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ドメスティックな中国と、さらにドメスティックな日本【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(19)
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  • 2021.12.17
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ドメスティックな中国と、さらにドメスティックな日本【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(19)

筆者が主催した深圳メイカー企業食事会の様子。オープンイノベーションのためには、まず自分たちの組織、ひいては自分自身がオープンになる必要がある。炎上を恐れず各自がSNSを仕事でバンバンやった方がいいし、スーツをやめ、若手と女性をなるべく責任者にして前に押し出した方が良い

高須正和

Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development

テクノロジー愛好家を中心に中国広東省の深圳でNico-Tech Shenzhenコミュニティを立ち上げ(2014年)。以後、経済研究者・投資家・起業家、そして中国側のインキュベータなどが参加する、複数の専門性が共同して問題を解くコミュニティとして活動している。
早稲田ビジネススクール「深圳の産業集積とマスイノベーション」担当非常勤講師。
著書に「メイカーズのエコシステム」(2016年)訳書に「ハードウェアハッカー」(2018年)
共著に「東アジアのイノベーション」(2019年)など
Twitter:@tks

中国経済の減速が伝えられるが、政府は研究開発費の多い企業への優遇を増やし、多くのテクノロジースタートアップが登場している。技術開発が社会を変える速度はますます早まっているから、科学技術偏重は正しいやり方だ。とはいえ、それだけでいいのだろうか。中国イノベーションの限界について考える。

中国伝説のVCはひたすらテクノロジー主導

12月4日、深圳で開かれたルー・チー博士(ベンチャーキャピタルのMiracle Plus CEO)の講演を聞いた。ルー・チー博士は伝説の起業家でありベンチャーキャピタリストだ。マイクロソフトの副社長、百度のCTOなどを歴任した後、世界で最も成功しているスタートアップ・アクセラレータ、シリコンバレーのY Combinatorの中国責任者を務め、Y Combinatorが海外事業部を閉じてアメリカ投資に専念すると発表した後は、その中国事業をすべて引き継いでMiracle PlusというVC/スタートアップ・アクセラレータを創業した。アメリカと中国それぞれで、テクノロジー分野の大企業とスタートアップそれぞれを経験している。

ルー・チー博士(右端)とMiracle Plusのパートナーたち。いずれも技術部門で多くの経験がある

コンピュータ技術の進化はまだまだ続く。中国が有利なポイント

2時間近いルー・チーの講演のほとんどは、コンピュータを中心とした技術の話に費やされた。当日の模様は筆者がTwitterでレポートし、togetterにもまとめたので興味がある読者は読んでみてほしい。

コンピュータがあらゆるビジネスを変革し続けている、それはコンピュータがスマホやIoTとなって社会のあらゆるピースと関わるようになったことや、計算能力が進化してAIが生まれたことなど、さまざまな要因による。そのどの部分でもスタートアップが活躍する機会がある。

主役であるコンピュータそのものも、ハードウェア・ソフトウェアもあらゆる面で進化を続けている。

コンピュータの進化についての説明も、AI処理のためにGPUを使うCUDAなどの説明から、AppleやGoogleが独自のSoC(System on a Chip)を開発していることにつなげ、独自のICを作る上での製造装置や材料のイノベーションについて語るなど、復旦大学で修士、米カーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスの博士号を取得しているルー・チー博士の見識が非常に広くて深いものだと感じられるスピーチだ。

技術史と人類の歴史を組み合わせて今の中国スタートアップの環境を語るルー・チー博士

社会と技術が出会う場所でスタートアップが生まれる

コンピュータはムーアの法則で進化し続ける。これまでコンピュータと無縁だったバイオや材料の産業にも、センサーやロボットの進化でコンピュータが関わるようになったことで、新ビジネスの大きな可能性がある。ルー・チー博士は、英領東インド会社を例に出して、「新世界が広がるところが一番大きな市場になる。コンピュータ、スマートフォン、IoT、それぞれ新しい世界を開いた。これからは宇宙探索やメタバースも新しい市場になり得る」と、技術の進化と大衆化による新分野への適応を語る。

それは、これからますます研究開発と新技術の産業化に注力する中国のアプローチでもありえる。

「世界の工場」としての製造力を抱えたまま、生産技術のAI化・IoT化に取り組むことや、これまで中国で製造が難しかった先端ICや新素材などの研究開発は、今ならかなりのアドバンテージがある。多くの研究者と多くの市場、そして多くの生産設備という、他の国にない要素が3つも揃っているからだ。

伝説のベンチャーキャピタリストであるルー・チー博士の講演は、技術史に加えて社会のトレンド、地政学の範囲を正しく捉えて、「中国のスタートアップにとって空前絶後の良い時代が来る。起業しよう!」と聴衆を煽り立てるものだった。

技術ベースの事業開発を深圳で行っている筆者から見ても、ルー・チー博士のトークに異論はない。今後、5年以上という長いスパンに渡って、中国のスタートアップとっては良い時代が続くだろう。筆者は今年11月に深圳政府主催の「深圳グローバル投資イノベーション大会」、香港和僑会主催の講演、深圳日本商工会主催の講演を行い、そのどれでもビジネスで関わっている深圳M5Stack社の、IoT製品開発者向けのボード製品が成功している理由を

天の時:大規模コンピューティングでも個人で扱えるなど、技術は常に大衆化しつづけている
地の利:コスト面の優位がなくなる中国は、より高度で独自性のある製品を求めている
人の和:オープンハードウェアにすることで築いたコミュニティ

の3つで説明した。このうち、天の時と地の利は、M5Stackに限らず多くの中国スタートアップに当てはまる。

中国スタートアップM5Stack成功の秘訣。深圳政府のイベントでも日本商工会でも発表したように、ある程度普遍的に当てはまる

次ページ:中国の限界点はどこにある?

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