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「日本一働きがいのある大企業」を作り上げた20年の試行錯誤。シスコシステムズに訊く、社員が会社を好きになる方法
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  • 2021.09.08
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「日本一働きがいのある大企業」を作り上げた20年の試行錯誤。シスコシステムズに訊く、社員が会社を好きになる方法

Web会議ソリューション「Webex Meetings」など、IT・ネットワーク分野のグローバル企業として知られるシスコシステムズは、働きがいに関する調査・分析を行う国際機関「Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)」が毎年行っている、「日本国内「働きがいのある会社」大規模部門(従業員1,000名以上)」において1位を獲得した。

同調査は企業文化や風土づくりに関する会社への調査と従業員向けのアンケートで構成され、スコアシート、ベンチマークレポート、アンケートなどの結果を外部有識者からなる委員会が精読し点数をつけ、ランキング企業を選出しているという。つまり制度やベンチマーク結果のみならず、従業員に一定以上のエンゲージメントが育っていなければランキング入りは難しい。

しかしながら、「何をもって“働きがいがある”と感じる」かは、一人ひとり捉え方が異なるし、制度を整えたからといって理念に沿った運用が完遂できなければ企画倒れとなってしまう。コロナ禍の中、ただでさえ従業員間のコミュニケーションが難しくなっている状況で、いかにして満足度を高めることができるのか。シスコシステムズ合同会社執行役員 人事本部長の宮川愛氏に話をうかがった。

聞き手・文・構成:神保勇揮 写真:加藤渉

宮川愛

シスコシステムズ合同会社
執行役員 人事本部長

東京都出身。2003年に外資系IT企業に人事として入社後、日本国内人事のみならず、アジア太平洋地域の人事(主に人事企画業務・報酬制度・M&A等)に従事。2014年3月にシスコシステムズ合同会社入社後、部門担当人事(HR Business Partner)として営業組織の組織強化に携わる。2016年8月より現職。

20年前から「働き方改革」に着手し試行錯誤を積み重ねる

シスコシステムズ合同会社執行役員 人事本部長の宮川愛氏

―― コロナ禍によって御社の働く環境に変化はありましたか?

宮川:それは確かにあります。ただ当社は2001年から働き方改革を進めており、2011年に東日本大震災が起こった際にも「2週間出社禁止令」を出すなど、「在宅でも十分仕事ができる」という共通認識はできていたと思います。とはいえ、その後在宅勤務制度を整えても多くの人は利用するのが週1日など、あくまでオフィスに出社して働く方がメインでしたので、昨年から完全テレワーク実施に移行したのは大きな変化でした。

―― 在宅勤務の導入初期にはどのような使い方をされていたのでしょうか?

宮川:当社ではこれまで4つの段階がありました。

第1段階(2001年)としては、まず営業社員のアポイント間のスキマ時間をいかに効率的に運用できるかという観点からの促進、そして第2段階(2007年)では、女性活躍推進や子育て世代の支援を積極的に進めてきた時期です。第2段階の時期は、当社が東京ミッドタウンに移転した時期でもあり、徹底してペーパーレス化を進めました。この時に「オフィスでも自宅でも同じように仕事ができる」という土壌が完成できたと思います。

第3段階(2011年)では、東日本大震災があり社員全員が在宅勤務を経験し、その後は会社としても「ダイバーシティ&インクルージョン」をどう実現するかという観点から推進してきました。そしてコロナ禍に突入した第4段階となる現在では、いよいよ「イノベーションの起爆剤になる働き方改革とは何か」を考える時期、というのが大まかな流れです。

―― 「イノベーションの起爆剤になる働き方改革」とは、どのようなものだと考えていらっしゃいますか?

宮川:UberやAirbnbに代表されるような、テクノロジーを使って今までの市場パラダイムをいち早く変えた企業が成功している中では、組織としていかに意思決定のスピードアップを図れるか、現場で各部署が縦割りになることなく、いかに自由に協業できる環境を作れるか、そしてボトムアップで多種多様なアイデアを生み出してもらうためのダイバーシティ環境が重要となってきます。こうした動きを自然とできる組織・制度設計を進めていくということです。

最近の経営論の中でパーパス(志)経営、カスタマーエクスペリエンスといった、単なる利益追求にプラスアルファが必要だとますます言われるようになりましたが、市場や顧客に向き合うことと同じぐらいエンプロイーエクスペリエンス(従業員の経験する価値)も重要だと考えています。

