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「美人すぎる」から選ばれたわけじゃない。副大統領候補に指名されたカマラ・ハリスのカリスマ性【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(18)
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  • 2020.09.01
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「美人すぎる」から選ばれたわけじゃない。副大統領候補に指名されたカマラ・ハリスのカリスマ性【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(18)

ニューハンプシャーでスピーチするカマラ・ハリス(以下、本稿の写真はすべて筆者撮影)

過去の連載はこちら

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者

兵庫県生まれ。多くの職を体験し、東京で外資系医療用装具会社勤務後、香港を経て1995年よりアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に新潮社刊)を発表。『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)など著書多数。翻訳書には糸井重里氏監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経ビジネス人文庫)、レベッカ・ソルニット著『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)など。最新刊は『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)。
連載:Cakes(ケイクス)ニューズウィーク日本版
洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者。

「移民2世・有色人種・女性」が副大統領候補に選ばれた理由

夫と私とハリスとで記念撮影。撮影したのはハリスの妹のマヤ・ハリス

民主党の全国大会を目前に控えた8月11日、民主党の大統領候補ジョー・バイデンがカマラ・ハリスを副大統領候補に指名した。だが、日本ではまだ知名度が低いようだ。根拠がない噂や容姿で判断する女性差別的な内容の報道が多く、歯がゆさを感じている。

ハリスの両親は大学院生として渡米した移民である。ジャマイカ出身の父親はスタンフォード大学の経済学教授、インド出身の母親(故人)は乳がん専門の研究者になった。両親はハリスが若い頃に離婚し、シングルマザーに育てられたハリスと妹はどちらも弁護士の資格を取った。有名な弁護士事務所に勤務する方が収入ははるかに高いのだが、社会活動家であった母の影響を受けたハリスは検察をキャリアに選んだ。40歳で地方検事になったハリスは、47歳のときに選挙で共和党の対立候補を僅差で破り、女性としても、黒人としても、インド系としても初めてのカリフォルニア州司法長官に就任した。そして、トランプ大統領が誕生した2016年11月の選挙で同じく民主党の対立候補を破ってカリフォルニア州選出の上院議員になった。

新米上院議員であるハリスにアメリカ国民が注目するようになったのは、大統領選挙での「ロシア疑惑」に関する2017年の上院司法委員会でのことだった。トランプを早くから支持した報奨として司法長官に任命されたジェフ・セッションズに対する鋭く切り込むハリスの勇姿が多くの視聴者を魅了した。翌年にはトランプから連邦最高判事に指名されたブレット・カバノーが過去に性暴力をふるった疑惑が浮上し、被害者の女性の一人が公聴会で勇敢に証言した。怒りや涙を交えて感情的に自己弁護するカバノーに対して静かに厳しく追及するハリスはさらに多くのファンを集めた。

ハリスはその半年後、2019年1月の「キング牧師記念日」に大統領予備選への出馬を発表した。その直前に刊行したのが『The Truth We Hold』という回想録だ。生い立ちや経歴、取り扱ってきた社会経済的な問題について説明したこの回想録は全米トップのベストセラーになり、まだ彼女の名前に馴染みがない国民に自己紹介する役割を果たした。

これまでのアメリカであれば、移民2世・有色人種・女性という3重のマイノリティであるハリスが大統領や副大統領候補として本命視されることはなかっただろう。だが、トランプ政権下のアメリカは激変した。そのおかげで、かつてのマイナス要素はプラスに変わった。

大統領みずから女性、移民、人種マイノリティに対する差別的な言動を繰り返し、白人至上主義者を擁護する。アメリカの最大のライバルであるロシアが2016年の大統領選挙に介入しただけでなく、トランプ本人と選挙陣営はそれを歡迎した。かつてあれほどロシアを敵視してきた共和党は、それが明らかになった後でもトランプを支持している。下院で弾劾決議が可決されてもニクソンのように辞任はせず、新型コロナウイルスの対応に失敗して世界で最も多い感染・死亡者を出しても「私はまったく責任は取らない」と発言し、憲法で保証された権利として平和に抗議デモをしている市民を武装した連邦職員に鎮圧させている大統領が、あらゆる手段を講じて再選を目論んでいる。この異様な事態のおかげで、これまでのアメリカの政治の常識はすべて吹っ飛んでしまった。

そんなトランプ大統領に勝つためには、この状況に不満と恐怖を覚えている人たちにアピールするような候補が必要だ。バイデンは共和党員からも好かれている人格者だが、「高齢の白人男性」という点ではトランプと変わらずリベラルの有権者たちを興奮させるような候補ではない。そういったこともあって、バイデンは「有色人種の女性」を副大統領候補に指名することを早期から匂わせてきた。

バイデンが考慮した最終候補は、ハリス、オバマ政権で国連大使を務めたスーザン・ライス、上院議員のエリザベス・ウォーレン、ミシガン州知事のグレッチェン・ホイットマーの4人に絞られていたという。この中で、バイデンが重視した「女性である」、「若い世代と人種の多様性を代表している」、「選挙に立候補して勝利した経験がある」、という条件をすべて満たしているのがハリスだった。「美人だからバイデン夫人が躊躇していた」という日本語の記事を見かけたが、そんな話は耳にしたことはない。

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