LIFE STYLE | 2021/12/17

ドメスティックな中国と、さらにドメスティックな日本【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(19)

筆者が主催した深圳メイカー企業食事会の様子。オープンイノベーションのためには、まず自分たちの組織、ひいては自分自身がオー...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

中国の限界点はどこにある?

ルー・チー博士の語る戦略のように、理詰めと力技で突破できる分野での中国優位は今後も続くだろう。一方で、中国には今も「越えられない壁」があると筆者は考えている。イノベーションには、力技以外の要素も必要だからだ。

シンガポールを一代で世界先進国に引っ張り上げた初代首相のリー・クアンユーは、2013年に発表した最後の著書『リー・クアンユー、世界を語る』(グラハム・アリソンらによるインタビュー。日本ではサンマーク出版から和訳が出ている)で、中国の未来について、「世界史のほとんどで世界を代表する大国だった中国は、よほど政府がヘマをしなければ、元のポジションに回復するだろう。GDPでアメリカを抜くときもくるだろう』としながら、一方で「中国のGDPがアメリカを抜いても、イノベーションの中心地はアメリカのままだし、世界はますますイノベーション駆動になっていくので、世界の中心もアメリカのままだろう。アメリカには世界全体からNo.1が集まるが、中国は中国語を公用語に使い続けている限り、人材の幅が限られるし、年長者やベテランを尊敬しすぎる文化がブレイクスルーを阻害する」と限界点を語っている。リー・クアンユーは中国の改革開放を主導した鄧小平ほか多くの指導者と親友で、かなり長期に渡って英語の公用語化を求めていた。

スタートアップのCEOは多くが20〜30代と若い。インキュベートする立場のルー・チー博士でさえ60歳になったばかりで、これで最年長だ。国営企業の役員や政治家などより若く、それまでの中国社会では埋もれていた可能性を引き出したことで中国の急成長が生まれているのは、リー・クアンユーの主張を裏付ける。

中国のダイバーシティと日本のダイバーシティ

シリコンバレーの偉大さは、テスラ車の実物がない頃からテスラに投資していた、新型コロナ前からRNAワクチンのモデルナに投資していたなど、「多くが予想していなかった新しい分野を切り開いた」分野にも、長期で大量の投資を行う投資家がいたことによる。それはシリコンバレー以外の場所では見つけづらいものだ。

今の中国スタートアップ社会は、技術重視・学歴重視ではあるものの、欧米の大学出身者も多く、それまでの中国社会よりもダイバーシティに富み、さまざまな個性で成り立っているように思える。それでも「中国人の中だけで」集まっている以上、限界はありそうだ。

投資されるスタートアップを見ても、自動運転やAIなど、人気の分野に大量の投資が集まり、シリコンバレーのように意外性のある投資は見かけない。

一方で、この視点で見ると明らかにもっとマズいのは我が国日本だ。

上2枚が日本企業深圳商工会のイベントの模様、下2枚が深圳メイカー企業食事会に参加してくれたスタートアップ企業の社員たち

筆者は年に何度か、深圳のスタートアップCEOたちを集めてネットワーキングの食事会を開く。また、日本の人たちに呼ばれて講演することもある。中国のスタートアップは

・技術者出身のCEOや役員が多い
・若い
・女性が多い(半分とは言えないが、20〜30%はいる)

と、ルー・チー博士が訴えかけているのと同じような層だ。中国人ばかりだが、その中ではダイバーシティに富んでいて、それまでの社会ではまだ若手だった人たちが能力を発揮している。

日本のVIPたちはその逆だ。リー・クアンユーが指摘した点は、中国よりもさらに痛烈に、日本社会に突き刺さっている。

最近の筆者の講演は、最後このページで終わっている。我々はもっと技術主導すべきで、若手や女性の能力を活用すべきだし、さらにはグローバル化していくべきだ。

中国の欠点は、「日本ではもっと悪い」状態になっている


過去の連載はこちら

prev