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コロナ対策補助金でなぜ「2700万円の巨大イカモニュメント」?巨大予算をいくら使っても地方創生が失敗し続ける理由と対策を解説【木下斉『まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか』】
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  • 2021.05.12
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コロナ対策補助金でなぜ「2700万円の巨大イカモニュメント」?巨大予算をいくら使っても地方創生が失敗し続ける理由と対策を解説【木下斉『まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか』】

神保慶政

映画監督

東京出身、福岡在住。二児の父。秘境専門旅行会社に勤めた後、昆虫少年の成長を描いた長編『僕はもうすぐ十一歳になる。』を監督。国内外で好評を博し、日本映画監督協会新人賞にノミネート。第一子の誕生を機に、福岡に拠点を移してアジア各国へネットワークを広げる。2021年にはベルリン国際映画祭主催の人材育成事業ベルリナーレ・タレンツに参加。企業と連携して子ども映画ワークショップを開催するなど、分野を横断して活動中。最新作はイラン・シンガポールとの合作、5カ国ロケの長編『On the Zero Line』(公開準備中)。
https://y-jimbo.com/

誰かが神アイデアをもたらしてくれるという「幻想」

「コロナ禍もあいまって東京の一極集中が終わった」という話題を耳にしたことがないだろうか。「うん、本当に最近そうなっているよね」と感じる方も、「いや、全然そうはなっていないと思うけど」と感じる方もいるだろう。

木下斉『まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか』(SB新書)は後者の認識で、東京一極集中の時代は依然として続いていると断言している。つまり「地方の時代が訪れた」というような論調は疑ってかかる必要があるということだが、実際2020年の統計データを見るとどうなのろうか。

・東京都全域では約3万人転入超過
・東京圏(東京・千葉・埼玉・神奈川)では約10万人の転入超過
・転出者の行き先は近隣県が最も多い

以上の事実をもとに著者は、「地方の時代が訪れた」というニュースは、「東京の郊外化がすこし進んだ」と解釈するのが妥当だと主張する。

著者は高校在学時からまちづくり事業に取り組み、2009年に地域の自立経営モデルの構築を支援する一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立後、都市経営スクール事業、公民連携事業、政府アドバイザーなど活躍の幅を広げ、上記のような「事実に基づいた分析」を積み重ねてきた人物だ(FINDERSではトークセッションやインタビューも行ってきた)。

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本書のタイトルには「幻想」という言葉が使われている。「戦争のない未来を幻想する」というように、より良い未来を夢見るような意味合いで使われることもあるが、本書で「幻想」が具体的に意味するところは「誤った認識、およびその共有と浸透」といったところだ。当然、このような「幻想」は、明るい未来や地域の再生・活性化ではなく、衰退・悪化を招く。そうして著者が何年も前から声高に批判し続ける「地方創生関連の補助金目当てのコンサルが、持続可能性を無視した見栄えだけは良い事業プランを提出し、案の定失敗、自分たちで計画を立案しない自治体職員には何のノウハウも残らず、東京の企業ばかりが潤い、ムダ金が垂れ流される」という“爆死”事例が今も積み重なり続けている。

「幻想」は、◯✕社会とでもいうべき、「どこかに答えがある」という発想が元凶となっているという。私たちの前に立ちはだかる課題というのは、マークシート方式では答えられず、実社会では完全な◯も✕もないことも多い。

地域プロジェクトにおいてよくある質問は、「何をやったらいいでしょうか」というものです。この質問は、どこかに「答え」が存在し、優れた人だけがそれを知っていて、だから間違わずに成功できるのだ、という「思考の土台」がある人の発想です。この質問そのものが間違いであり、失敗の始まりなのです。これこそが、幻想に囚われた人の思考の土台です。(P5)

たとえば、「スマートシティ」という単語があるが、これは国土交通省によると「都市が抱える諸問題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画・整備・管理・運営)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」という意味で、「困難で複雑な問題に対処する面倒さに、共に立ち向かっていける都市」と言い換えられるはずだ。しかし、一般的には「優秀な新システムを導入するだけで面倒なことを減らしてくれる都市」というように認識されてはいないだろうか。そうした誤認識のもと積み上げられていった「幻想」は、人々の想像力を夢喰いのように奪い去るバケモノに変身してしまうのだ。

「生き残り」のカギは幻想や思い込みから解き放たれること

本書では様々な「幻想」が暴かれていく。たとえば、「インバウンド消失で観光業は崩壊寸前である」という言説においては、コロナ禍直前、インバウンド絶頂期の令和元年(2019年)の統計をみると国内の総旅行消費額に占める外国人観光客の割合が17.3%だったことから、「本当にインバウンドがないと観光業は成立しないのだろうか」と著者は疑ってかかる。「インバウンドがなくなって閑散としている」のではなく「インバウンドに頼りっきりだった」という事実を、観光従事当事者たちは受け入れなければならないというのが著者の見解だ。

「安くしなければ売れない」というプライシングの偏見も大きな「幻想」のひとつで、そうした単純な価格競争ではなく、ある程度単価が高くてもその土地ごとのストーリーを体験できることが価値を生み出す時代であることに気づくべきだと著者は主張する。

地域おこしの文脈で語られる「関係人口」という言葉がある。これは単に文字通り人数を増やすという意味ではなく、そのつながりを持った人とのあいだに相互作用を生み出すという意味だが、この言葉が世間では正しく解釈されていないと著者は危惧している。

もちろん、ファンが増加することはとても大切です。ただそれは、単に「ファンです」という人が増加するのではなく、より具体的なアクションがセットである必要があります。(P161)

つまり、「関係する人々(ファン)を増やそう」というところまでは良いのだが、「ファンを増やして何らかの消費をしてもらう」という行動を最終目的にしないまま「関係人口」という言葉が日本中を駆け巡ってしまうことによって、「幻想」を熟成させてしまっているということだ。

FINDERSで過去行った著者へのインタビューでは「老舗旅館は、景気変動があることを前提とした経営をしている」という事例が紹介されているが、それはつまり「旅館は人を泊めるためだけの場所だ」という思い込みにとらわれず、柔軟に考えを熟成させていくことが、結果的に「生き残り」につながる歩みとなるということだ。本書に挙げられている例では、宮崎を拠点に台湾やシンガポールにまで事業展開している「九州パンケーキ」を有する一平グループが、シェアオフィス事業まで手掛けていることが紹介されている。

九州テーブルなどを擁する一平グループは飲食店部門もあれば、食品製造販売部門もあり、さらに九州各地にオフィススペースを作りネットワークする九州アイランドワークという会社も持っています。これらの多角化が今回のコロナ禍でも経営基盤の安定化に寄与しているわけです。(P58)

飲食店を経営する会社がシェアオフィスまで展開しているのは、一体どういうことなのか? その「わからなさ」が、人・モノ・コトを寄り集める求心力にもなりえる。はじめから結果を目指すのと、試行錯誤して結果に繋がるのとでは大きな違いがあるということだ。

次ページ:「自分が世界をどう見ているか」よりも「自分が世界をどう見たいか」

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