
- BUSINESS
- 2020.12.04
賛否両論ナイキCM「反対派は差別主義者」で片付けていいのか。思想が違う人を「ヒトラーだ!」と悪魔扱いするのはもう止めよう【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(9)
6:ただナイキに文句言うだけなのは情けない。私たちなりの答えで返してやろう
しかしなんというか、ナイキのCMってカッコいいですよね。それは認めざるを得ない。
大坂なおみさんが今年の全米オープン中、着用するマスクでBLM運動を支持するメッセージをアピールしていた件で、「スポーツに政治を持ち込むな」的な批判が巻き起こっていたことがありました。
そんな中でも堂々と優勝してみせた上での以下のツイートでは、「みんながスポーツに政治を持ち込むなって言い続けてくれたおかげで、逆にできるだけ長くテレビに映ってやろうと思わせてくれたので優勝できた」的なことを言っていて(笑)。
All the people that were telling me to “keep politics out of sports”, (which it wasn’t political at all), really inspired me to win. You better believe I’m gonna try to be on your tv for as long as possible.
— NaomiOsaka大坂なおみ (@naomiosaka) September 15, 2020
はっきり言ってちょっとかっこよすぎるやろ…という感じです。漫画の主人公かよ。
・世界を変える。自分を変えずに。Just Do It. (大坂なおみさんのCM)
・動かし続ける。自分を。未来を。YOU CAN'T STOP US (今回のCM)
うんうんかっこいいよ。それは認めよう。
もちろん、社会の今「抑圧されていると感じている人」が異議申し立てをする権利は完全に擁護されるべきだし、そういうメッセージを必要としている人たちもいることは認めよう。
だからこそ、ナイキ社と、こういうCMが好きな人は思う存分この自由主義社会の中でこういうメッセージを発すればいい。
しかしね…。
「そういうかっこよさの絶対視」が世界中の民主主義社会を果てしない両極分化に追い込み、民主主義社会の存続すら危うくしている時代には、もっと「何か別のもの」こそが最先端に必要とされている時代なのではないでしょうか?
少年漫画風に言えば、
俺たち日本人が考える「ほんとうの誠実さ」とは!自分の「逆側の考え方」を持っている党派のヤツらに、「ヒトラーだ!」「レイシストだ!」とかSNSで罵倒しまくれば、何か良いことをしたかのような気分に浸れるようなしょーもないヤツらの浅はかなエゴとは違うんだ!
今はそうやって「思う存分個人だけでかっこつけ」て、ついてこない人間を罵倒し続けるがいいぜ…
しかし、そうやって「逆側にいる人間を果てしなく罵倒」した先にトランプ主義者の大群のようなバックラッシュを受けて身動きが取れなくなった時!
俺たち日本人が「中庸の徳」という言葉の意味をお前たちに身を持って理解させてやるぜ…
てな感じで「挑戦を受け取って、最後に勝つ」道を模索したいものです。
具体的には、最近noteで書いて結構高評価を頂いている、「竹中平蔵を排除するためにデービッド・アトキンソンと組む」・・・「血も涙もないネオリベモンスター」を倒すためには「血の通ったネオリベ」を味方にする必要があるという話。という記事に、「ナイキ」型にイデオロギー対立を煽るのではなく、「具体的にリアルな改善」を積み重ねていくための具体策…は書きましたのでそちらをお読みください。
7:「妄想の右翼」さんでなく「ちゃんと時代にマッチしたナショナリズム」に乗り換えよう
最近話題の、O・A・ウェスタッドというノルウェー人歴史家の『冷戦 ワールドヒストリー』という本を今読んでいるんですが、100年以上にわたる「冷戦の歴史」を、主にイデオロギー対立の視点から網羅的に世界を見回しつつ記述している大著なんですね。
で、これは『ファクトフルネス』が話題になった時も思ったのですが、北欧人は「欧米の帝国主義争い」的な世界観から少し傍観的な立場にいるために、単純に誰かをワルモノにして叩いて終わり…というのではなく、「イデオロギーという熱病」が世界中の人間を駆り立てる中で、征服したりされたり…という不幸が起きた現象の全体像を冷静かつ中立的に描くことができているように思います。
こういう本が世界的にベストセラーになる「時代の空気」は、20世紀型の「誰かをヒトラーだと断罪して終わり」のような世界観から「その次」を模索しようとする、これも「第二波グローバリズム」に含まれる出来事だと思います。
要するに、20世紀的な「歴史認識問題」というのは、「そこにあったことの総体」をちゃんと理解した上で、「人間社会全体がそういう暴走をしないためにはどうしたらいいか」を深く考えるというより、安易に「ワルモノ」を見つけてそいつに「罪をおっかぶせる」議論しかしてなかったところがあるわけです。
