EVENT | 2018/07/19

お金を稼ぐよりも時間を稼ぐために働く会社【連載】「遊ぶように働く〜管理職のいない組織の作りかた」(6)

合宿でのディスカッションの様子

倉貫義人
株式会社ソニックガーデン代表取締役
大手SIerにてプログラマやマネ...

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合宿でのディスカッションの様子

倉貫義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役

大手SIerにてプログラマやマネージャとして経験を積んだのち、2011年に自ら立ち上げた社内ベンチャーのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。ソフトウェア受託開発で、月額定額&成果契約の顧問サービス提供する新しいビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。会社経営においても、全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営など様々な先進的な取り組みを実践。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』など。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。ブログ http://kuranuki.sonicgarden.jp/

生産性を高めた方が得する仕組み

前回は給与を一律にしてしまって、評価をなくしたという話をしました。評価がないので社内政治などの無駄もなく、誰もが安心してお客様と自分のために働くことができるようになっています。

しかし、そんな風にしてしまうと、社員たちが成長する意思がなくならないか、サボるやつが出てこないか、不公平にならないか、優秀な人は辞めないのか…さまざまな問題が出てきそうなものですが、今のところ、うまく機能しています。

普通に考えれば、優秀で高い生産性が出せる社員と、そうでもない普通の社員やパフォーマンスの悪い社員とがいた場合、うまく評価して給与で差をつけることになります。給与で差がつかないなら、生産性の高い社員ばかりが仕事して損することになってしまいます。

生産性の高い社員は、仕事が早く終わらせられるので、時間的な余裕ができます。その時間に、会社としては別の仕事をしてもらおうとするでしょう。それで会社の売上があがれば、本人の評価にも繋がって、より高い報酬をもらうことができるというわけです。

私たちソニックガーデンでは、その発想を根本から見直すことで評価をなくすことを実現しました。評価をなくして報酬を一定にするのだから、出すべき成果も一定で良いとしたのです。生産性を高めて作った時間の余裕には、新しい仕事を割り振ることをしません。

これは私たちがしている顧問の仕事が、お客様に時間を売るような労働集約型ではないことも関係しています。成果さえ出せば、時間的な束縛はありません。たとえば他の社員に比べて半分の時間で成果が出せる社員がいたら、その生産性の高い社員は残り半分の時間を自由にすることができるのです。

今の売上を最大化するか、未来の売上に投資するか

仕事として出している成果が同じだから、給与もほぼ同じで良い。それでも公平になるのは、高い生産性を発揮すれば自分が自由にできる時間が増えるからです。

仕事中における自由な時間というのは、自己研鑽や勉強をしたり新しい技術や企画を試したり、そういう意味で好きなことをしても良い時間です。必ずしも売上につながらないことをしても良い時間です。

これは会社で言えば投資にあたります。一般的に考えれば、投資というのはお金をかけることです。新技術や研究開発をする部署への投資、新規事業や新商品の開発への投資といったところです。

工場や資産を持たない私たちは、働く人の成長こそが会社の成長につながると信じています。そのために投資する対象は個々人のスキルアップになります。そして、職人であるエンジニアたちにとって腕を磨くのに必要なのは、お金ではなく時間です。

エンジニアにとって技術に対する知見や経験こそが飯のタネになります。いちど身に付けた技術で一生いけるなら安泰ですが、残念ながらIT技術は日進月歩で進むので、常に学び続けていなければ、数年後に食いっぱぐれることになります。その学習やキャッチアップに必要なのは時間なのです。

将来のために、今の時間をいかに確保するのか。この考え方はエンジニアに限らず、これからはあらゆるビジネスパーソンに必要な考え方です。長い人生いつまでも、今のスキルだけで生きていけると思っている人はいないでしょう。

私たちも、もし時間を投資にまわさずに稼ぐ仕事に費やしていたら、今よりも大きな会社になって、社員も高い報酬が得られるかもしれません。しかし、そんな状態を続けると、会社と社員それぞれの未来の可能性を潰してしまいかねません。

今の売上を最大化してしまうと、未来の売上を毀損することになりかねないのです。

お金を稼ぐよりも時間を稼ぐ

普通の会社であれば、売上を最大化して稼いだ分から社員たちにお金で報いるということになりますが、私たちは働く量を抑えて売上はそこそこでも社員には好きにできる時間を渡すようにしているのです。ある意味で、時間も報酬のようなものです。

生産性の高いベテランは、より多くの自由な時間が得られて腕を磨くことに使えて、さらに生産性が向上していく。こうして好循環が生まれますし、自然と生産性を高めたいという気になります。

もっと働くから、もっと稼ぎたい!という人がいたらどうするのか。今のところ、採用の時点で、私たちの考え方や条件を伝えているので、それを望まない人には他の会社にいくことをお勧めしています。

私たちの会社に中途採用で応募してくる方のほとんどが、家族をもっていて地元や好きな場所で暮らして、家族との時間や趣味の時間を大事にしながら、その上で好きな仕事にも没頭したいという人たちです。そうした人たちには適した働き方です。

私たちは「時間」を、とても大切に考えて経営しています。働いた価値すべてを貨幣に換算して考えるのではなく、今という時間をどうすれば最大限に有意義なものに出来るのか、考えています。小さな子供と過ごす時間も、元気なうちにしか出来ないスポーツも、今したいと思ったら出来るということに、大きな価値があるとは思いませんか。

また、私たちの会社では副業をしている人もいます。仕事としては、受託開発のような本業と同じ仕事ではなく、技術に関する本を出版したり、海外企業の技術顧問をしたり、そうした仕事での経験は、会社にとっても価値をもたらします。

全員が稼ぐ部門であり、投資する部門である

未来のために投資をするという話をしましたが、効率と専門性だけを考えたら、一般的な会社であれば研究開発や新規事業をする部門を作るはずです。会社全体で稼いだ利益で、その研究開発部門や新規事業室など新しいことをする部署を養うわけです。

会社の中で稼ぐ部署と新しいことをする部署に分けると、その部門間には大きな溝が生まれます。稼いでる部署の人たちからすると、一見新しいことをする部署は遊んでいるように見えるでしょう。

しかし、新しいことに取り組む部署にしてみれば、挑戦には失敗がつきもので試行錯誤を繰り返すしかありません。むしろ決まった仕事をして稼ぐ部署の方が楽に見えることもあります。といっても、やはり稼いでる方が偉いように見えてしまうので、新しいことをする部署の人は、とても肩身の狭い状態になります。

私たちも元々は社内ベンチャーから始まった会社なので、そういったことが社内で起きてしまうことをよく知っているのです。そこでの経験から、稼ぐことと新しいことをするのは、部署として分けるのでなく、社員の一人一人の時間の中で分けることを考えたのです。

そのため私たちの会社には、研究開発や新規事業だけをする部署はありません。生産性をあげて稼ぐ時間を短くすれば、新しいことに取り組む時間が得られるので、全員に公平にチャンスがあって、あとは個人の努力になるわけです。

また、生産性を上げて手に入れた時間は自己研鑽だけでなく、仲間と一緒に新しい製品作りにチャレンジする時間としても使えます。そうした仲間と一緒に活動する、稼ぐ仕事以外の時間のことを私たちは「部活」と呼んでいます。この部活から新しい事業が生まれることもあります。

新規事業を産む部活という制度についても、いずれこの連載の中でお伝えします。


ソニックガーデン

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