CULTURE | 2018/08/23

木下斉さんと語る「地方最強都市・福岡に学ぶ、逆境を跳ね返すビジネス戦略」 「FINDERS SESSION VOL.2」動画・レポート

「クリエイティブ×ビジネス」をテーマに新たなイノヴェーションを生むためのウェブメディア「FINDERS」が定...

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「クリエイティブ×ビジネス」をテーマに新たなイノヴェーションを生むためのウェブメディア「FINDERS」が定期的に開催するトークイベントの第2弾「FINDERS SESSION VOL.2」が、6月13日に東京・中目黒の株式会社シー・エヌ・エスのコミュニケーションラウンジにて行われた。

 福岡市出身で、FINDRERSの編集長である米田智彦が、今回のイベントに迎えたのは、今年2月に発売された新著『福岡市が地方最強の都市になった理由』(PHP研究所)を上梓した、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉氏である。

同書では、主に明治から昭和期にかけて、福岡市がさまざまな逆境を跳ね除けながら、都市として成長を重ねてきた要因が記されているが、今回はその【現代版】として、以下の3つのテーマを中心に議論が展開された。

(1)福岡市の戦略・戦術で優れていたものは何か

(2)それらと比べて、現行の地方創生プロジェクトで陥りがちな「ダメな要素」とはなにか

(3)木下さん・FINDERS編集長の米田が注目する、現在の福岡のスタートアップ/クリエイター/まちづくりプレーヤーや取り組みの紹介

文:立石愛香 写真:神保勇揮

木下斉

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事 

1982年東京生まれ。早稲田大学高等学院在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学。08年、熊本城東マネジメント株式会社、並びに09年一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。全国各地の事業型まちづくり会社に出資、経営参画、さらに都市経営プロフェッショナル・スクールを通じて150人以上の受講生が卒業し、50都市以上のPJサポートを行う。その他内閣府地域活性化伝道師や各種政府委員などを務める。主著に「福岡市が地方最強の都市になった理由」(PHP研究所)、「地方創生大全」(東洋経済新報社)、「稼ぐまちが地方を変える」(NHK新書)、「まちで闘う方法論」(学芸出版)、「まちづくりの経営力養成講座」(学陽書房)

トークイベント序盤に木下氏は、「都市の変化は、去年や数年でやったもので評価されるのでなくて、何十年前にやったことがじわじわと効いてくるものである。また、都市発展で突出した結果が出るということは、明確に他の都市と違ったことをしている」と力強く話した。

議題1「福岡市の戦力戦術で優れていたものは何か?」

 まず、都市の成長は経済の成長に比例する。福岡は民間企業の元気が良く、また、行政も民間に対してリスペクトがあった。役所の計画で動かすのではなく、民間がやることに対して役所が答えるかという関係性が良いという。

博多といえば明太子が名産だが、それは本家本元のふくやが、レシピを独占せず、他の店に作り方を伝授したから、明太子が博多の一大地域産業として根付いたそうだ。

そのエピソードから福岡市の戦略戦術は、福岡市ではなくて、福岡市民かもしれない。と米田は語った。

例えば、呉服屋なのに、いきなり道路に路面電車を走らせたり、九州大学の誘致合戦の会議で、県や市がお金を出せない状況にも関わらず、何千万も寄付したりする人がいた。このように、市民の一人一人が時代の先を見越して、できることを考えて行動していたからこそ、福岡市が他と違って優勢になっていると木下氏は話す。

また、一部の飛び抜けている人の活躍だけでなく、福岡がアジアに近く、基本的にずっと外の土地から人が入って来る環境であったこと、今住んでいる人の過半数が、10年未満の居住者であることから、オープンネスな雰囲気があり、それが現在の福岡市の成功の要因だと言える。

福岡市の玄関窓口である博多駅側は旧国鉄JR九州、繁華街の天神側は私鉄の西日本鉄道が交通の基盤になっている。昔、路面電車が儲からなくなり、ピンチの時に、私鉄の西日本鉄道が高速道路を活用した高速バス事業に切り替えた。九州の主要都市中心部から天神に直結する高速バスを開通したことによって、福岡都市圏だけで稼いでいた福岡が、九州全域を商圏とする中心商業都市へとさらに成長した。西鉄は自分たちのビジネスがどう変わるかということをきちんとデザインできていた。。それを木下氏は「80年代の天神における大きな商業開発・ソラリア開発は、単なるビルを大きくする他都市のような再開発ではなく九州全域をカバーする高速バス戦略とセットで行われた。自ら需要を生み出す戦略を持つ再開発という手法すごい」と興奮気味に話す。

このように、福岡市の、民間と行政が互いに尊重し合い、市民一人一人が人任せにせず、できることをやるという姿勢が、都市発展の成功の理由だと言える。

テーマ2「現行の地方創生が行っている、陥りがちなだめな要素とはなにか?」

 次に、地方活性化が上手くいかない理由について話は進んでいった。

「大事なのは、民間主導型であること。まだまだ役所が計画を立ててくれると間違って思っている民間が多い」と木下氏は言う。まず民間がリターンを求めて、事業として儲かること。それが地方創生につながっていく。つまり、テーマ1の裏側について語っている。

