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「2020年で一番面白かったゲームは?」この質問が世界で大論争を呼んだ理由【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(2)|Jini
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  • 2020.12.28
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「2020年で一番面白かったゲームは?」この質問が世界で大論争を呼んだ理由【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(2)|Jini

『The Last of Us PartⅡ』と『Ghost of Tsushima』の一騎打ち

これまで説明したように、2020年のTGAは今までの年と比べても異例の盛り上がりを見せた。

『スマブラSP』の「セフィロス」参戦発表も手伝って、総視聴者数は8600万人にも上った。だがこの数字以上に、配信コメントやSNSで議論がヒートアップを見せていたのが印象深い。なぜか。ユーザーの間でもどの作品がGOTYを獲るのかが読めなかったのだ。

まず、2020年の大作ゲームは豊作だったことがその理由の1つ。

GOTYにノミネート(候補)されたゲームだけを見ていても、2600万本以上売り上げた『あつまれ どうぶつの森』は言わずもがな、名作を現代風に蘇らせファンを喜ばせた『DOOM Eternal』や『FINAL FANTASY VII REMAKE』、美しいアートとゲームデザインが融合した『Hades』も話題を集めた。中でも日本の美しい景観をデフォルメした時代劇風の『Ghost of Tsushima』、そして過去の因縁と過酷な暴力を克明に描いた『The Last of Us PartⅡ』は、どちらも圧倒的な評価を受けており、この6作品のうちどの作品もGOTYに選ばれる可能性が残っていた。

しかし、本当にただ「このゲームが面白い」「いやいや、このゲームの方が」と教室で友達同士が盛り上がるような、そんな和やかな議論であれば今年のGOTYはもっと平和に終わっただろう。

問題はここで挙げられた作品の多くが、大人たちの政治的な文脈によって論じられることで、政治、人種、国、性を跨いだ大きな論争を呼んだのである。

ノミネート作の中でも特に注目を浴びた『The Last of Us PartⅡ』と『Ghost of Tsushima』の2本は、いずれもゲームデザインそのものはよくあるアクションアドベンチャーに分類できる作品だが、そこで扱うテーマがどちらも挑戦的で、かつ対照的だった。

まず『The Last of Us PartⅡ』は2013年に発売され大絶賛を受けた『The Last of Us』の7年ぶりの続編ということもあり、元々期待の声も大きかった作品だ。前作では、人間がゾンビのように凶暴化する謎の感染症の蔓延によって社会が徐々に衰退へと向かっていく中、主人公である壮年の男性ジョエルが、ウイルスへの抗体を持つ少女エリーをなんとか守ろうとあがく物語が多くの共感を呼んだ。

ところが、『PartⅡ』には発売前から不穏な空気が漂っていた。主人公は前作で守られる側だった少女エリーに代わり、また発売前に公開されたトレーラーではエリーが見知らぬ女性とキスをする衝撃的シーンが公開され、ゲームの世界では未だ浸透しないセクシャルマイノリティに関する議論が堂々と示された。その上に、ゲームの内容それ自体も、前作をはるかに上回るほどに暴力的で救いのないものであり、劇中では「プレイヤーを襲う凶悪な敵」「頼りになる味方」の関係性が幾度となく反転していく。ビデオゲーム史に残る痛烈な物語としてセンセーショナルな反応を呼んだ。

先述したレビューサイト「metacritic」においても、ユーザー評価の平均点5.7点のうち、4点以下が約65000票、8点以上が77000票集まったのに対し、その中間は約8000票しか集まらなかったことを鑑みても、ここまで「賛否両論」が実際に数字として現れたゲームは、恐らくゲーム史の中でも稀なものだった。

一方で『Ghost of Tsushima』はどうだったか。こちらは元(モンゴル帝国)による侵略を受けた対馬を舞台に、境仁という武士が「冥人(くろうど)=Ghost」となってモンゴル兵にゲリラ戦を仕掛けるというもの。美しくもやや抽象化された「JAPAN」的オープンワールドを舞台に、時代劇のように刀を使った殺陣アクション、そして温泉に浸かり、和歌を詠む同じく抽象化されたJAPAN的なインタラクションを楽しめる作品だ。

『PartⅡ』に対して『Tsushima』は比較的エンターテインメント性の高い作品だ。壮絶な悲劇も少なく、サムライとして敵を斬っていく爽快感に加え、武士の掟を破り民を守るダークヒーローへと昇華されていく姿を描いた物語は、日本人にもアメリカ人にも共感しやすいものだった。そして求められるクオリティをしっかり守った安定の作品という評価が高く、ヒーローとしてのサムライ像と、日本の抽象的な美を、ややくどい程に強調することで特にコンサバティブなゲーマーの心をしっかり掴んでいる。(例えば、デジタル版特典でもわざわざ日本人の学者を呼んで「日本」「武士」という概念へのリスペクトを訴えるドキュメンタリー映像が収録されている)。

ビデオゲームの本質といえる“暴力”をどのように解釈し、それをどうゲームプレイに落とし込むか。従来のゲームファンを突き放して考えさせるか、それとも包み込んで楽しませるか。敵はどう倒すべきか、ヒーローはどう立ち上がるべきか。あるいは性や民族、それらを敵・味方にどう配置するか。この2作はさまざまな点において対比的だった。

ある意味、2020年最大の“コンテンツ(話題)”のひとつと言える米大統領選やブラック・ライブズ・マター(BLM)に対して、「トランプに投票する」「BLMに反対する」という立場はどのような理由であっても愚かであると切って捨てられるわけではない複雑さを見せているのと同様に、この2作への評価はゲームファンに対して「自分はどの価値観を支持するのか」を強烈に投げかける問いになった。

結局、TGAの最高賞であるGOTYには『The Last of Us PartⅡ』が選ばれたが(やはりこの結果にはYouTubeコメントやSNSが大荒れした)、GOTYの他にウェブ上でのファンの投票で決まる「Player's Voice」という部門があり(他部門はメディアや関係者による投票が中心)、こちらでは『Ghost of Tsushima』が選ばれている。しかもこの部門でさえ、『The Last of Us PartⅡ』が12%ほど『Ghost of Tsushima』を上回る瞬間があり、どちらも大接戦だったと言える。

2020年のTGAは、日々タイムラインに流れるニュースよりもよほど着実に、ゲーマーを分断した。どの表現が正しく、どの表現が美しいのか。そもそもゲームとはどうあるべきで、ゲーマーとはどう生きるべきか。そこまで論理的ではなく、むしろ誹謗中傷など感情が溢れ出したような言説が大半であったものの、ここまで自分たちにとって理想のゲームとはなにか考えさせられた年はなかった。

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