PR

EVENT | 2018/08/10

「沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)」が日本のITを牽引!沖縄発・最新ITビジネスから見る、グローバル展開のヒントとは? 「ISCO Forum2018 Day2」イベントレポート

7月12日に発足記念フォーラム「ISCO Forum2018」が開催され、全国から熱い注目が注がれた沖縄。その中核にある...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

7月12日に発足記念フォーラム「ISCO Forum2018」が開催され、全国から熱い注目が注がれた沖縄。その中核にあるのは、地域産業×ITでイノベーションを起こし、新ビジネスやサービスを創出するためのグローバル拠点「沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)」だ。

翌日の7月13日に行われた「ISCO Forum2018 Day2」では、ISCOと連携するさまざまな企業が自社の取り組みを発表。

今後、日本のITを牽引し、アジアのグローバル拠点を目指す沖縄では、グローバル展開のためにどんなビジネス戦略が発信されるのだろうか。沖縄・最新のITビジネスを探るべく、FINDERS編集部が現地取材のもと、レポートする。

取材・文:庄司真美 写真:米田智彦

沖縄最先端のITソリューションが集結

会場となった沖縄県立博物館・美術館、那覇市IT創造館では、それぞれ各企業による活動報告やワークショップをはじめ、最先端のITソリューションの数々が展示された。

なかでも沖縄らしさを感じられたのは、ソフトバンクが手がける海洋ドローン。飛距離もデータ送信能力も日進月歩で進化するドローンを利用して、沖縄の漁業や観光業に応用する試みだ。ゴーグルと連動させた水中ドローンを利用して、リアリティのあるダイビング体験も可能だという。

NTTドコモやKDDIでは、2020年に向けて規格の標準化が進められている次世代の通信技術「5G」の試験運用を進める動きも見られた。今後、IoTの普及によりますますデータ通信量が増えていく中で、5Gの整備は必須だが、年間約958万人(平成29年度実績957万9,900人)も国内外から観光客が訪れる沖縄でも、整備が急がれる。

会場の外には、高速・大容量伝送を可能としたNTT docomoの5Gによる映像を体感できるデモバスが出現。5Gならではの高精細の画質が来場者を驚かせた。

東京・隅田川を左右で比較。右はLTEで、画像が荒い。左は5Gで、川の水面などの細かい部分まで再現している。

遠隔・電力監視システムを駆使した低コストな「スマート農業」の取り組み

一方、ITと農業を組み合わせることで、レタスの収穫量のアップに成功したのは、沖縄セルラーアグリ&マルシェの取り組みだ。

沖縄ではそもそも夏野菜の大半を県外産に頼り、特に夏場になると葉野菜の収穫が激減してしまう背景があることから始めたと説明するのは、沖縄セルラーアグリ&マルシェ代表取締役社長の國吉博樹氏。

「沖縄では夏場の葉野菜不足という課題があって、昨年、沖縄・南大東島でレタスが1玉1,350円になったことがニュースでも話題になりましたが、そうした課題の象徴と言えます。とくに昨年は、観測史上2番目に台風の上陸が多かった年だったこともあって、県外からの運搬費などで原価が膨らんでしまったことが背景にあります。そうした課題を解消するために、2013年に25坪の植物工場でレタス作りの運用を開始しました。遠隔監視や電力監視のシステムにより、スマホなどで温度や湿度、PH値などを記録・管理するシステムです。おかげさまでその運用と自社ECサイトでのブランディングに努めた結果、消費者からもレタスの味に好評をいただいております。この技術を取り入れた、葉野菜をご家庭で作れるキットの販売にもつながりました」(國吉氏)

同社では、この技術をイチゴやマンゴーなどにも応用。さらに、同社が開発した植物工場の遠隔監視システムは、低コストで導入可能だという。今後は、南大東島での導入が実現したことを皮切りに、農家や企業への参入を促していくと報告。沖縄のみならず、県外の農家の後継者不足にも一躍買うシステムとなりそうだ。

沖縄のIT企業×糸満市×琉球大学の連携で、海ぶどうの養殖技術を確立

それから、ITと漁業を組み合わせた沖縄ならではの画期的な取り組みを紹介したい。沖縄で創業52年の老舗ITシステムインテグレーション企業「OCC」が手がけた、「養殖業×IT:海ぶどうIoTプロジェクト」だ。目的は、沖縄名物として有名な海ぶどうの養殖業をITで発展させて、6次産業化することである。