もちろん民間がすることに対して、規制緩和するなど、役所しかできないこともある。

移住者が欲しいなら、まずは近郊に住んでいる人から攻める

東京駅の近くにある移住者を誘致する施設について話題は広がった。「壁中に47都道府県のパンフレットがずらりと並んであるけど、それでは選べない。人口がどうだとか、水がどうだとかスペックで人は移住先を選ぶものではない」と米田は違和感を感じたようだ。

それに答えるかのように、木下氏は、「東京の人を地方へ促す。それは一番難易度が高いことをしていて、無謀」要は「関係人口」を増やすことが移住よりも先であると話した。さらに最近の移住の傾向は、都道府県を越えることが少なく、都市県内・都市圏内で移動が行われているので、まずは都市県内、近郊に住んでいる人をターゲットに、自分たちの都市に関わってもらえる機会を増やすべきらしい。

人口は最後の評価で成績表で、移住する人が知りたいのは、雇用があるか、お金を使う場所があるか、また教育学校が多いかなど、トータルで考える。水が美味しいなどのウリ文句は、一過性では人が来るかもしれないが、長期では難しい。

成功事例を真似しても意味がない

本の帯にちきりんさんによる「成功事例を真似したら成功しないことがわかった」という推薦文が書いてあるが、つまり福岡は成功事例で、福岡の真似をしても成功しないということだ。

「都市の成績は時間軸で出る。今成功しているのは50年前に手を打っていたからであって、今、同じことをやっても成功はしない。我々が学ぶべきは、全国の都市がやっていたのと違う打ち手をとり、社会変化の先を見越して、常識破りな打ち手に資源を集中させること」と木下氏は言う。民間と役所、双方の構図の中で今から50年後を見つつ、AIや自動運転などインフラ構造が変わっていく中で、きちんと考えていかねばならない。福岡の真似しても、結局30年が失われるだけだ。

テーマ3「注目の福岡スタートアップ企業、プレイヤーは?」

 米田は福岡のベンチャーの雄、ヌーラボの橋本代表、山登りアプリの「ヤマップ」、また、アメリカ・オースティンで開催されるクリエイティブの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)」の福岡版である「明星和楽」を挙げた。また、誰でも起業の相談が受けられる福岡のスタートアップカフェのおかげで福岡には起業がしやすい環境があると話す。

一方、木下氏は老舗なのに、スタートアップのイベントにも協賛しているふくやの再評価をするべきという。食品分野は決してイノベーティブでないように見られるが、むしろハイテク産業は常に競争が激しく、その座を新興国に奪われていく傾向が強い。フランスのように食料生産、輸出が強い地域を多く持つ国は未だに、その地位を脅かされない。ワインをみても、全世界でワインが生産されていもブルゴーニュ、ボルドー、シャンパーニュなどはそれぞれユニークなままだ。地場を作ってきたローテクだけど、幅広い人達が従事するユニークな企業が地元に還元していくことが今後の日本にとって重要だと述べる。 

次の50年後を笑って迎えるには、次に投資する技術がなにかを見極めないといけない。福岡には、AIやloTなど、結果が50年後に出るような新技術を使ったスタートアップが多くある。

その中でも、今後はITのコンセプトを立てる企業が伸びていくという。ヤマップのように、自然に近い環境にある地方都市のネット企業が、新しい環境と事業を組み合わせるなど、ネットサービスのスタートアップにヒントがありそうだ。

人口が一気に増えることによって起こる問題をどう乗り越えるか

今の福岡はまだ過密ではないが、今後は人口が一気に増え、車の渋滞や地下鉄の混雑、公共インフラ不足の問題が予想される。

その舵取りは難しいが、その反面近くの都市にチャンスがやってくるという。都市圏、九州全土でみたときに福岡市はどんな役割を担っていくのか。次の成長は、九州からもっと大きい枠でどんなポジションがとれるか。徐々にギアをチェンジしていかねばならない。

都市開発は長い時間軸で行う。我々の人生と同じ

最後に、木下氏は熱いメッセージを残した。「この本は、都市の話で、自分には遠い話に思えるかもしれないが、個人の人生にもヒントになることが多々ある。隣近所の成功を見ると、惑わされて同じことしそうになる。また、他と違うことをしていると批判も起きるし、孤独感を感じる。しかし、ある都市の発展を見ると、その背後には他とは違う、突き通してやりきった人の人生が必ずある。今は生き様が表に出ず、評価されない時代だけど、福岡の礎を作った人の生き方を見て、私自身学ぶ点が多かった。そういう自らがどう生きるか、という視点でも読んでいただけるとありがたい」

 その後、地方で活性化の活動をしている方や、福岡でメディアを運営している方からの質問に答える時間も設けられ、約1時間の充実したトークイベントは拍手の中、幕を閉じた。


次回のFINDERS SESSION VOL.3は8/29(水)に、AR三兄弟の川田十夢さんをお迎えします。詳細はFINDERSの告知記事をご覧下さい。