開できる可能性を秘めている「プロダクト」には、「新しいヘルプマークのかたち」をコンセプトにしたWEBアプリケーション「ヒトコエ」が選ばれた。専門学校のHAL名古屋の高度情報学科 WEB開発コースに在籍する8人のグループ、m×(えむかける)が開発。
外出先などで何らかの援助や配慮を必要としている人が、困ったこと、助けて欲しいことがあった時に、「ヘルプボタン」(ウェブ上のボタンまたはハードウェアのボタン)を押すと、緊急連絡先に向けて情報をSMS送信できる。また現在地の半径1kmにいる、ヘルパーとして登録した利用者に向けて助けてほしい内容や場所、利用者の特徴を示す写真などをLINEで送信することも可能。
UIや配色の部分でもアクセシビリティに配慮したうえ、各種専門家や当事者にもヒアリングを実施し、そのフィードバックを受けて改善を図っている。今後は建物内での利用も想定し、現在地の把握に関して標高も含めた距離計算への対応、悪意あるヘルパーからの接触を防ぐための通報機能の実装も行っていきたいとしている。
テクノロジー:kirl
制作者:大塚真太朗
学校名:九州工業大学
次に、機能性・実装が大変優れており、作品制作にあたって高度な技術と知識を有している「テクノロジー」には、九州工業大学 情報工学部3年生の大塚真太朗さんが開発したプログラミング言語「kirl(キール)」が選出された。「kirl」は、静的型付けスクリプト言語。Rust製で、構文はRust、型システムはTypeScriptを主に参考にしている。使用方法としては、高機能なシェルスクリプト、ちょっとした計算・集計、他プログラムのプラグインシステムとしての利用を想定。
静的型付けスクリプト言語とは、「実行前に型検査を行う」、「実行前にコンパイルのステップを踏む必要がない」という特徴を併せ持つもの。これまでに
・静的型付けコンパイル言語(C、Rust、TypeScriptなど)
・動的型付けスクリプト言語(Python、Ruby、Juliaなど)
は複数存在するが、「静的型付けスクリプト言語」あるいは「動的型付けコンパイル言語」はほとんど見られないため、これまで存在しなかった理由を探るという好奇心からも開発に至ったとしている。
審査委員からの質疑応答では「今後どんなユーザーに使ってもらい、広めていきたいか」という質問に対して「ユーザーに使って欲しいというよりは、プログラム言語開発者に対してこういう選択肢もあるということを知ってもらい、今後競合するような言語が生まれてくることが理想です」と返答した。
アイデア:次世代の音声フォーマット
制作者:黒田和暉
学校名:広島大学
最後に、独創性面で大変優れており、制作者の今後の成長などが期待できる「アイデア」には、サカナクションの音楽に触れたのをきっかけに音楽の面白さ、可能性を知ったという、広島大学の黒田和暉さんが開発する「次世代の音声フォーマット」が選ばれた。
近年、音楽を聴くツールとしてはスマホを用いてmp3データを再生する、YouTubeにアクセスして視聴する、あるいはSpotifyなどストリーミングサービスを利用するといったことが主流となり、自宅オーディオでアナログレコードやCDを聴いていたころと比べると「音質が良い」状態で聴けているとは言い難い環境にある。一方でコンピュータやストレージの計算処理速度、記憶容量の向上などもあり、映画館では立体音響が用いられるようになるなどのリッチ化も進んでいることから、「音楽を楽しむ可能性はまだ広げられるのでは」と思い開発に至ったという。
音声フォーマットの名前は「Floaout(フロウアウト)」。コンセプトは
・高品質・高機能で
・聴かせたいありのままの音を
・いつまでも残せる
とし、楽器など各パートの音データとなる「Bubble」には立体音響の情報(制約条件、範囲が記述できる関数)を入れることができ、併せてFloaoutで作成された音楽を再生するソフトウェアも開発。スピーカーの位置もソフト内で変更できるようにしている。
今回、経済産業大臣賞を受賞した4作品を含め、これらの全作品は今もなお「開発中」だ。Chokoku CADやkirlのようにネットで公開され実際に試せるものもあるし、各人が今後の機能拡大を構想し、実際に手を動かしてもいる。
今回の受賞者たちが今後この作品を基に起業するのか、就職してまた違った活躍を見せるのか、アカデミックな場に活動を広げるか、さまざまな選択肢があるだろうが、いずれにしても今後の成長が非常に楽しみだ。さらに、本コンテストの取り組みが、より優秀な若手プログラマーを数多く輩出し、今後の日本のソフトウェア業界を発展させていくことに期待したい。