OCCのITイノベーション推進室 屋比久友秀氏は、同プロジェクトが始まった経緯について、次のように説明する。

「沖縄の名物である海ぶどうは、夏場になると海水の温度が上がって生産量が減ります。海ぶどうの生産量を増やしたい生産者の願い、海ぶどうの養殖業を発展させたい糸満市の課題を解決するために、弊社は海ぶどうの養殖AIを開発しました。海ぶどうを水槽内で生育させて、天気予報をしながら、海水温や室外温度、湿度などに合わせて注水制御する仕組みです」(屋比久氏)

結果、海ぶどうの生産量は従来の1.5〜2倍に増えて、売上増にもつながり、2〜3年で投資コストは回収できる見込みだという。また、生産量が増えたことで、観光用の海ぶどうの摘みとり体験が好評となっている。今後は食用以外にも、化粧品の商品化や原材料の海外輸出を計る見込みだ。

さらに、こうしたノウハウは、ほかの海藻や魚介類の養殖にも生かせるとあって、県内外への展開も視野に入れていると、屋比久氏は説明。工場などのCO2を抽出し、海藻の育成に利用したエコシステムの確立も目指していくという。

「ISCO Forum2018」を情報通信事業のプロはこう見ている。

最後に、2日間にわたって開催されたISCO主催のフォーラムをふりかえり、1日目の「ISCO Forum2018」でファシリエイターを務めた、情報通信事業コンサルティングのプロフェッショナルであるクロサカタツヤ氏に、沖縄のこれからの動向について見解を伺った。

クロサカタツヤ

株式会社 企 代表取締役

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院修士課程修了。三菱総合研究所で情報通信事業のコンサルティング、次世代技術の推進、国内外の政策調査などに従事後、2008年に独立。多くの企業や官公庁の戦略立案、事業設計のコンサルティングに携わる。2014年に株式会社TNCを設立し、スマートフォン向けライフスタイルアプリケーションの開発とコンサルティングを手がける。

―― 2日間にわたるISCOフォーラムをふり返って、どのような感想をお持ちですか?

クロサカ:1日目のパネルディスカッションでは、僭越ながら、思っていた以上に「皆さん、やる気だな」という印象を強く受けました。多くの自治体の事業としてよくあるのは、ハコは作ったけれど、そのあと持続性に課題が生じるケース。沖縄の場合、今後、使命感を持って事業を創出し、有効にまわしていこうとする意気込みを感じました。だからこそ、現状は始まったばかりでも、これからさまざまな事例ができていく見込みであることを正直に説明していたのだと思います。これは実はとても勇気がいることで、新しく入って来る人たちとこれからさまざまな事業を拡げていくスタンスを明確にされていたので、とても前向きな気持ちになりました。

さらに、沖縄に対するこだわりはそれぞれありながらも、日本という視点を超えて、はじめからグローバルコラボレーションを思考しているのが特徴的でした。こうしたことも、実は「言うは易し」で、実際にできている自治体は少ないので、グローバル展開の見本となることが、今後の沖縄に大きく期待されます。

―― 日本のどの自治体でも、ISCOが目指すように、ITと地場産業をかけあわせてビジネスを発展させる動きは多く見られますが、ほかの地域と違う沖縄の展開の仕方についてはどのように捉えていますか?

クロサカ:IT自体は基盤であり、要素技術にすぎません。問題はその上で、どんなビジネスを誰がどのように動かすのか?ということが極めて重要です。そういう意味で、やはり沖縄は、あらかじめ魅力的なアプリケーションやコンテンツがあるという点でも、ものすごく優位だと思います。地域によっては、「結局、最新技術はあっても地元の何に活用するの?」となってしまうケースは多々あるからです。

その点、あらためて沖縄はコンテンツの宝庫だなと感じました。たとえば、NTT docomoが展開する5Gのデモバスでは、眺めているだけで気持ちよくなるような沖縄の青い海の映像が見られます。たとえば、「美ら海水族館」で5Gを活かしたら、きっと話題を呼ぶコンテンツになるでしょう。そうした誰しもが知るキラーコンテンツが沖縄にはあって、それが強みであり、ITが活きてくるのだと思います。

―― パネルディスカッションでは、沖縄は、温暖でおいしい食べ物や飲み物に恵まれ、リベラルな雰囲気である点など、ITイノベーションが起きるシリコンバレーやバルセロナと同じ特徴があるというお話をされていましたね。現在、これまで以上に観光業が好調な沖縄の進むべき方向性について、どのように考えていますか?

