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中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
1997年に博報堂に入社し、CC局(コーポレートコミュニケーション局=現PR戦略局)に配属され企業のPR業務を担当。2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TV Bros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てウェブ編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)など。
政治家も一般人も多数かかる「謝ったら死ぬ病」
「謝ったら死ぬ病」はネットスラングの一つだが、評論家の東浩紀氏がBLOGOSのインタビューに答えた「日本には「訂正する力」が必要だ 哲学者・東浩紀が語る 言論のゆくえ」(10月25日掲載)はこの言葉に関する言及がある。
同氏は「謝れない病」(ほぼ同じ意味)について言及し、「日本人は一度言ったことを訂正できないし、謝れない。これが問題だと思っています」と述べたうえで、インタビュアーの「訂正すると訂正したことが攻撃されるというのもあるのかもしれません」という指摘に対してこう答えた。
「謝ったら死ぬ病」はもともと、不祥事を認めようとしない政治家や企業トップなど有名人への揶揄として使われてきたが、SNS普及後は一般人でも多くの人がかかっていることが判明した。意味としては、「謝ったら死んでしまうとでも思っているのか、完全に謝るべき状況であっても頑なに屁理屈を重ね、謝ることを拒否する」といったところだ。最近では、衆院選の期間中、立憲民主党の江田憲司代表代行がテレビ番組に出演した際、金融所得関連の税率を30%にすべきだと発言し、その対象はNISA(少額投資非課税制度)にも及ぶ、として炎上した後の言動がそうだと言えるだろう。
本来NISAは低中所得者の虎の子の資産を金額の上限を設定したうえで投資し、その範囲内であれば非課税となる、庶民に恩恵のある制度である。江田氏はもしかしてこの原理を知らなかったのか? 批判が発生した後、フェイスブックで釈明。あくまでも株取引の多い年収1億円超の富裕層への譲渡所得税が国際標準の30%以下の「20%」であることを念頭に置いたと指摘した上で、こう説明した。
https://www.facebook.com/edakenji/posts/4465349050212514
江田氏は「金持ちからはもっと取るべきで、庶民からたくさん取ろうとは思っていない」と釈明したわけだ。そして、ここで述べた「聞き間違え」は、立憲民主党が「若者世代にとって深刻な老後の不安の解消のための選択肢として、NISA、つみたてNISA等を拡充します。」と「政策集」に明記していることを聞き間違えたということだ。そして「心配と迷惑をかけたこと」を謝罪した。論点はそこではない。「低・中所得者の地道な投資にさえ30%の課税をする」という暴言に対して謝罪をすべきなのである。
江田氏の釈明を受け、枝野幸男代表はこうツイートした。
https://twitter.com/edanoyukio0531/status/1453900019837272068
この「誤解を招いた」ことをお詫びしたわけだが、江田氏は明確に「30%」とは言っているので視聴者や、その後関連ニュースに触れた人々は別に誤解をしたわけではない。枝野氏は「我が党の代表代行・江田憲司が党の方針を誤解し、テレビ番組で真逆の発言をしたことをお詫びします」と言うべきだったのだが、江田氏を守るためか「誤解を招いています」という発言をした。あと「一部幹部」ではなく江田氏は「代表代行」というNo.2であり、名前も具体的に出すべきである。
2人揃って「謝ったら死ぬ病」だったのだ。なぜ2人揃ってこうなってしまったのか、というのが、「謝ったら死ぬ病」の深刻さなのだ。これについて本稿では論じていくが、この件で私も実体験をしている。
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