―― 20年におよぶ働き方改革の歴史の中で、さまざまな課題があったかと思いますが、御社はどのように解決していったのでしょうか。

宮川:当社も含め皆さんが悩んでいることは、以下の3つに集約されるのではないかと考えています。

・今の業務は在宅で完遂できるのか
・自宅できちんと集中して働くことのできる環境があるか
・生産性の低下と労務管理の問題

この中で最も質問を受けるのが「生産性の低下と労務管理の問題」です。同僚や部下が目の前にいないから仕事をしているかどうか分からない、見えないと言われます。当社でも、そういうことがやはり2011年の前は確かにありました。

ただ、その問題は上司と部下の間で「何をいつまでにやらなければいけないか」が明確でないから起きるのであって、どういったクオリティでいつまでに何をすればいいのかを、きちんと取り決めていれば問題にならないはずです。

当社の場合はジョブ型制度によって「自分が何をすべきか」を明確に定めています。1on1を非常に重視し、上司・部下間で頻繁にコミュニケーションを取り、互いの認識のズレを可能な限り減らしていく。そうした一つ一つの取り組みによって、生産性の低下を解決していくことを目指しています。

また、ビデオ会議でも「全員がちゃんと話を聞いているかわからない」「各メンバーの映像をオンにすべきかオフでも良いか」という議論になることもあるかと思いますが、「そもそもその人が会議に出る必要があったのか」という根本的なことから問い直す必要があると思います。他の在宅勤務にまつわる諸問題も、コロナ禍前から存在したものが単に表面化しただけであることが相当数あると思っています。

「働きがい」なき会社はAI時代に淘汰されかねないという危機感

―― そこで次にお聞きしたいのですが、「働きやすい」環境は作ることができたとしても「働きがい」のある環境づくりには別の取り組みが必要になってくると思います。

宮川:「AIやロボットなど最新テクノロジーが人間の仕事を代替してしまう」という話がこの何年かでよく言われますが、それでも人間にしかできない仕事は何だろうかと考えた際、まず考えるのが膨大なデータと人の感性、点と点と線でつなぐような作業はあると思います。そして新たなアイデアを生み出す想像力、最後に一番重要なのが「チームとして何か成し遂げていく」ということで、個人商店ではなくて自分の強みを活かしながらチームとして何かを作っていくということです。

つまり自発性を持ち、人間らしさを発揮していくことが今後必要になってくるわけですが、これらは全部エンゲージメント=働きがいを感じてもらわなければできません。では働きがいとは何かというと、働きがいのある会社ランキングを作っているGPTWジャパンさんの定義に我々も同意するのですが、「働きやすさ(働き方の柔軟性、福利厚生、職場環境)」「やりがい(裁量、成長、大義)」の2軸があると思っています。

働き方改革をしようとなった際、多くの会社は働きやすさの方に寄りがちですが、やりがいも同じぐらい非常に重要です。

当社では3つの基本理念を掲げており、人事としても繰り返し繰り返し「全ての業務や行動がこの3つに基づいている」ということを語りかけています。

加えてこの基本理念を実現させるために何が必要なのかを

・企業文化
・仕組み・制度
・技術の活用

の3つに分けて明文化しています。

仕組み・制度やテクノロジーはもちろん重要ではありますが、それを使いこなす、良いものに改善する動きを促すためにも企業文化が一番重要だと思っています。

―― メディアとしてもキャッチーなのでつい仕組み・制度やテクノロジーの話を記事タイトルにしてしまいがちなのですが、それを使う人間、つまり良好な企業文化がなければ宝の持ち腐れになってしまいます。とはいえそれが最も難しいことでもあるわけですが、御社ではどのように定着化しているのでしょうか?

宮川:一つ例を挙げますと、我々は外資企業なのでこうした理念やスローガンは本社から降りてくるわけですが、当然ながらそれを周知するだけでは自分事化されません。そこで日本の全チームで「これらのスローガンは自分たちにとってどういう意味を持つのか」ということを徹底的にオンラインで議論しました。

例えば「Give Your Best」はそのまま訳せば「ベストを尽くそう」となりますが、最終的には「目標を達成するために、チームの中でたがいに補いあいながら、生き生きと仕事を楽しみ尽くす」としました。「Give Your Best」という文の中には入っていない要素も多く含まれていますが、私たちが仕事を楽しむということ、そのワクワク感があることが自分のベストを尽くすことにつながるよねということで決まりました。こうした案が200ほど集まり、かつ具体的にその理念を実現するための行動は何かということも定めて共有しています。

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