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任天堂の「さりげない多様性」の功罪。『あつまれ どうぶつの森』は誰を尊重していたのか
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  • 2020.08.18
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任天堂の「さりげない多様性」の功罪。『あつまれ どうぶつの森』は誰を尊重していたのか

『あつまれ どうぶつの森』より

Jini

ゲームジャーナリスト

はてなブログ「ゲーマー日日新聞」やnote「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、今年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。

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“文化”としての立場を確立したゲーム

はじめまして。ゲームジャーナリストのJiniと申します。はてなブログ「ゲーマー日日新聞」やnote「ゲームゼミ」などでビデオゲームをカルチャー的な俯瞰で深掘りした批評を展開しております。

今回、FINDERSというゲームを専門としないメディアで書かせていただくことになったのは、昨今ゲームという表現がミレニアル世代を中心に単なる「娯楽」に留まらない、国境さえ超えた規模の文化、経済、果ては哲学の支柱になっているからだと思います。調査会社のNewzooは2020年のゲーム市場は約1600億ドルになると試算しており、これは同年の映画市場の約4倍。さらに3年後には2000億ドルを超えるだろうとも論じています。

このように圧巻の経済規模を誇るゲーム市場ですが、当然それだけのお金が動くからには、同様に膨大な人口がこのゲーム市場を構成しているはずです。同じくNewzooによれば、スマートフォンで遊べるモバイルゲームのユーザー数は26億人。コンシューマーも7億3000万人、PCも13億人とこちらも規格外の数字。世界の人口の半数近くはなにがしかゲームを遊んでいることになります。

人口は経済のみならず文化も産出する。私がそう習ったのはかの名作戦略ゲーム『Civilization』シリーズですが、これは疑いようのない事実でしょう。今やこれだけの人間がゲームに関わり、そこから何か経験を経て、何か考えを改め、あるいはその中でコミュニケーションをとる。ゲームは今後間違いなく、文学、映画、音楽などと同じように世界中あらゆる文化の礎となっていくはずです。

前置きが長くなりました。今回あえてゲームにおける「多様性」を論じようというのは、文化的にも経済的にもここまで膨らんだゲームが、一体どのように社会と向き合っているのか考察するうえで、最もトレンディなテーマだからです。

これまで多様性といえば、小説、芸術、映画といった馴染み深いエンタメで表現されるものと考えられてきましたが、今やゲームとてその例外ではないのです。

といっても、今まさに起きている「ブラック・ライブス・マター」に代表される多様性に関する議論が巻き起こる欧米から産まれたゲームばかりが、対象ではありません。むしろここは私たちにとって最も馴染み深い日本の、それも任天堂のゲームから考え始める方が、すんなりと読み込めるでしょう。今回取り上げる作品、それは『あつまれ どうぶつの森』です。

発売3日で188万本の衝撃

任天堂ホームページより

2020年上半期で、最も話題となったゲームといえば、『あつまれ どうぶつの森』を置いて他にないでしょう。実際に遊んだことはないけれど、友達が集めた家具をTwittterで自慢しているのを見たり、YouTubeでプレイ動画を見かけた人もいるはずです。事実、この作品は世界で1200万本、国内で500万本以上も売れたメガヒットタイトルとなりました。Nintendo Switchというハード限定でミリオン(100万本)突破したゲームは数える程ですから、500万本というのは前代未聞の売り上げです。

何より注目すべきは、発売3日の時点で188万本も売れたということ。それだけ発売前から期待していた人が多いということでしょう。しかも『あつまれ どうぶつの森』を遊ぶためのハード「Nintendo Switch」もこの週に40万台を売り上げました。ここまで週間平均5~10万台しか売れていなかった中で、とびぬけた売り上げです。普段ゲームを遊ばない(Switchを持っていない)人が、Switchとソフト合わせて、数万円を出してでも買いたかったわけです。この不況の時代に、なんと気前のいい判断でしょうか。

さてそんな『どうぶつの森』とはどんなゲームか。ご存知の方も多いでしょうが、改めて説明すると無人島を再現した箱庭で、釣りや植樹などを好きに遊びつつ、個性豊かな「どうぶつ」をデフォルメした住人たちと交流する、スローライフゲームといったところ。

ゲームにありがちな「何かと戦い続ける」「何かを目指す」といった戦闘・目標がない代わり、「誰かと仲良くする」「とにかく好きに行動できる」という任天堂らしいユニークなゲームデザインが、「普段ゲームを遊ばないけど、『どうぶつの森』だけはハードを買ってでも遊ぶ」という熱烈なファンがつく理由でしょう。特に女性を中心としたファンが多いのも、こうした個性がポイントだと言えます。

ゲームシステムの時点で、このゲームは既存の枠や人間にとらわれていません。確かに敵を排除したり、一定の数値を追って試行錯誤したりするのも楽しいけど、それ以外の遊びでも「楽しい」と思わせられないか、そういう任天堂なりの独自の工夫、常識へのアンチテーゼが『どうぶつの森』には込められているんですね。

次ページ:コミュニケーションゲームという原点

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