クロサカ:食べ物や飲み物は、人生を豊かにするひとつのシーズ(種)です。そういうものは、どこかから降ってくるものではなく、その土地から生まれ、文化が醸成される中で育つものです。沖縄はお酒なら泡盛をはじめ、沖縄料理の多様さもみなさんご存じの通りで、こんなポテンシャルはほかの土地ではなかなかありません。

沖縄県副知事もフォーラムで沖縄観光の満足度の高さについて仰っていましたが、いい場所に自然と人が集まってきて、そこで発生する需要以上のものをちゃんと満たしてくれるようなテクノロジーを高めていくことが、ある意味、沖縄の義務なのかもしれませんね。

―― そのほか、今後沖縄で想定されるIT活用の事例をどのように予測していますか?

クロサカ:あくまで私の見解ですが、やはりヘルスケアは重要だと考えます。沖縄は長寿社会で知られていますが、地元医師会の話によれば、ご長寿県ナンバー1の座を他県に奪われたことに非常に危機感を抱いていると言います。そのための取り組みのひとつが、検診の重要性を推進する動きなどに表れています。さらに、一大観光地である沖縄には、県内外はもちろん、世界中の人々の医療データが集まります。

そうしたビッグデータは、県外はもちろん、世界中の企業が喉から手が出るほど欲しがるデータになり得るのです。もちろん、今後目的をはっきりさせた上でデータを取得していく必要がありますが、医療の発展だけでなく、ビジネスの観点からも、重要な産業になると予想しています。

―― “BodySharing”の世界的研究者である玉城さんのようなイノベーターがいたのに、これまで沖縄ではビジネスの下支えとなるISCOのような機関がなかったわけですが、こうした例はほかの自治体でもあることだと思います。今後、ITの人材育成の面では、どのようなサポートが求められると考えますか?

クロサカ:沖縄に限らず、現在、データサイエンティストやAI人材は不足しています。一方、ITそのものはあくまでインフラです。最新のテクノロジーやそれを担う人材は世界中で争奪選になっていますが、大事なのは、そうしたテクノロジーと、実際のフィールドと結びつけていく、本当の意味での「アプリケーション」を作り出す人材です。テクノロジーだけでなく、人や環境サイドのことをよく知る人たちとうまく合わせていく能力が問われるのです。特に沖縄はアプリケーションの宝庫なので、それをうまくITで生かすために組み合わせていける人材を育成することが、今後求められるでしょう。

―― 今後、ISCOはベンチャーをはじめ、さまざまなビジネス支援をしていくことになりますが、県外からの大手企業の参入についてはどのように予想していますか?

クロサカ:日本とアジアを結ぶ架け橋として発足したリゾートとITの戦略拠点となっている「沖縄IT津梁パーク」のように、沖縄では、これまでも県外の企業とのつながりは多々ありました。そうした経験も活かしながら、ともすると分離しがちな、沖縄と県外の双方をうまく混ぜて新しい価値を生み出せる、言わば「おいしいドレッシング」のような人材が必要です。東京本社と沖縄オフィスを行き来するちゅらデータの真嘉比さんがいい例ではないでしょうか。フットワーク軽く柔軟に動ける人材が、沖縄のスタートアップにも大勢いらっしゃると思いますので、そうした人材が活躍してうまく協業できることを期待しています。

ISCOの組織自体も、ほかの自治体ではよくある縦割りではなく、プロフェッショナル集団で構成されています。だからこそ、これから喧々諤々と議論がなされていくと思いますし、それだけでなく、自治体などの受け入れる側の器量もこれから問われることになるのではないでしょうか。

2日間にわたって開催された「ISCO Forum2018」。クロサカ氏が語るように、ISCOはもちろん、提携企業からも、地域産業とITを組み合わせることでイノベーションを起こそうという本気のやる気が感じられた。

近い将来、グローバル展開のモデルケースとなる沖縄発のイノベーションが続々生まれるかどうか、今後も注目したい。


ISCO