「人類全体で巻き起こっていた不幸」がある時、特定の国だけが過剰に叩かれたりすると「お前らの国だって似たようなことをしたじゃないか!」と納得感は決して得られないですし、そりゃ「歴史修正主義」みたいなのも盛り上がるだろうし、そうしたら実際に不幸な目に遭った人への救済もスムーズには進まなくなりますよ。
「イデオロギーで誰かを断罪して糾弾することで何か意味があることができる」という勘違いは、世界史の不幸を全部「ナチス」とかそういう「自分とは関係ない敵」におっかぶせてしまえる20世紀的世界観を大きな源泉として形成されているわけですね。
だからこそ、「左右問わないイデオロギーの絶対化」があらゆる社会を両極分化して民主主義そのものの存続すら危うくし、米中対立がここから何十年の人類史を規程するような現象が起きつつある時には、むしろ「靖国神社」にちゃんとこだわり続けてきた日本人の「思い」を、発展的に解消して「新しい調和の軸」に仕立て上げることもできる時代になるでしょう。
欧米文明中心主義に対する対抗軸として必死に何かを打ち立てようと頑張ってきた戦前の日本のあり方のコア部分さえ名誉回復できるなら、国内外で起こした不名誉な事件についても、ちゃんと受け入れ扱えるようになる。
要するに「全人類共通の罪」がある時に、「誰かを自分にひざまづかせたい」という歪んだ欲望に利用しようとするから紛糾するわけで、そういう世界の中で「ワルモノ役」を過剰に与えられた存在の反発が高まるのは当然です。
そういった、「20世紀型の断罪」ではない新しい歴史認識も、「日本」から今後出てきて、両極分化する世界の新しい調和の軸として提示していけるでしょう。
最近、いまだに「トランプは来年も大統領」だと本気で思っている人たちが「日本のナショナリズム」の結構な部分を占めてしまっているというわけがわからない状況になっているわけですが。
そんな「妄想の右」は脱却して、むしろ欧米文明の最前線に新しい価値観を提示できる「自分たちのプライドの源泉」に乗り換えていきたいものですよね。
8:今後の日本という国の影響力を最大化する「キャステイングボート」戦略とは?
Photo By Shutterstock
日本という国は、単独のパワーで世界をリードするほどの影響力を持つほどのサイズは持っていません。
しかし、いまだ世界第3位の経済大国日本は、「拮抗する極論同士の罵り合い」が世界中で問題になる時に、今の日本の国会における公明党のような存在として、「場に決定的な影響力を持つ一票」を投じるぐらいのことならできます。
こういう現象を「キャステイングボートを握る」と言いますが、
「イデオロギーの死」の時代にリアルな議論を社会で共有する技術
を日本が作り上げられれば、それは今の日本の国会における「公明党」的なポジションを作り出すことで、
「果てしなく両極に分断されていく人類社会の中で決定的なキャスティング・ボートを握るパワー」
となって、国際社会の中で実際の人口・経済規模を大きく超える力を日本に与えてくれるでしょう。
「そのポジション」さえ確保すれば、そういう国が経済的に繁栄しないことなどありえないとすら言えます。
それは東洋と西洋の間にたってこの150年ほどを強烈な矛盾を抱え込みつつなんとか生き抜いてきた私たち日本人にとって、本当の意味で「私たちならではのオリジナリティ」に基づいたものであり、そして分断に苦しむ人類社会に大きな貢献となりえるものにもなるでしょう。私の著書などで最近毎回引用している小林秀雄の言葉
美しい花がある、花の美しさというようなものはない
が我々のスローガンです。あらゆる「イデオロギー」に本来懐疑的な私たちの「禅」的感性こそが、欧米文明の独善性を掣肘し、東洋と西洋の文明の間に新しい調和の基準点を生み出していく時代となります。
私たちならできますよ!(Yes, we can!)
その具体的な「策」は、さきほどリンクした以下の記事をお読みいただければと思います。
「竹中平蔵を排除するためにデービッド・アトキンソンと組む」・・・「血も涙もないネオリベモンスター」を倒すためには「血の通ったネオリベ」を味方にする必要があるという話。
もう一個、先月書いた「鬼滅の刃」のブームについての記事、「欧米由来の”最低最悪のアンシャンレジーム”と”完璧な正義の俺たち”という世界観自体を超えて、各人の新しい”責任”のあり方を見出していく志向」を象徴するものとして「鬼滅の刃」の大ヒットはあるのだ・・・という話がかなりnoteで好評をいただいているので、そちらもよかったらどうぞ。
感想やご意見などは、私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターにどうぞ。連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。
また、この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。